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八話

 陸との出会いは一年生の秋だった。


 バイトを夏に始め、少しずつ学生生活にも慣れたころに出会った。


 最初に話したことはよく覚えていないが、体育の時間だった。


 身体測定で一緒になり、それから少しづつ会話をするようになった。


 二年生になってからは、一緒に授業に出ることも多々あり、大学生らしい、過去問を使った効率的な勉強をすることができた。


 二十歳になった時は一緒に酒を飲んだりもした。酒は苦く俺の口には合わなく、それ以来飲んでいない。


 一度だけ、俺の部屋に読んだことがあったが、急に体調を崩し、帰ってしまった。そのことが今につながった。


 陸が咲のことに惹かれていたことには俺自身あまり驚かなかった。


 二年生の夏、一度だけ一緒に旅行に行った。言った場所は鳥取砂丘。本当に砂しかなく、次の日は筋肉痛だったことは昨日のことのように覚えている。


 俺と話している時も、たびたび咲の方に目線が移ることもあったことはよく覚えている。


 けれど、俺と咲が一緒にいるところを見る様子は俺には見ることができない。


 その時彼が何を考えていたのかは俺には分からなかった。


 だからこんなことになってしまったのだろう。






 周りの人は俺たちをずっと見ている。店員も客も、これから入ろうとする客も。


 決定的な証拠はなかった。いつ空き巣に入ったのかは知らない。けれど、俺の部屋は右隣が咲の部屋で、もう方の部屋は今も空いている。


 そんなことを冷静に考えていなかった。もしかすれば、違ったかもしれない。


 俺は冷静になって、全てのことを思い出す。


 俺の目の前で泣く咲き、部屋はぐちゃぐちゃに荒らされ、床は土塗れ。これが都会というものと再認識したあの事件は俺たちにとって恐怖でしかなかった。


 咲は夏休みの間、ずっと田舎で心を落ち着かせ、秋にやっと大学に戻ってきた。


 その原因は陸だった。その事実はどうあがいても変わらなかった。


 殴った右手はすごく痛い。ただ、痛いだけでなく、裏切られた痛みがあった。ずっと信頼していた。こいつなら、信頼ができると思っていた。それなのに、この仕打ちはあんまりだ。


 俺の目からは自然に涙が一滴流れた。


「何す……」


 最初は乱暴な口調だった。けれど、「す」ですべてを陸は悟った。


「俺の目の前で、泣いた女がいた」


 強く、彼の胸の奥に響く言葉をかけた。彼とは友達であったが、その関係はすでに終わりを告げていた。


「なんだよ……それ……」


 納得できない理不尽が陸を覆った。そんなことはあってほしくない。そう思ったとしても、起こしてしまった犯罪は一生消えない。


「金、置いておくぞ」


 俺はこれ以上、ここに居たくなかった。ほかの人全員から注目されているからではなく、咲の心を傷つけたやつと一緒に居ることが嫌で仕方がなかった。


 俺が立ち去ろうとした時、彼は叫んだ。


「なら、俺は!どうすれば……」


 ほとんど泣いているような声だった。


「このまま一生俺たちの前に現れることなく過ごすか、咲に罪を告白するか、罪を隠して、咲に告白するかだ」


 最後のことをすれば、陸は崩壊する。それを分かって俺は言った。


 陸はいいやつだった。それは最後まで変わらない。けれど、一回だけ、間違えていしまった。その間違えで、最初からすべてが狂ってしまった。それを修正する術は誰も持たない。誰もその狂ったことを修正することは、時間に反逆しない限り、到達できない不可能の塊だ。


 その後、俺は何も言わず、彼のもとを去った。この先、彼と会う事は二度とないだろう。俺にはそんな気がした。

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