魔術師の城の王女(2)
「おじょーーーさまーーー」
どこか遠くの方から野太い男の声が響いた。振り向きながら少女は軽い溜息をつくと、周りにいた動物たちは散り散りばらばらに離れていった。伐採場の入口に二匹の馬に繋がれた馬車が止まり、全身に鎧を着た小太りの中年男性が慌しく走ってきた。
「レムお嬢様!! こんな所におられたとは。城外には勝手に出てはいけないと、いつも口が酸っぱくなるほど……」
「そうね。でも、たまにはいいじゃない」
「いけませぬ! この辺りはまだモンスターが出没する区域として何度もお伝えしたはずですぞ。それに場外へ出る時は必ず護衛の者をつける約束だったはずですぞ」
「……だって、他に人がいると動物たちが逃げてしまうわ。私はそれが嫌なの」
「そうであっても、もしもお嬢様に何かあったらどうされるおつもりですか。躾役を承るわたくし、ギムトスは心配で心配で……」
「大丈夫よ。お城にいる兵士よりも召喚獣に守ってもらうから」
「獣だから心配なのです。逆に襲ってくる事があるかもしれませぬ」
「今までそんなことは一度も無いわ」
「柔な動物よりも、鍛錬されたこの大盾がお嬢様を必ずお守り致しますぞ!」
全身鎧の背中に身長よりも大きな盾を背負っている。見るからに重そうな巨大な盾は分厚さもあり、物理的な攻撃からはかなり身を守れそうな防具だった。
ギムトスはそれを誇るように掲げると、整った口髭の端を指で引っ張っては放してを繰り返している。