表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

七話

 次の日、チャットアプリで陸から連絡があった。


 どうやら今日も夏休みのことで話したいと、学校近くのカフェに来るようにと伝えられた。


 俺は部屋に来いよ。と打ち込んだが、どうやら一杯奢ってくれるらしく、俺はカフェに向かうことにした。


 咲はテストから解放されたのか、朝から近くのショッピングセンターに行き、何かを買いに行っていた。その顔はとてもうれしそうで、一緒についていこうと思った矢先にこのチャットが飛んできた。


 大学に行くときに着る服を身にまとい、指定された場所まで地下鉄を乗り継ぎ向かう。三十分ぐらいで着いたため、指定時刻よりは十分ほど早かったが、それでも陸は入り口で待っていた。


「おーす、早いな」


「ああ、そうだな」


 いつもの陸からは想像もつかないほど真剣な顔つきをしていた。いつもおちゃらけて、俺たちを笑わす陸はどこかへ行ってしまったのだろうか。


 店員に案内され、窓際の二人席に座ると、メニューを見た。


 俺はどうもカフェというものが苦手だ。喫茶店とは違い落ち着いた雰囲気があるわけでもなければ、特別おいしいコーヒーが出るわけでもない。無駄にカロリーまで記載された、ぼったくり値段のアイスコーヒーに決めた。


「陸決めたか?」


「う~ん、まだ……」


 数ページしかないメニューをじっくりと見つめる陸。


 俺はどうして陸がここまで悩めるのかが不思議だった。コーヒーならば、ある程度のコクや香りは想像できる。美味しいお店ならば、ブレンドに拘り、いい香りとコクのコーヒーが出てくる。コーヒーだけで、店のレベルが想像つく。


 だが、カフェではそれが通じない。横文字で書かれたメニューを見て最初俺は困惑した。デリシャスやデンジャラスやら、全く味が想像できないメニューを見ても味が想像できず、わざわざ頼もうとは考えない。


「決まった。店員さん」


 陸が呼ぶと、注文を始めた。


「この、デリシャスグレープフルーツスペシャルを一つ」


 一瞬顔が引きずったが、俺も注文した。


「コーヒーで」


「アイスにされますか、ホットにされますか?」


 この暑さでホットを頼む人はいない、などと無粋なことは言わず、


「アイスでお願いします」


「以上でよろしいですか?」


「大丈夫です」


 店員さんがレジの方に戻ると、陸が話し始めた。


「早速本題でいいか?」


「俺は準備できている」


 チャットがあってから、咲のこととは予想がついている。


「――俺が、咲ちゃんに告白してもいいんだな」


「別にいいよ」


 俺は即答だった。別に俺は咲のことが好きなわけではない。あいつに彼氏ができるならそれでもかまわない。重い話はこれで終わりだと思っていた。この後は夏の旅行のどこで告白するか、などと言った初々しい話が続くと思っていた。


「なあ、俺が奨学金を借りてるのは知ってるよな」


「ああ、知ってるよ」


 少し前に見てしまった奨学金申請の書類をもらうところ。そこからこいつが借りているのは予想できていた。


「バイトで夜勤してるのも知ってる」


 たまに眠そうに学校に来ていることがあり、少し聞いたときにチェーン店でアルバイトをしていることを聞いた。


「なら、俺の家が金持っていないこともわかるよな……」


 なんとなくは分かる。奨学金で大学に行っているならば、少しでも借金を軽くするため、働かなければいけない。その点に関しては素直に尊敬する。


「――なあ、陽介は……罪を犯したことがあるか?」


 その一言ですべてが変わった気がした。


 気がするだけで、具体的には分からない。けれど、これ以上踏み込めば、全てが壊れてしまうような予感がした。


 けれど、やめることなどできなかった。


「ない、と思う」


 犯罪の中でもポイ捨てはかなり軽い罪だと思う。決して行っていものだが、もしかすれば、どこかで犯してしまっているのかもしれない。だから絶対にないとは言い切れない。


「そう、だよな……俺、一回だけあるんだ」


 内容による。内容によっては軽蔑してしまうかもしれない。けれど、ポイ捨てなら、俺もしたかもしれない。それなら俺も許すことはできるだろう。


「なに、やったんだ……」


「空き巣だ……」

 

 最悪だ。俺がもっとも嫌う犯罪だった。身近に起こったことだったから嫌なんだ。


 俺は言葉を失った。


「一回、お前のマンション行ったことあっただろ。お前の部屋の隣なんだ……」


 自然に右手に力が入り、握りしめ、震え、感情が抑えられず、自然と陸の顔を殴っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