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〈39〉

舞台は久々に《マイムーナ》です。

艦長と副長のお留守番組編。


             ◆       ◆       ◆


 工作艦《マイムーナ》は海軍工廠に回されていた。

 機関長が任を離れたので、移動は操船科による帆装を使った。帆柱に帆を広げて風魔法で推進する昔ながらのやり方である。

 効率は良く、運航費も風魔導士一人分なので低価格だが、万が一にも担当が病気か何か、或いは敵からの攻撃で倒れた場合、にっちもさっちも行かなくなる弱点がある。予備の魔導士が居れば大丈夫なのだが、そんなに沢山の交替要員を雇うのは軍ならともかく、民間では経済的に不可能だし、推進効率の問題もある。

 個人の技量に頼るので、どうしても能力に上下が出来てしまう。

 特に曳船みたいな船は、前進や後退を繰り返すので風での推進が向かず、一定の馬力が必要なので、遂に海軍は蒸気機関を採用したのだが、初期型なので充分な力を発揮しているとは言い難かった。


「頭が痛いな」


 艦長室でヤノ大尉は頭を抱えた。


「今回の修繕は大規模じゃのう」

「缶も取り替えるらしい」


 副長のセイレーンは「ほぅ」と目をつり上げる。船が船渠ドック入りして〝陸に上がった河童〟と化しても、艦長と副長は責任者として乗艦を離れる事は無い。他の乗組員には休暇が出ているのに居残りである。、


「前に電撃を浴びたのが、ここまで影響するとはのぅ」

「あの怪物にお仕置きしてやりたい気分だ」


 せいぜい塗装の塗り直しと失った碇の補充程度だと、高をくくっていたが、まず高価な時計が電磁波なる物を帯びて正常に機能しないのが調査で判明した。

 更にいい加減、使い込まれた機関に老朽化が報告された。艦内の計器類も異常が見られたので、こいつを一新する方向に決定したのだ。


「磁器コンパスが明後日の方向を向いたぞ」

「この船が河船で良かったのぅ」

「洒落になってないぞ」


 大海原で沿岸航行していなかったら遭難確実である。陸も見えない長距離航海をするケースは増えつつあり、海軍も長距離護衛に力を入れている。

 最近は昔の大航海時代みたいに、西大陸へ向けて新天地へ船出する連中が増えた。貧しさから脱出を計るべく、旧大陸から開拓に乗り出しているのだろう。


「しかし、爆雷が設置されるのは朗報じゃ」

「要らん装備かと思ってたが、これであの怪物に対抗出来る」


 水圧で爆発する新兵器だ。今まで人魚みたいな水棲種族かクラーケンの様な対化物用で、河船には縁の遠い存在であったのだが、あの〝ラミア〟のせいで一変した。

 自爆せぬ様にと細心の注意は祓う必要はあるが、これで水中に潜まれてもどうにかなる。


「改装が済むまでに勇者、戻って来るかのぅ」

「機関長に任せてある。最悪、戻って来なくとも宰相閣下は〝気にしない〟そうだ」


 今の《マイムーナ》は宰相府の指揮下にある。当然、勇者カスガも宰相府の管理下だが、その最高責任者がそう断言しているのだ。


「ほぅ、してその理由は?」

「世界に対する影響度が低いからだそうだ」


 宰相曰く、「技術者でも特殊能力者でもない」ので社会に影響を与える要素が余り認められないのだそうである。無論、「監視は必要ですが」とも付け加えたが。


「何か我々の知らぬ技術を持ってるなら、使い出はあるのぅ」

「昔のテラだな」


 数千年前、魔法しか持たぬエルダに技術をもたらしたのがかの英雄。先進すぎて。今では遺失になってしまった物も多いが、これが錬金術の基礎となる。


「製鉄転炉の技術や、電気の知識を持っていれば助かったのにのぅ」


 どちらもエルダで研究中の最先端技術である。鋼鉄の生産効率を上げ、魔力の一種と考えられる新たな動力源の利用法は、工廠でも多くの技術者が知恵を絞っている。


「転移者が、皆、テクノクラートではない証明だな。

 だが、わい・けい・けーの実物が手に入ったのは大きい」


 すくなくとも構造が解析出来れば、コピーも可能になろう。

 問題は精度だ。恐ろしく緻密すぎて手が出そうもない。規格を数桁単位で厳格化して造れる様に進化させないとならない。

 ようやく部品の規格化なる概念が浸透して、部材、そして捻子やナットを規格化した〝エロエロンナ規格〟略してエロ規格を導入した矢先、突き付けられた厳密化だ。

 これで隣の弩砲が壊れても、唐突にポンプの柄が破損したり投石で窓ガラスが割れても、予備部品交換で直ちに修理出来る体制を造り上げ、隣国より優位に立てると自負していたのだが。


