E 木曜日の和解
E 木曜日の和解
七月十七日。雨のち曇。友だちができ、恋路を応援された。
*
――風邪を引いた。私は馬鹿なのだろうか?
小夜子の思考がデフレスパイラルのごとくマイナス方向へ渦巻き始めたとき、トントンと部屋のドアをノックする音が聞こえる。
――誰だろう。お母さんはパートに出てるし、兎はクローゼットの中だ。
小夜子は、フラフラと覚束ない足取りでドアに向かい、ノブを握って四十五度ほど開ける。廊下には、安倍がバツの悪い顔をしながら、スクールバッグとレジ袋を持って立っている。
「あっ、安倍さん。まぁ、どうぞ」
小夜子は、無理に営業スマイルを浮かべつつ、ドアを九十度まで開き、招き入れる。安倍は、昨日までとはうって変わった低姿勢で部屋に入る。
「邪魔するよ」
小夜子はドアを閉めると、部屋の隅から畳んで置いてあるローテーブルを引き出そうとするが、安倍は素早くそれを制して言う。
「今日は、見舞いに来たんだ。構わなくて良いから、大人しく寝てろ」
「えっ、でも」
「いいから、ベッドに横になれ」
小夜子は、安倍に背中を押されながらベッドに誘導され、そのままタオルケットに包まる。
――朝からずっと寝てばかりだから、もう眠くないんだけどなぁ。
*
――お皿の上には、安倍さんが持ってきた林檎が、八ッ切りで兎型に剥かれて並んでいる。
「意外と家庭的なのね、安倍さん」
小夜子が感心して言うと、安倍は少々恥ずかしげに照れながら言う。
「まぁね。家では、小学生の妹と幼稚園児の弟の面倒を看てるから。――あっ。このことは、クラスのみんなには内緒だからな」
「はいはい。友だちだもんね」
小夜子は、どこか楽しげに言った。
――雨降って地固まるとでも言おうか。私と安倍さんは、友人関係を結ぶことにしたのだ。
安倍は、八つ目の林檎を剥き終わると、ナイフを皿の端に置き、静かに語る。
「隼人のことは、幼稚園に通う前からよく知ってるんだ。ドジだし、泣き虫で頼りないところも無くはないけど、素直で明るくて、優しい奴だよ。私と一緒に居るせいか、気の強いタイプから言い寄られることが多いけど、本音では、あんたみたいに大人しい子がタイプらしい。まだ返事が無いのは、きっと、真剣に悩んでるからだ。だから、安心しろ」
そう言うと、安倍は小夜子の頭をワシワシと撫で、歯を見せてニッコリと笑顔になる。小夜子も、その笑顔につられるようにして、上品な笑みを浮かべる。
――態度は粗野だけど、仲間を大事にする義理堅い性格なのね。見た目で判断して、損しちゃってたわ。