F 金曜日の返事
F 金曜日の返事
七月十八日。曇ときどき晴。告白され、恋仲になった。
*
――今日は一学期の終業式。成績は、体育を除いてまずまずの結果だった。
「なんで、晴海が一緒なんだ? しかも、そいつらは何だ?」
半袖の開襟シャツを着た少年が、両脇に鶏と兎を抱えている安倍に疑問をぶつけた。
――手紙の返事に来たのに、私以外に一人と二羽がいたら、頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになるか。事情を知らないものね。
「いいから、いいから。私らのことは気にしないで、さっさと小夜子に返事しなさい」
安倍は、脇をギュッと締めつつ、朗らかに少年へ言った。
――安倍さんに「一言でも喋ったら、今晩の鍋にする」とか何とか脅されたせいか、ピーターもウォルフも、心なしか青ざめて見える。そんなことは、さておき。
「手紙、読んでもらえたんですね」
小夜子が俯き加減に顔を赤くしながら言うと、少年は、爽やかな笑顔を浮かべつつ、指で頬を掻きながら言う。
「あぁ、読ませてもらったよ。恥ずかしい話だけど、山下に、そんな風に思われてるなんて知らなかったからさ。ちょっと、びっくりした」
「そんな話は、後回し。結論を先に言いな、隼人」
痺れを切らしたように苛立たしげに安倍が言うと、少年はチラッと安倍のほうを向いて不機嫌そうに言ってから、はにかみながら小夜子に言う。
「ムードを台無しにする外野だな。――明日の夏祭り、一緒に行きませんか?」
「それって、つまり?」
小夜子が顔を上げ、戸惑いながら言うと、少年は照れくさそうに言う。
「デートのお誘いだよ。遠回しすぎたかな?」
――嬉しい。夢みたい。
小夜子と少年が無言で見つめ合っているところへ、安倍がゴホンと咳払いを一つしてから声をかける。
「あぁ、二人とも。ここが学校ってことを忘れてないだろうね?」
小夜子と少年は、ハッと目が覚めたような表情をすると、名残惜しそうに言う。
「それじゃあ、俺は、練習に戻るよ。また、明日」
「あっ、うん」
少年は、グラウンドのほうへと走り去る。小夜子は、その後ろ姿を惚れ惚れと眺めている。その側で、二羽と安倍が言う。
「やれやれ。計画が失敗とあっては、局に戻りたくないものだな」
「所詮、無理のある計画じゃないか。いい加減、懲りろよ」
「あんたたち、これで用が済んだんだろう? とっとと未来に帰らないと、しめるよ」
安倍の眼が据わっているのを見て、鶏と兎は脇をすり抜け、脱兎の勢いで一目散に駆け出す。
――兎さんたちとは、これでお別れかしら。未来を変えてくれてありがとう、ピーター。