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〈3〉

「~なのじゃ」姫が登場です。

『N96』以来、自分の手でこの口調のキャラを書くとは(笑)。

<3>


 船上にはでかい岩がゴロリと転がっていた。

 ヤシクネーの水兵が脚を鳴らしながら、カタカタと歩き回っているのは船倉に移すか否かを調べているのである。


「質は悪いな」

「城壁には使えませんね。朝一で港へ降ろしましょうか」


 兵達の会話から、どうやら結論は出ている様だ。 

 小艦艇に属する《マイムーナ》は、やはり船体積載量に限りがある為、搭載量を圧迫する様な荷物は余り載せられない。

 まして船倉は手狭の上、領都エロエロンナから歩いて数時間な距離であるにも関わらず、隣町のゴルカまで三日も掛けた理由が、途中の随所随所で測量し、更に危険地帯の土砂を浚渫しゅんせつしていた為である。

 当然、途中で掬い取った土砂は土はともかく、小石混じりの砂利は本船へと収納してある。まだ少し余裕があるが、これからの事を考えると余裕は一切無い。


「砂利回収業者への連絡は?」

「済んでます。あ、副長」


 やって来たのは脚部が鳥脚の海軍士官。魔鳥族(セイレーン)のエトナ中尉である。

 若くて階級も高くないが《マイムーナ》の艦長は大尉だし、船の乗組員総員で三十名も居ないから副長の座に納まっているのだろう。

 古代風のシェンティを身に付け、長い金髪をストレートに降ろしているが、光の具合によっては銀緑色に見える不思議な色彩だ。ちなみに脚部の羽毛は若草色である


「ご苦労。作業は早めに切り上げて夕飯を取るのじゃ」

「はっ」


 敬礼に返答しつつ、手元にカンテラを掲げながら中尉は鎮座している岩を観察する。

 既に日没してから時間が経ち、周囲は次第に闇が濃くなりつつあった。セイレーンである副長は〝鳥目〟と思われがちだが、別に夜間は見えにくくなるだけでヒトとの差は無く、逆に鷹などの猛禽類並みに視力が良く、本艦では望遠鏡要らずの監視員としての名を馳せている。

 だが「いや、それでも夜間飛行は苦手だ。御免被る」と本人は謙遜するが。


「砂岩だのぅ」


 茶色で乾きつつある岩を一瞥すると、その表面を触った感触で副長は断言する。

 触った箇所からぼろぽろと崩れるのは、硬くない砂岩質の特徴だ。この柔らかさから城壁は無論、建物の土台にも使えない。


「これでは売り物になりませんから、砕いて捨てるしかありません」

「砕くのも手間じゃな。港に降ろして引き取って貰うしかあるまい」


 建材として使える岩ならば、そこそこの値段で売買するのも可能だろう。

 しかし、それ以外だと何の価値も無い。河の中へ放置するのも砕かない限りは航行を妨害する単なる邪魔者で、脆いと言っても船底に穴を開けるだけの硬さもあるから、厄介な代物だ。

 かと言って砕くにも労力が掛かる。それまで船上に置いておくのも船のキャパシティから無理だから、この港へ陸揚げして処分して貰うのが最善の方法だった。


「朝一番で、川砂利と一緒に降ろす予定です」

「ん、機関長には私が言っておくのじゃ」


 鮮やかな緑色の羽毛を棚引かせながら、エトナ中尉は船室へと引き上げる。

 吹きさらしのブリッジの下が一段高くなっており、そこにトップデッキが設けられているが、内部は数室ある士官室と航海室、厨房で占められている。

 士官は二人切りなので、多くの部屋は別の目的に転用されている。例えば、倉庫や娼妓室とかだが、幸か不幸か《マイムーナ》には女性兵しかいないので、余り利用される事は無い。


「あ、艦長」

「副長か、今、どうしようか考えていた」


 航海室。海図(今は河川図)が広げられたテーブルの向こうに、和装も美しい艦長のヤノ大尉が座ってた。東方人の血を引く人形的な異国的な情緒に思わず我を忘れてしまう。

 小型艦の狭い私室より、ある程度の広さがあるので航海室は使われる頻度も少なく、士官の溜まり場として使われる事が多い。当然、艦長も副長も任務が無い時にはここにたむろしていた。


「拾った少年の話かや」

「うむ。本来であれば母港へ帰るべきなのだろうが……」

「出港してから、僅か三日じゃからの」


 任務も途中だし、まだ舳先を翻して領都へ戻るのは早すぎる。憲兵か何かに引き渡せれば良いのだが、当分、この先に軍事施設はないし、同じエロエロンナ領でも配下の子爵家や男爵家の封土であるのが多く、現地の治安組織に引き渡すのも躊躇われた。


「只の遭難者では無さそうだが、ずっと寝ているのでは手出しも出来ん」

「所持品じゃな」


 ヤノ大尉は頷いた。

 少年が所持していた工芸品の数々。それは技術者集団である彼女らの目から見ても、異様な代物だった。

 まだ掌の大きさにしか小型化の出来ていない携帯用の時計。だが、少年の手首に填まった時計らしき物、腕時計とでも呼ぶべきだろうかは、今までずっと作動している。


「発見したのは水中だぞ」

「水が入って、浸水するのに動いてるのぉ」

「信じられんが、完璧な防水機能を持っているのか。まさかな」


 今の懐中時計では不可能である。

 元々、時計の小型化はかのビッチ・ビッチン提督のお声掛かりで、半世紀以上掛けて置き時計から進化した物で、まだ防水機能は不完全だ。

 一応、海水に濡れた程度では問題なく作動するが、長時間水に浸ければ壊れてしまうのが、このエルダ世界では普通であった。


「最近はパッキンが進化しておるが……。流石にあれだけ小型化するのはの」


 副長の疑問に艦長は、「とすると、超古代文明の遺失技術か」と顎を撫でて考え込んだ。

 超古代文明は、魔族がこの世に現れる前、ざっと今から一万年もの昔に突如、滅びた謎の高度技術文明だ。

 魔法を利用しない超技術で星船エトロワさえ建造し、遙か彼方の星界をも支配していたと言うが、時折見付かる、遺された遺産がその存在を伝えるだけで、その全体像は判らず、大抵はお伽話として各地に伝承が残るのみだ。


「盗人である可能性もあるが……」

「盗掘者が新たな遺跡を発見したのか。有り得るが、しかし、皇国人が?」

「そこなのだよな」


 彼ら互いには顔を見合わせた。

 未知の不可解な事実が多すぎる。この艦の最高責任者と言っても、二十歳そこそこの若い軍人で、経験も多くない下級士官に過ぎないから、こんな時、どう対処しようか迷ってしまうのだ。

 気楽に測量と、事故を未然する防止だけの清掃作業を行うだけの航海かと思っていたが、どうもイレギュラーな闖入者のお陰で、一波乱有りそうである。



〈続く〉


彼女が帝国(古代王国)風の格好をしているのは、エトナが砂漠民だからです。

領都よりも東のオアシスの民だからなのですが、何時か説明出来たら良いですね。

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