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4.衝撃的な初対面

「なんでこうなっちゃったんだろう」


 俺はそう言いながら、改めて大きくため息を吐いた。

 本来なら今日から俺はカフェでの研修を受けていたはずなのに、それがどこをどう間違えたら、命懸けの研修を受けなきゃいけない状況になるんだ? 素人にクォームとの戦闘なんて、本当に出来るのか?

 そんな不安でいっぱいの新生活を送ろうとしている俺だったが、少しはいいこともあり、いきなり就職を辞退した俺の事情を読んでくれたカフェの店長が、俺をバイトとして引き続き雇ってくれることになったのだ。

 後日送られてきた偽装用の事務員任命書を素直に信じてくれた店長のためにも、俺はカフェのバイトとデバイスを両立させることを決めた。

 だからこそ、下手に怪我なんて出来ないよな。事務員として警察に呼ばれてるのに、頻繁に大怪我なんてしたら……どんな事務だよ。そうなったら、俺の家族にだって隠し通せるわけがない。

 デバイス……隠し事ばっかりで何だか胃が痛くなりそうな職場だ。そもそも、今のこの状態が一番、意味がわからない。そう……。


「2時間経っても、誰も迎えにこないじゃないか~!」


 俺は耐え切れずに、そう叫んでいた。

 最後に子どもに俺が鼻で笑われてから、すでに2時間以上が経とうとしているが、誰も声をかけてくる者はいない。

 それどころか、あれ以来、人すら通らないのだ。

 最初の緊張は1時間後に怒りになり、1時間半後には不安に変わり、2時間以上たった今は、逆に落ち着いてしまった。

 デバイスのことを極秘にしなければならない以上、俺は相手が来るのをおとなしく待っているしか方法がないのだ。


「……ほんと、デバイスってどんなところなんだよ?」


 俺が諦めにも近い気持ちでそう呟くと、それに対しての返事がきた。


「デバイスについて知りたいんですか?」

「……え?」


 突然話しかけられ俺が声の方を向くと、そこには眼鏡をかけた長髪の人物が、優しそうな笑顔で立っていた。

 誰だ? この人……男? だよなぁ。

 あまりにも綺麗という言葉が似合うので、一瞬女性かとも思ったが自分よりも高い身長や、身体付きなどから男性だとわかる。

 よく見るとその身体付きは中性的ではあるが、決して女性の持つラインではない。


「デバイスの何が知りたいんですか?」


 そう言いながら、その人は俺へと近づいてくる。


「えっと……まあ、どんな組織でどんなメンバーがいるのか……とか?」


 今まで、あれほど極秘と言われていたデバイスの名前が出て来たことや、この人の持つ雰囲気に戸惑いながら俺は答えた。


「組織自体はかなり前からあったみたいですよ、一般人が知らないだけで。それを最近、表舞台に出すかどうかって話し合いが進んでいるようです」

「へ~、そうなんですか?」


 初めて聞くデバイスの新たな情報に、つい俺は興味を持ってしまう。


「ええ、だから色々と大変なんですよ」


 男性は苦笑しながら、そう答えた。


『表舞台に出す』


 つまりは今までみたいな極秘ではなく、一般人にその存在を公表するということなのだろう。

 徹底して隠されていた存在だけに、それが明かされるとなると一騒動起こるであろうことは、素人の俺でさえわかる。

 確かに簡単に決断出来ることではないだろう。


「メンバーって何人くらいなんですかね?」


 俺がデバイスに入るということは、これからそのメンバー達とうまくやっていかねばならないのだ。

 この前の電話では俺だけにしか任命書は届いていなかったみたいだし、同期といった仲間はいなく、全員が俺の先輩と言うことになるのだろう。

 この人がそこまで知っているかわからなかったが、とりあえず俺は気になっていた質問をしてみる。


「現在、男女合わせて計8名」


 俺の心配をよそに、男性は質問に答えてくれた。


「その8名でクォームについて調べ、対策を練り、戦っています」

「えっ、8人で?」


 さらに続いた彼の言葉は俺にとって意外なことだった。

 デバイスとは警察内部からの指示により戦うチームだと思っていたのだが、今の話からすると警察からは独立して動いている組織のような気がする。


「もっといると思ってましたか?」


 俺が素直に驚くと、男性はクスッと笑みをこぼしてそう聞いてきた。


