B 月曜日の下駄箱
B 月曜日の下駄箱
七月十四日、曇。ラブレターを投函した。
*
「何で学校までついてくるのよ」
少女が小声で文句を言うと、兎が平然と答える。
「だって、ちゃんと下駄箱に入れるまで見届けないと」
時刻は、始業時間の三十分前。場所は、生徒昇降口。半袖のブラウスにジャンパースカートを着た少女が小走りで赤煉瓦の階段を上り、その後ろを兎が追いかけている。
――信用が無いんだから。まだ朝早いから誰も見てないだろうけど、傍から見たら、兎に話しかけながら登校する不審者でしかないわ。早いところ、手紙を入れてしまおう。
少女はローファーをバレーシューズに履き替えてスノコ板に上がり、脱いだローファーを赤字で十七とナンバリングされた棚に入れると、そこから少し離れた場所にある黒字で一とナンバリングされた棚の前に移動する。中には、踵に池田と書かれたバレーシューズが入っている。
「入れ間違えるなよ。違う相手に届いたら、また別の未来に繋がっちゃうんだからな」
心配そうに言う兎に対し、少女はムッと腹を立てながら言う。
「わかってるわよ。いちいち五月蝿い兎ね」
「しくじってもらっちゃ困るからだよ。本当は、面と向かって言って欲しいところを、妥協に妥協を重ねて、ラブレターを下駄箱に入れるという古典的な方法で良いことにしたんだからさ」
兎は、溜め息まじりに言った。
――そう。はじめは、放課後に呼び出して告白するように言われたのだ。でも、対人スキルが壊滅的な私に、そんなハードルの高いことは無理すぎるので、こうして手紙を出すという控えめな方法にしてもらったのだ。
少女は、スクールバッグの外ポケットから四ッ葉のクローバーが描かれている封筒を取り出すと、池田と書かれたバーレーシューズのあいだに挟む。すると、兎は満足そうに頷きながら言う。
「よしよし。ひとまず、順調だな。あとは、放課後を待つだけだ」
兎は、ピョンとスノコ板の上から跳び下り、そのままその場をあとにする。
――どこへ行くのかしら。犬や猫と違って、兎がウロウロしてたら目立つと思うんだけど。……まっ、いっか。私が知ったことじゃない。
少女は兎が跳び去った方向とは反対に、階段に向かって歩いて行く。少女と兎は知らないことだが、このとき、二者の様子を、一人の少女と一羽の鶏が、柱の陰から注意深く伺っていた。