魔術師の城の王女(6)
その日の真夜中。
草木が寝静まる頃、両翼で四メートル程の翼を持った者が漆黒の空から古城に降り立った。城壁の内側は広い中庭になっているのが月の光によって明るく照らし出されている。翼はゆっくりと縮んで人間の両腕へと変化した。
「ン……(結界だ。着地するまでの間に目には見えない微量の魔法トラップに触れた。まあいずれ見つかるだろう。関係ない)」
城壁に沿って背の高い木々が並べて植えられており、中庭の中央には無数の花が植えられている。そこには見張りの兵士もいない。中庭は静まり返っていて物音もしない。
「ン……(例の物はどこにあるのか。厳重に保管されているには違いないが)」
その者は古城の扉の前まで歩いた所で立ち止まった。城の奥で複数の足音が響いているのを耳にした。そして、城の大きな扉が開くと、鎧を着て槍を持った兵士が何人も出てきた。
「侵入者がいたぞーー! ん?人間か? モンスターじゃないぞ」
「そんなはずはない。結界はモンスターしか反応しないはずだ。だが、少年か?」
兵士達はその少年らしき者を取り囲んで槍を向けるが、誰もが半信半疑なのか動かずに様子を見ている。
少年らしき者は素早く片手を振りかざすと、強風が巻き起こり、兵士達が数メートルほど吹き飛んだ。その右手は人間の手をしていたが徐々にドラゴンの頭の形へと変化した。ドラゴンの口が開くと巨大な火の塊を勢いよく吐き出した。
「ぐわああああ」
火の塊が直撃した兵士は叫び声をあげた。少年は次から次へと右手から火の塊を周りにいる兵士へと吹き飛ばした。兵士達の苦痛の悲鳴が何度も中庭に響いた。