デカい男はデカい男を知る
「小の川と申します」
6尺に僅かに足らぬがお江戸では人並みすぐれた堂々たる偉丈夫。
色白で手足は長くて太くて怒り肩
ああ、ガタイ"だけ"が取り柄のワシなど比べ物にならんわコイツ。モノが違う。
「しかし、大きゅうおますなぁ。谷風関とどちらが大きいのやら」
その谷風、容貌魁偉な巨体を誇り、今や江戸相撲じゃ最早誰もが敵わない、天下無敵の大看板。
ヲッさん曰く
ワシが関取の歳の頃は、腹がくちる事など一度とて無く、今よりも10貫目ばかしも細いゴボウであった。
到底関取になぞ、
ましてや天下の大看板なぞとは比べ物にはなりますまい。
「えぇ、それでも羨ましゅうてなりません」
アテには人並み外れた大力も貫目もありません。捕まったらもう終い。
ヲッさん返して曰く、
この無駄にデカい体がなんとか我が儘に動かせるようになったのも丁度関取と同じ年頃。
若い時はどうにもカラダの動きが人並みより鈍くていけない、そういう意味でもどうにも筋が悪しゅうて。
見れば関取は手足も長く柔らかく、立ち姿も美しい。
全く若い頃のワシにはまるでないモノを悉く備えておられる。むしろ羨ましいのはこちらですな。
「それでも稽古は欠かされぬ、と親分さんはいいはりますやろ」
特に人並み優れた腕もなく算に長ける程の利きもなく結局残るは人並み外れたこのガタイがあるばかりで。
流石にそれまでうしのうては、ワシにはもう何も無い。
「親分さんは大分やっとうをお使いになられると褒めておましたが」
そもそも、このガタイで尋常の人の業が使える筈もありますまい。
定寸の太刀など情け無い事に両手で持つのも難儀な事で。
これでは到底口伝奥義なぞ。
「それで、その"大段平"です?」
まぁコレはどちらかと言うと、田舎の家の隅っこで誰も使えずにほかされとった代物を、丁度良いとばかりに持たされたようなモノ。
「それならば我が儘に振り回せると」
かつての戦の世にあって、村の力自慢が野太刀一本担いでわけもわからす振り回す。
コレはそんな世から取り残されたようなモノ、華のお江戸にゃあ野暮ったくていけない。
「頼りになるやらならぬやら」
まぁでも、言われてみりゃあ、虚仮威し。
体格優れた偉丈夫の側に、ドン、とコイツがあるならば。
「そうですねえ、格好はいいかも知れません」
ヲッさんまるでお殿様に付き従う側小姓のようにヌッと"大段平"を捧げ持つ。
「ふんどし一丁、人方屋の中で相対し、組みつき張って砂かぶり。ワテらがコレを使える訳が無くっても」
ちから自慢がわけもわからずブン回す、確かにそれは恐い恐い。
なぁに。関取よりは無駄にトシ食ってる分ガタイに似合わぬコソクも知らぬでも無いし、の。
ドン、って胸を反らしておくんなさい。
あんたも天下の大看板なんだから。