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5.ついに本拠地に到着です

 さっきいた廊下から階段で地下へと降り、さらに奥の方にあるエレベーターで上へと上がる。

 一度、地下へ降りるという地味な遠回りを不思議に思っていると、そんな俺の様子に気づいたのか、デバイスの先輩である男性は小さく笑うと説明してくれた。


「デバイスの活動拠点は最上階になります。そこに行くのは、この地下から上がる直通のエレベーターのみです。一応、極秘の部隊ですからね、一般人が簡単に迷い込まないような対策ですよ」


 確かに余程のことがない限り、地下のあんなところにあるエレベーターの存在なんて気づかないだろう。


「じゃあ、今までに迷い込んだ人はいないんですか?」

「いませんね。そもそも、このエレベーターはメンバーが持つIDカードをかざさないと階数が押せないしくみになっています」


 そういうと先輩は自分の持っていたIDカードを俺へと見せてくれた。

 それは免許証くらいのサイズで、証明写真と名前、それからQRコードが記載されているシンプルなものだった。

 林義次(ハヤシヨシツグ)……これがこの人の名前なんだ。中性的な見た目の割に、名前は意外と男らしいんだな。


「後でこれ用に君の写真も撮りますんで」

「わかりました」


 俺が返事をすると、ちょうどエレベーターが最上階へと着いたようだ。

 開いた先に続く廊下を真っ直ぐ奥まで進むと、林先輩は正面のドアの前で足を止めた。

 そして、さっきのIDカードを壁へとかざすと、次の瞬間、目の前の自動ドアが左右に開く。


「遅くなりました」


 そう言いながら中に入っていく林先輩に続いて、俺も緊張しながら中へと入る。

 どうやらここがデバイスのメンバー達がいる部屋のようで、中には2人の姿が見えた。


「あっ、来た」


 そのうちの1人がこちらに気づき、その声で隣りに座っていた女の子も視線をよこした。


「遅いよ、よっしー」


 その女の子は少し膨れながらそう言った。予定より2時間以上も待たされれば、文句の1つも言いたくなるだろう。


「すみません、おもしろいデータが採れそうだったもので」


 言葉では謝っているが、この態度からしてあまり林先輩は反省していないように思える。


「林の悪い癖が始まったね」


 最初に俺達に気づいた女の子がクスッと笑いながらそう言った。

 あれ、何だろう? この笑い方、どこかで聞いたことがあるような……。

 そう思って記憶を探ろうとした俺だったが、それは自分の趣味(?)を否定されたことに少しムッとした林先輩の言葉で中断されてしまった。


「悪い癖とはひどいですね、(ヤナギ)。データ収集は大事ですよ。それであなた達だって助かっているじゃないですか」


 言いながら林先輩が2人の方へと歩いていくので、俺も慌ててその後を付いていく。


「確かにね」


 さっきまで膨れていた女の子はもう機嫌が直ったのか、そう答えながらも視線は林先輩の後ろにいる俺へと向けられている。

 あからさまに好奇心の目を向けられているのだが、嫌な感じはしない。きっと、それはこの女の子が純粋な目をしているからだろう。

 例えるなら、子供が新しいオモチャを見つけたような澄んだ目だった。


「よっしー、その人が新しいメンバー?」

「ハル。詳しい紹介は全員揃ってからでしょ」


 ワクワクとした様子で林先輩へと質問する女の子に、先ほど柳と呼ばれた女の子がそう言って注意する。

 俺がここで返事をしたらハルさんからの質問攻めにあいそうで、俺はとりあえず黙って頭を下げて挨拶した。

 それにしても……本当に女の子のメンバーもいるんだな。

 俺は失礼にならない程度にジッと2人を見つめてしまった。

 だって、秘密特殊部隊なんて言うから、もっとこう自衛隊みたいな体育会系を想像していたのに、林先輩といいこの2人といい、本当にクォームと戦ってるの?と、思うくらいに線が細い。

 ハルさんは表情豊かで可愛らしい印象で、柳さんは優雅な雰囲気で美人といったところだろう。

 女性の見た目年齢って俺はよくわからないけど、きっと2人とも若いはずだ。俺と同じ、もしくは俺よりも年下かもしれない。


「他の人達はどうしました?」

「林の帰りが遅いから、名城(ナシロ)(タカ)さんが下に確認に行ったの」


 室内を見渡しながら聞いた林先輩に、柳さんが少し呆れたように答えた。


「それから、ゆーやんとちぃが訓練ルームに行ってるよ」


 続いてハルさんが、元気に説明を補足する。


「また、いつものですか……まったく、仕方ない子達ですね」


 やれやれ、といった表情で林先輩はそう言ったが、特に怒っているわけでもないようだ。

 そして、それは2人も同じらしく、柳さんはゆったりとした様子でお茶を飲んでいるし、ハルさんもニコニコと笑っている。

 それにしても、なんだか一気に色々な名前が出てきたけど、それが他のメンバーのことだよな。俺、ちゃんと顔と名前、覚えられるかな。


「配属以来の恒例だしね」

「そして、藤森(フジモリ)がそれを迎えに行ってる」


 ハルさんの説明を補うように、柳さんがカップから口を離して言葉を続けた。

 あ、また1人名前が増えた……と、思った次の瞬間。


「何ですって、なんで(シノブ)くんを1人で行かせるんですか!」


 突然の林先輩の大声に、俺は驚いて林先輩に目を向けた。

 さっきまでの何事にも動じない穏やかな彼の喋りからは想像がつかなかったのだ。


「何で1人でって……建物内から出てるわけじゃないんだから」


 だが、他のみんなは慣れているようで、林先輩の言葉に驚く様子も見せずに落ち着いている。


「柳、そういう問題じゃないです、あの子の怪我はまだ完治してないんですよ!」

「よっしー、怪我って言っても、おチビのは……」


 さらに声を荒げて迫る林先輩に、ハルさんがそう言いかけた時だった。


「遅くなりました!」

「すみません!」


 部屋の自動ドアが開くと同時に、そう言いながら男の子が2人勢い良く駆け込んできた。

 その見覚えのある黒髪と茶髪の2人組に、俺はつい大声を出してしまう。


「ああーっ、君達!」

「何、2人と知り合いなの?」


 俺の驚いた反応に、柳さんが俺と彼らを見比べながら聞いてくる。

 知り合いなんて和やかなものじゃない。俺はこの2人に派手に廊下で轢かれたんだから。

 いや、本当にあれは交通事故って言っていいレベルだと思う。


「へ……?」


 しかし、そのシンメトリーコンビは、外見とは真逆にまたもや2人見事に揃って何のことだかわからない、といった感じである。

 確かにあの時の様子じゃ、俺の顔なんて確認もしてなかっただろうな。


「……さっき、下の廊下で君達にはじき飛ばされたんだけどね……約2時間前に」


 思い出してもらうことを諦めて、俺は大きなため息とともに自分達の出会いを説明した。


「えっ」


 俺の言葉に2人は驚いた表情をしている。

 これは完全に気づいてなかったようだな。う~ん、この場合の怒りはいったいどこに向けるべきなんだ?

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