C 火曜日のギャル
C 火曜日のギャル
七月十五日、曇のち雨。恋のライバルに宣戦布告された。
*
――結局、昨日は返事が無かった。金曜日の終業式の日までに返事をくださいと書いたから、まだ焦る必要は無い、と思う。
「山本小夜子っていうのは、あんたね?」
色白でストーレートヘアーの小夜子とは対照的な、色黒でパーマネントヘアーのギャルが、乱暴に引き戸を開けて美術室に入り、ラオコーン半身石膏像を鉛筆でスケッチブックにデッサンしてる小夜子に声をかける。その勝気な少女の胸元には、安倍と書かれたネームプレートが下がっている。
――びっくりした。誰かと思えば、女子テニス部の安倍さんか。三ヶ月以上、同じ教室で授業を受けてるんだけど、いつもつるんでる派手系のお仲間以外は、まだ顔と名前が一致してないのね。まぁ、脳に行くはずの栄養が、他のところに流れてるみたいだし。
小夜子は心の中で毒づきつつ、鉛筆を止め、ギャルの胸から太腿あたりを見ながら言う。
「そうよ、安倍さん」
ギャルは、小夜子をジロジロと不躾に観察すると、小馬鹿にするように鼻を鳴らしつつ、偉そうに言う。
「な~んだ。隼人にラブレターを出すくらいだから、どんな女かと思えば、めちゃめちゃ地味な陰キャラじゃない。焦って損した」
――どうして、手紙のことを知ってるのかしら。あ!
ギャルは、スカートの車襞の隙間に片手を差し込むと、ポケットから四ッ葉のクローバーが描かれている封筒を取り出して高々と掲げ、ヒラヒラと動かし、小夜子に見せびらかすように言う。
「これ、な~んだ?」
「ちょっと。何で安倍さんが持ってるのよ。返して!」
小夜子は、封筒を取り返さんとして立ち上がろうするが、ギャルは素早く封筒をポケットにしまい、反対の手で小夜子のささやかな胸元に向けて人差し指を突きつけ、宣言する。
「ラブレターを返して欲しければ、明日の放課後、兎と一緒に屋上へ来なさい。逃げるんじゃないわよ」
そう言うと、小夜子が茫然と座っているのを尻目に、ギャルは小走りでバタバタと美術室をあとにする。
――うわっ、どうしよう。昨日の朝の一幕を、よりによって安倍さんに見られてたんだ。