「監視か。我々の他に誰かが勇者を見張って居るのか」


 エトナ中尉の声が下がる。

 艦長は頷き、「注目点はそこだな」と彼女に合わせて声のトーンを落とす。機関長は監視役だが、スパイみたいな能力は期待していない。穏当にお目付役に過ぎない。


「海軍諜報部か、宰相府の誰かか」


 うわさでは辺境伯はかなり優秀な間者網を持っているらしいが、


「災難じゃのう」

「勇者がか、それとも宰相か」

「どっちもじゃ。転移なるイレギュラーが起こらなかったら、誰もが平穏無事だったろうに」


 転移者がこの世界に現れるのは天災だと言い切る副長。


「もし、神様が実存するなら皮肉じゃのう」

「神?」

「そんじゅそこらの社に顕現する、地方神とは違うぞよ。世界を司る主神クラスじゃ」


 無論、地方の社に祀られているのも神だ。豊穣を祈願したり、厄災を避ける様に祈りを捧げる存在であるが、主神とは神の持つレベルで格が違う。会社で言うなら、代表取締役とか会長と部長・課長を比べる様な物だ。


「ああ、そう言えばエトナの家系は神職だったな」

「お主もそうであろう?」


 巫女装束に身を包んだヤノへ、皮肉っぽくエトナが指摘する。

 カレン・ヤノ。エトナ・パトラス。どちらも神職の家系である。東方系のヤノの家は皇国の正当なる社の血筋を引いており、砂漠の部族に育ったエトナは、オアシスを護る鎮護の一族で出であった。だから両者共に【聖句】呪文を操れる。

 違うのが艦長が艦医クラスまで魔法を進化させたのに対し、副長のそれは素人に毛の生えた程度しか、【聖句】を使いこなせない事だ。


「神か。介入があったのかと見るのか、副長」


 極彩色のセイレーンを見詰める艦長。腕を広げ、エトナはやれやれと首を振って天を仰ぐと、「気になってる事があるのぅ」と切り出した。


「神という奴は、人智の常識を越えた存在じゃ。これはお主も体験していよう」

「うむ」


 同意するヤノ大尉。実家やその他で神が顕現する現場に立ち会ってるから、それは判る。

 圧倒的な何かを持った存在なのだ。現世のどの様な力とも異なるソースを持った未知の何か。特に【聖句】を有した女性は敏感に察知するらしく、それが神が現れた際に素肌にびりびりと感じられるのだ。


「まやかしだ。気のせいだと一蹴する連中も多いがな」

「一般大衆は殆ど感じられぬからのぉ」


 気の一種だ。だが、皇国的な思想であり、唯物論が広まってる西方世界では受け入れにくいのであろう。もっとも、この二人も錬金術を嗜む海軍工兵なのだが。


「報告書にあった〝ラミア〟との遭遇じゃが、お主は何も感じなかったのかや?」


 この時、エトナ中尉は《マイムーナ》に乗り込んでは居ない。


「いや、特には……指揮を執るのに精一杯だった」

「気になるのは白い人影じゃ」


 勇者が見たとされるそれを指摘する。

 距離が遠かったのか、それとも角度が悪くて視界に入らなかったのか、艦長以下はそれを目にしてはおらず、付け足しの様に勇者の目撃例が記されているだけだ。


「まさか……」



〈続く〉

神様と言うか神族の話です。

多くのファンタジーと同じく、エルダの宗教にも神様はとその力は実在します。巫女自体が【聖句】を操り、皆が普通に恩恵を受けてますしね。「神なぞ居ない!」と否定する人はおりません。もし居たとしたら、狂人扱いされるでしょう。

聖教会の場合、各地の信仰を認めた日本の神道に近い形。ただ西方聖教会はテラ・アキツシマを神聖視して、他の神を下位に見ている感じですが(他の神は、聖人扱いで従属神です)、東方聖教会には立場的な上下がありません。でも強い神は強く、弱い神は弱いって観念はあります。

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