D 水曜日の呼び出し
D 水曜日の呼び出し
七月十六日。曇ところにより雷雨。兎と鶏が決闘した。
*
――えーっと。私も、まだ状況がうまく飲み込めて無いんだけど、とりあえず、放課後に起きたことを順番に説明してみるわ。まず、屋上で待っていたのは、安倍さんと鶏だった。そして、鶏と兎は天敵同士だった。
「さては貴様、時空警察官だな?」
「そういう君は、統合計画員だろう?」
――……うん。正直、この時点で、私は深く考えるのをやめたわ。二人、いや二羽が言うことには、安倍さんが池田くんに告白した先に、統合計画局にとって都合が良い未来があって、私が池田くんに告白した先に、時空警察署にとって素晴らしい未来があるらしい。
「ここは、いつものアレで決着をつけるか、万年発情野郎」
「望むところだ。今度も負けないからな、早起きジジイ」
――それで、一人と一羽同士で勝負することになったんだけど、これが、すごーく意外な対決だったの。
「古今東西、日本の元号!」
――平成、明治、寛永、建武、大化なんて順番に言いながら、二周くらいは二対二でやってたんだけど、私は歴女じゃないし、安倍さんも普通のギャルだから、五周目くらいからは一対一になって、現在に到る。
「天平感宝!」
――兎が楽々と自信たっぷりに言えば。
「う~む、天平勝宝」
――鶏が苦しげに悩みながら言う。
「天平宝字!」
「あぁ、天平神護」
――盛り上がってる二羽と反比例して、私と安倍さんは、その膨大な知識量にドン引きしている。
「神護景雲!」
「え~、まぁそのぉ」
「はい、アウト! 老兵は去るべきだよ、ウォルフ」
「黙れ、若造め。これで勝ったと思うな、ピーター」
――おぉ。鶏はウォルフで、兎はピーターという名前なんだ。って、感心してる場合じゃなかった。
「私のほうが勝ったみたいだから、手紙を返して、安倍さん」
小夜子が片手を差し出すと、安倍は渋々といった表情を浮かべつつ、凭れていたフェンスから背中を離し、後ろ手に握っていた四ッ葉のクローバーが描かれている封筒を、その手の上に叩きつけながら言う。
「あんたと隼人の仲を引き裂こうとして、こんな真似したけどさ。あんな情けない鶏に唆されてたんだと思うと、毒気を抜かれて言葉が出ないわ。もう邪魔しないから、せいぜい頑張んな」
そう言うと安倍は、封筒を持ったまま俯く小夜子を、鼓舞するようにバシッと背中を叩き、それから乱暴に鶏を素手で捕獲すると、そのまま振り返らずにズンズンと歩き去る。
――休み時間はやかましくて、授業中は寝てばかりの不真面目な生徒だと思ってたけど、面と向かって話してみれば、案外、悪い子じゃないかもしれない。
「何をボーっとしてるんだよ。早く下駄箱にソイツを入れないと、サッカー部が帰っちゃうぞ?」
兎は、出入り口に近付きながら言った。小夜子は、はにかむように小さく微笑むと、兎のあとを追いかける。