痛感
デパートで流れるBGMを聞いていると惨めになる。気の早いクリスマスツリー、楽しそうな話し声を聞くと胸騒ぎが止まらなくなる。
だいたい子供はクリスマスのプレゼントのねだりを体を張って、母親に交渉している。クリスマスまであと一ヶ月か。
私はこの時期になると思いだす。最初で最後の親友だった、みかのことを。ー
二学期の期末テスト。私は頭が良い方なのでみんなより早く終わってしまう。
英語のテスト中、前の席の鈴木がマークシートがずれているのに気づいた。鈴木は不登校のくせに頭が良いという謎の人物だった。
鈴木のことはみんなが不思議とバリアのようなものを張っていた気がする。マークシートがずれていることに気づいたのは、鈴木が私の椅子の下に答案用紙を落としたからだ。
あの時落とさなければあんなことになっていなかったのに。
今考えると運がなかったのだ。鈴木は不登校で進学を考えているものの出席日数から言って、留年候補だった。このマークシートのずれ方は、留年になるぞ?と思うくらい見事にずれていた。こたえはわたしと大体同じのような気がする。
ただ1つずつずれていたのだ。
鈴木が必死に学校へ行くのが苦手でも勉強をしているのは知っている。
なぜなら私は武川と家が近く、よく勉強しに図書館へ行くのを見かけるからだ。
『チャイム十分前だぞ。』
先生が声をかけた。やばい。鈴木が留年だ。どうでも良いはずだった。武川の留年なんて。なのに私は鈴木に小声で話しかけていた。
『、、、ずれてる。』
鈴木はビクッとして、マークシートをじっと顔を近づけ見つめていた。鈴木は素早い動きでマークシートを直した。先生も気づいていないようだ。
キーンカーンカーンカーン。
チャイムが鳴った。一件落着だ。私のモヤモヤはもう消えた。よかった。
そう思ったのに、数日後私は不正行為を疑われた。鈴木に助言したのをみた子がいるというのだ。だから鈴木があんなに英語のラスト、消しゴムを使っていたのだと。
確かにそうかもしれない。でも、答えを教えたんではない。私は勇気を出して担任に言った。
『鈴木さんのマークシートがずれていたのでずれていることを教えただけです。
答えは全くもって教えていません。
鈴木さんが留年するかもしれないと思い、つい無意識につぶやいてしまいました、、。
本当は言うつもりなんてなかったんです、はい。。』
担任はこう言った。
『でもなぁ、鈴木がなぁ、お前が、直さなきゃ留年だぞって言ったと言うんだが。
鈴木は口数も少ないが嘘はつかないやつだ。
俺はなんとなくわかるんだよ。
なぁ?お前が脅したんだろ?
鈴木にとっては最低最悪に追い詰める言葉だぞ?』
そのとき私の何かが壊れた。この世界は良心でやったことがまるでジェンガのように崩れて行くのだと。
痛感という言葉の意味がわかった。
痛みを感じた。胸の奥深くから。
私は結局何も言い返せなかった。ショックで胸がいっぱいで何かが詰まったようなそんな吐き気に襲われた。
怖い。怖い。
人は怖い。それから私は2週間ほど停学ですんだが、私へのみんなからの視線はまるでレーザービームのようだったのだ。ー