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8.やっと始まった自己紹介

 あまりに衝撃的な初出勤を迎えた俺の自己紹介は、ランニング後に改めて行われることになった。

 今まで剣道で鍛えていたおかげか最後まで走りきることが出来たが、この余りにも理不尽な仕打ちは肉体よりも精神的疲労が大きい。


「何でいきなり俺がこんなめに……」


 自分に非があって罰を受けるならまだしも、今回は完全に巻き込まれた感が強い。

 だって、あの状況で新人の俺にどうしろと? あの場を治められるだけの力なんて俺にはないよ。


「さて、今度こそ全員揃っていますね」


 先ほどの騒動の一番の原因のような気もする林先輩も今は落ち着いたようで、さっきの暴走が嘘かのように、最初の冷静な人物へと戻っていた。

 その林先輩の言葉で、会議の時にでも使うのか室内にある長テーブルを囲むようにみんなが集まってきて、それぞれイスへと座る。

 俺は林先輩に促され、林先輩の横へと移動した。


「ああ。林、始めてくれ」

「わかりました」


 名城さんの言葉に頷くと、林先輩は手にしていた手帳を広げた。

 そして、俺の顔を一度眺めると、眼鏡のフレームを指で軽くあげてから自分も立ったまま話し始める。


「ではまず、こちらが今度このデバイスに配属になった新メンバー・遠藤浩太郎くん、今年の3月に大学を卒業したばかりの22歳。誕生日は12月14日のA型。身長・175㎝、体重……」

「ちょっと林先輩!」

「なんです?」


 慌てて林先輩の言葉を遮った俺に、林先輩は動揺する事無く平然と聞き返してくる。

 いや、最初は俺もおとなしく聞いていた。けど、職場の自己紹介で身長体重を公開するなんて聞いたこともないし。

 その場のノリで「身長いくつ、体重いくつ!よろしくお願いします♪」なんて自分で言うならともかく……と、言っても残念ながら俺はそんなに場を盛り上げようとするほどサービス精神は旺盛ではないけどね。


「そんな細かい紹介はしないでください」


 と、いうか確かに俺の経歴や誕生日は履歴書に書いて警察側へと提出したけど、なぜ、それをメンバーである林先輩が知っているんだろう?

 …………個人情報、大丈夫か? ここって。


「そうですか? 他にも色々とデータがあるんですけど」

「いや……いいですから」

「それは残念です」


 そう言った林先輩は本気で残念がっている様子だ。

 ん? ちょっと待てよ。なんかさらっと聞き流してたけど、林先輩、俺の血液型や身長体重も公開しようとしたよな。

 俺、そんなこと履歴書に書いた覚えないんですけど! そんな情報はいったい、どこから。

 この林先輩の態度からみて、さっきのは冗談でもなく本当に俺の細かい紹介をするつもりだったみたいだし、なんで知ってるの?

 そのことに気づいてしまった俺は、何だか色んな意味で怖さを感じて林先輩の横顔をジッと見つめてしまう。

 見た目としては長髪で女性的な細身のタイプ。男にしては綺麗な顔立ちで女性に見間違うほどだ。動きも喋りも落ち着いていて……あ、さっきの忍くんとの一件以外ではだけど。それでいて、この情報量の多さ……謎な人だな。


「どうしましたか? 遠藤くん」

「あっ、何でもないです!」


 俺の視線に気づいた林先輩にいきなり声をかけられ、俺は慌てて誤魔化し他のメンバーの方へと向き直す。


「新しくメンバーになった遠藤浩太郎です。わからないことが多いですが、よろしくお願いします!」


 一呼吸おいて気持ちを切り替えると、俺はそう言ってしっかりと頭を下げる。体育会系のノリだと言われようが、やはり自己紹介は最初が肝心だからね。


「こちらこそ、よろしく」


 向かい側の方に座っている高さんが笑顔で返してくれた。

 するとハルさんが隣に座る忍くんを右肘で突きながら聞く。


「ついにおチビにも後輩が出来たか~。どんな気分?」

「別に。なんとも思いませんけど」


 忍くんが素っ気なくそう答えると、今度は逆の隣側から手が伸びてきた。


「忍は相変わらずだな」


 言いながら茶髪くんが忍くんの頭をクシャッと撫でつけ、忍くんはムッとしながらそれをやめさせようとするが、茶髪くんは逆に楽しくなっているようで何度も繰り返す。

 そんな二人のやりとりを笑顔で眺めながら、柳さんが林先輩へと聞いた。


「で、このまま新しい順に自己紹介しちゃう?」

「そうですね、初期メンバーは最後にしますか」


 笑顔の柳さんとは対照的になぜか林先輩の表情は不機嫌そうだ。

 そして、そのままイスへと座ったので俺もつられて腰を下ろした。すると、林先輩は忍くんへと声をかける。


「忍くん、あなたからでいいですか?」

「別にいいけど……」


 忍くんが答えると、茶髪くんは素直に忍くんの頭から手を放した。

 忍くんはやっと解放された髪の毛を軽く手で撫で付けて整えると、イスから立ち上がった。


藤森忍(フジモリシノブ)、十二歳、中1。半年前にデバイスに配属」

「おチビは小学生でデバイスに特例配属になったスーパールーキーだもんね」


 忍くんの言葉を、さらにハルさんが付け足して紹介してくれる。


「ボク、誰にも負けるつもりないから」


 強気にそう言いながら忍くんがイスへと座る。その姿はどこにでもいそうな子供だ。

 大きな猫目が少し生意気そうに見えるが、幼さを残すその顔は可愛らしい。

 ゆったりめの服のせいで身体のラインははっきりとはわからないが、そんなに筋肉などもついてなさそうで、どちらかと言えば同世代に比べて身長も低く小柄な方と言える。


「小学生でメンバーに選ばれるなんて、すごいな」


 その頃からクォームと戦っているなんて、いったいこの子はどれだけの実力を秘めているのだろう?

 いつの間にか、忍くんに対して尊敬の眼差しを向けていた俺に林先輩は満面の笑顔で告げてきた。


「遠藤くん、1つ忠告しておきます。忍くんに手を出したら……」


 そこまで言うと、すっと林先輩から笑顔が消え、声のトーンも落ちる。


「ただじゃおきませんよ」

「絶対にないから安心して下さい」


 俺は少々食い気味に即答した。

 そこはしっかりと否定しておかないと俺に中学生の男の子を溺愛する趣味はない。

 そういえば、さっき林先輩が機嫌悪そうだったのって、もしかして茶髪くんが忍くんに構ってたからなんて理由じゃないだろうな。

 ……とにかく林先輩には気をつけよう。変な誤解で恨みを買いたくない。


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