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6.幼稚園……じゃないですよね?

 どうやら俺は複雑な表情で黙り混んでいたようで、それを見た茶髪の子がさすがに悪いと思ったのか慌てて謝ってきた。


「あ~、ごめんなさい。千尋(チヒロ)が張り合うもんだから、必死になっちゃって」

「おい、人のせいにするな」


 すると、千尋と呼ばれた黒髪の子が不機嫌そうな声で文句を言うのに対して、彼もまたムッとした様子で言い返す。


「何だよ、人のせいになんかしてないだろ?」

「だいたい、もとはといえば……」

「は~い、ゆーやんもちぃもストップ! そこまで~!」


 放っておいたらヒートアップしそうな二人の様子をみかねたハルさんが間に入って2人の言い合いを止めた。

 そんなハルさんの後ろでは、さらに興奮した林先輩が2人に詰め寄ろうとしている。


「そうです、そんなことより忍くんは? あなた達を迎えにいってたんでしょう!」

「あっ、忍なら……」

「ああ~、心配です。完治してない身体で出歩くなんて! まさか、どこかで倒れて私に助けを求めていたりはしないでしょうか!」


 茶髪くんの答えを聞く余裕もないのか、林先輩はとても心配した様子で落ち着きなく室内を歩き始めた。


「絶対、してないね」

「また始まった」


 そんな林先輩の姿に柳さんとハルさんはちょっと呆れたような表情をみせている。


「あの~、その人の怪我、そんなにひどいんですか?」


 詳しく聞いていいものかわからず、俺は遠慮がちに2人に質問してみた。

 今までのやり取りから、林先輩はあまり物事に動揺しないタイプだと思ってたんだけど、その林先輩がここまで取り乱すなんてよほどの重傷なんじゃないか?

 デバイスってそんなに危険なところなのかよ。


「ああ、違う違う」


 不安そうな表情から俺の心配を読み取ったハルさんが明るく否定してくれた。


「怪我って言っても……」


 そう言いながら手招きする柳さんに俺は自分の耳を近づけた。

 すると、部屋の自動ドアが開き、誰かが入ってくる。


「今、戻りました」

「忍く~ん、大丈夫でしたか? 誰かに変なことされてませんか?」


 子供のような声が入ってくるなり林先輩がすぐさまその子に駆け寄っていったのを俺は柳さんの説明を聞きながら眺めていた。


「はあ? ちょっと、なんすか、いきなり」


 突然、ペタペタと触ってくる林先輩の手から、迷惑そうにその子供は逃げようとしているが、必死な様子の林先輩からはなかなか解放されないようだ。


「ダメじゃないですか、怪我人が1人で出歩いちゃ。私はもう心配で心配で……」

「あのね、怪我人なんて大袈裟なもんじゃないでしょ」


 今にも泣き出しそうに怪我の心配をしている林先輩に子供は呆れたように反論する。

 だが、それに納得いかない林先輩はいきなりその子の左腕を掴んだ。


「何を言うんです、血が出たんですよ、血が! 立派な怪我じゃないですか。あなたのこの綺麗な肘に傷でも残ったらどうするんです!」

「ちょっと、勝手に腕掴まないでくださいよ。こんな掠り傷くらい、どうってこと……」

「掠り傷~!」


 子供が林先輩の腕を振り払うのと、柳さんから説明を受けていた俺が叫んだのはほぼ同時だった。


「そういうこと」

「この前の戦闘時に肘を掠ったんだよね」


 真実を知って唖然としている俺に、柳さんとハルさんが口々に教えてくれる。


「あんな心配するから、もっと大怪我なのかと思ってましたよ!」


 さっきまでの不安がなくなり、気の抜けた俺は周りに遠慮することも忘れて大声をあげてしまった。


「林が大袈裟なだけなんだよ」


 柳さんの言うことはもっともだ。

 確かに掠り傷なら血はでるかもしれない。だけど、どこの世界に掠り傷程度で倒れて誰かに助けを求める人がいるっていうんだ!

 大袈裟どころのレベルじゃないだろ。


「あれ? あんた……」


 その声に振り返った俺は、初めてその子供の顔を正面から確認することが出来た。


「え……? あっ……」


 改めてちゃんと顔を見ると、そこにはさっき廊下で転んだ俺を鼻で笑って去って行った子供がいた。

 ここにいるってことは、まさかこの子もデバイスのメンバーってことか? どう見ても小学生くらいにしか見えないけど……。

 

「ん、忍もあの人のこと知ってるのか?」

「何ですって?」


 茶髪くんの問いに林先輩がいち早く反応したが、そんな彼を放っておいて、忍くんは答える。


「知ってるというか、さっきこの人が通路で転んでて……」

「遠藤くん、まさか、君、忍くんに優しくしてもらったんじゃないでしょうね?」


 忍くんの説明を最後まで聞かずにそう言った林先輩はいつの間にか俺のすぐ側まで迫ってきていた。しかも、その声は明らかにさっきまでのトーンより下がっていた。

 それに何だか背後からは黒いオーラまで見える気がするんですけど。




        ☆ ※注・林の妄想 ☆




「いてて……」


 浩太郎は誰かに弾かれ、廊下へと倒れた。

 そんな無様に床に転がっている浩太郎の頭上から優しく声がかけられる。


「大丈夫ですか? 怪我とかありませんか?」

「あ、うん、平気」


 そう答えて顔をあげた浩太郎に向って、スッと白魚のような手が差し出された。


「はい」

「え……?」


 差し出された手に驚いて顔を上げた浩太郎に、天使のような忍の笑顔が向けられる。

 そして、忍は浩太郎へと声をかけた。


「手を貸しますから、起き上がれますか?」

「ありがとう」


 そう言って浩太郎は、差し出された忍の手を取った。


「あ……」


 そっと触れ合う浩太郎と忍の手……。

 そして、そのまま見つめ合う二人……。






       ☆ 林の妄想終了 ☆





「なんて、幸せな展開になったんですか!」


 最初の冷静な印象はどこへやら、今の林先輩は黒いオーラを放ちながら俺に詰め寄ってくる。

 顔が綺麗なだけに、とても怖いんですけど。


「なってません! それどころか、鼻で笑われたくらいですよ!」


 俺は必死に訴えた。

 勝手に想像、誤解をされて怒られるなんて冗談じゃない。俺の恋愛対象は至ってノーマルですから!

 俺の訴えに、林先輩はピタッと動きを止めた。


「忍くんに……」

「鼻で……」

「笑われた?」


 柳さん、ハルさんと続いて笑いを堪えながら聞いてくるのに対して俺は自棄になって叫んだ。


「そうですよ!」


 俺は子供にまで雑に扱われるような情けない男なんです。


「男に対して甘い態度をみせない、その警戒心……」


 その嘆きの訴えに納得したのか、林先輩は俺に詰め寄るのを止めると何かを呟き始めた。

 そして……。


「さすがです、私の忍くん!」


 そう叫ぶと両腕を広げ、忍くんへと抱きつこうとする。


「ちょっと、誰があんたのだ!」


 当然、忍くんはその腕をかわそうとするが、それで諦める林先輩ではなかった。


「照れちゃって~」

「照れてない! うわっ、近寄るな!」


 なんとか林先輩の腕から逃れるが、すぐまた捕まり忍くんは抵抗を繰り返している。

 さすがに大人と子供の対格差では彼の方が不利である。



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