七話
次の日、チャットアプリで陸から連絡があった。
どうやら今日も夏休みのことで話したいと、学校近くのカフェに来るようにと伝えられた。
俺は部屋に来いよ。と打ち込んだが、どうやら一杯奢ってくれるらしく、俺はカフェに向かうことにした。
咲はテストから解放されたのか、朝から近くのショッピングセンターに行き、何かを買いに行っていた。その顔はとてもうれしそうで、一緒についていこうと思った矢先にこのチャットが飛んできた。
大学に行くときに着る服を身にまとい、指定された場所まで地下鉄を乗り継ぎ向かう。三十分ぐらいで着いたため、指定時刻よりは十分ほど早かったが、それでも陸は入り口で待っていた。
「おーす、早いな」
「ああ、そうだな」
いつもの陸からは想像もつかないほど真剣な顔つきをしていた。いつもおちゃらけて、俺たちを笑わす陸はどこかへ行ってしまったのだろうか。
店員に案内され、窓際の二人席に座ると、メニューを見た。
俺はどうもカフェというものが苦手だ。喫茶店とは違い落ち着いた雰囲気があるわけでもなければ、特別おいしいコーヒーが出るわけでもない。無駄にカロリーまで記載された、ぼったくり値段のアイスコーヒーに決めた。
「陸決めたか?」
「う~ん、まだ……」
数ページしかないメニューをじっくりと見つめる陸。
俺はどうして陸がここまで悩めるのかが不思議だった。コーヒーならば、ある程度のコクや香りは想像できる。美味しいお店ならば、ブレンドに拘り、いい香りとコクのコーヒーが出てくる。コーヒーだけで、店のレベルが想像つく。
だが、カフェではそれが通じない。横文字で書かれたメニューを見て最初俺は困惑した。デリシャスやデンジャラスやら、全く味が想像できないメニューを見ても味が想像できず、わざわざ頼もうとは考えない。
「決まった。店員さん」
陸が呼ぶと、注文を始めた。
「この、デリシャスグレープフルーツスペシャルを一つ」
一瞬顔が引きずったが、俺も注文した。
「コーヒーで」
「アイスにされますか、ホットにされますか?」
この暑さでホットを頼む人はいない、などと無粋なことは言わず、
「アイスでお願いします」
「以上でよろしいですか?」
「大丈夫です」
店員さんがレジの方に戻ると、陸が話し始めた。
「早速本題でいいか?」
「俺は準備できている」
チャットがあってから、咲のこととは予想がついている。
「――俺が、咲ちゃんに告白してもいいんだな」
「別にいいよ」
俺は即答だった。別に俺は咲のことが好きなわけではない。あいつに彼氏ができるならそれでもかまわない。重い話はこれで終わりだと思っていた。この後は夏の旅行のどこで告白するか、などと言った初々しい話が続くと思っていた。
「なあ、俺が奨学金を借りてるのは知ってるよな」
「ああ、知ってるよ」
少し前に見てしまった奨学金申請の書類をもらうところ。そこからこいつが借りているのは予想できていた。
「バイトで夜勤してるのも知ってる」
たまに眠そうに学校に来ていることがあり、少し聞いたときにチェーン店でアルバイトをしていることを聞いた。
「なら、俺の家が金持っていないこともわかるよな……」
なんとなくは分かる。奨学金で大学に行っているならば、少しでも借金を軽くするため、働かなければいけない。その点に関しては素直に尊敬する。
「――なあ、陽介は……罪を犯したことがあるか?」
その一言ですべてが変わった気がした。
気がするだけで、具体的には分からない。けれど、これ以上踏み込めば、全てが壊れてしまうような予感がした。
けれど、やめることなどできなかった。
「ない、と思う」
犯罪の中でもポイ捨てはかなり軽い罪だと思う。決して行っていものだが、もしかすれば、どこかで犯してしまっているのかもしれない。だから絶対にないとは言い切れない。
「そう、だよな……俺、一回だけあるんだ」
内容による。内容によっては軽蔑してしまうかもしれない。けれど、ポイ捨てなら、俺もしたかもしれない。それなら俺も許すことはできるだろう。
「なに、やったんだ……」
「空き巣だ……」
最悪だ。俺がもっとも嫌う犯罪だった。身近に起こったことだったから嫌なんだ。
俺は言葉を失った。
「一回、お前のマンション行ったことあっただろ。お前の部屋の隣なんだ……」
自然に右手に力が入り、握りしめ、震え、感情が抑えられず、自然と陸の顔を殴っていた。