「あ、いや、俺、デバイスってクォームと戦うだけかと思ってたんです。まさか情報収集から、全部を自分達でやってるとは」


 この人に笑われたことが意味もなく恥ずかしくなり、俺は慌てて誤魔化すように言葉を続けた。


「だから、8人だと正直人材が少ないんです。かといって、誰でもかれでもメンバーに入れるわけにもいかないですからね」

「そうなんですか?」


 人と比べて、特に一脱した能力があるわけではない俺が選ばれたくらいなのだから、そんなに厳しい審査があるとも思えないんだけどな。


「ええ。能力も当然必要ですけど、なんせ個性的なメンバーが集まっていますからね、精神的にも強くないとやっていけないと思います」

「ええっ!」


 ずっと運動部に所属していたので、体力的にはそこそこの自信があるものの、精神力ともなると自分では判断しにくい。

 しかも、精神的に強くないとやっていけないようなメンバーとは、いったいどんな人達なのだろうか。


「俺、そんなところでやっていけるのかな」


 つい無意識のうちに、そんな言葉が俺の口からこぼれてしまった。

 自分がデバイスのメンバーになることを明かしてしまい、まずい、と一瞬、心配になったが、男性もそこまで深く気にとめなかったのか、そのことに対しては何も聞かれなかった。


「大丈夫、メンバー候補のデータは完璧ですから。その中から分析して、身体能力・精神力ともに合格ラインを超えた者のみがメンバーに選出される。この計算に間違いはないですよ」

「へぇ~、そういう選考方法だったんだ」


 一体、どこから自分のそんなデータを手に入れたのか、気になるところではあったが、目の前のこの人があまりにも自信あり気に言うもので、俺は聞き入ってしまった。


「それにしても、デバイスのことに詳しいんですね。他の人に聞いても何もわからなかったのに」


 謎だらけの部隊といわれているデバイスの情報が次々と明かされていくことに感心しながら、俺は相手に尊敬の眼差しを向けた。

 だが、彼の次の言葉により、その尊敬も一瞬で終わることとなる。


「ああ、だって、私……デバイスのメンバーですから」

「……え?」


 今、なんて言った?

 なんでもないことかのように笑顔でさらっと言われ、俺の思考が一瞬止まった。


「遠藤浩太郎くん……君を迎えに来たデバイスのメンバー」


 唖然としている俺に、再度、彼は説明する。


「ちょっと、それを早く言ってくださいよ! 俺、2時間以上も前から、ここで待ってたんですよ」


 ワンテンポ遅れて、意味を理解した俺は必死に訴えた。

 この人がデバイスのメンバーならデバイス内部に詳しいのも当然だし、それよりも迎えが2時間以上も遅れた理由を説明して欲しい。

 こんな場所に1人で待たされ、どれだけ不安だったか……。

 だが、俺のそんな気持ちは、彼にはまったく伝わっていなかったようだ。


「知っていますよ。その待ち合わせ時間ちょうどから、ずっと観ていましたから」

「……は?」


 ずっと観ていた……? 俺のことを? 2時間も?

 あまりにも意味不明な内容に、俺のさっきまでの訴えはどこかへ消え去ってしまった。


「君は独り言を口に出す癖があるようですね、なかなか楽しませてもらいましたよ」


 俺とは反対に、目の前の不可思議な男性は楽しそうだ。

 2時間も素直に待っていた俺も俺だが、この人はそんな自分のことを2時間も飽きずに観察していたと言うのか?


「…………」

「じゃあ、他のメンバー達も待っていると思うんで行きましょうか」


 呆れて何も言えずにいる俺を気にすることもなく、彼はそう言うとその場から歩き出した。


「……はい」


 意見する気力もなく、俺は彼について歩き出す。


「あっ、そうそう」

「何ですか?」


 急に何かを思い出して立ち止まった彼につられて、俺も足をとめた。

 すると、彼は振り返り、笑顔で言ったのだった。


「遠藤くん……いいデータをありがとう」

「……いえ、どういたしまして……」


 悪びれる様子もなく、相変わらずの綺麗な笑顔でそう告げるこの人に、俺はもうこれ以上何かを言うのは諦め、うな垂れた。

 デバイスって組織、大丈夫なのか~?


『デバイスのメンバーは曲者揃い』


 俺はこの言葉を、身を持って知ったのだった……。





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