王都帰還
王都ロウドニウム。
俺たちは、西の国境近くから、ここ王都まで無事に戻ってくることができた。
「は、ハノウスの、ばかー。無茶しないでよー」
シャーリーが、近衛兵駐屯地にて俺と合流したとき、俺のほほをなでながらぼろぼろと泣いていた。
待てど暮らせど、俺が海辺まで飛んでくる様子が無く、早馬で俺が墜落した、と連絡を受けたらしい。
「心配をかけてすまなかったな。でもまぁ、ほら、命は助かったし」
そんなシャーリーとどう接すればいいのか戸惑いながら、肩をすくめてみせる。
折れた腕は、もう医師に見せて固定などの処置もしてもらっている。
まぁ、そんなにひどい折れ方ではなないらしく、1ヶ月もあれば治るであろうとのこと。
ひとまずは安心。
「大手柄でしたよ、ハノウスさん。満点です」
俺の腕をさすりながら、ララもニコニコしている。
林で俺を拾った後、馬に乗せてくれて、ここまで連れてきてくれた大恩人だ。
馬に乗ったときに、俺が後ろから前に座るララに片腕でしがみついてたのだが、馬が揺れるたびに腕におっきな胸があたった。役得。
「にひひ。私の発明は役に立ったろ?」
「マクニー博士が今回の最大の功労者だよ。なんていったって、国王陛下を実際にここまで連れてきた英雄だからな」
「だよねー!」
俺の背中をばんばんと叩いた後、マクニー博士は、ない胸を一生懸命にそらせて、けらけらと笑っている。とりあえずゴマをすっておかないと。
博士は、俺の思いつきやアイデアを実際に開発してしまう天才だ。あと、もう一人、博士には製作担当のエンジニアの相棒がいるが、今は、領地のラボに残っている。やつはインドア派だしな。
「隊長、陛下がお待ち‥‥」
ぼそっと、ミリーがつぶやいてくる。
ちょっと、機嫌が悪そうだ。腹でも減っているのか?
天幕に入っていくと、国王が自ら立ち上がって入り口まで迎えにきた。
「ジャスタンよ。本当に、本当に大儀であった」
頬を紅潮させながら、ヘンドラッド国王は俺の両肩を掴んで揺さぶる。すみません。腕がまだ痛いです。
その後国王といくばくか話し合った。そこで、ラーマス王子も保護していることも伝える。
「お主は本当に千里眼だのー」
もはや賞賛を通り越してあきれた様子を見せている。
すみません。心配性なもので。だいたい心配したことの九割五分は杞憂に終わるのですが、五分は実際に起きます。
今回の救出劇の後、俺たちは、配下の軍、近衛軍、第三軍で反乱に加わっていない将兵たちを合流させ、迅速に撤退した。
陛下の無事が伝わるやいなや、我先にと、近隣の貴族たちがはせ参じてきた。お前ら、空気読みすぎ。
結局、逆賊セヴェルスたちは、われわれと決戦をすることなく、内部分裂のあげくに、降伏。
首謀者であるセヴェルスは、インデス国に亡命、他の主導的な貴族たちは、処刑、または、領地没収などの罪に問われた。
まぁ、全体としてみれば、穏当な処分だと思う。
なるべく、禍根がないように、罪の重さに応じて、また、法律に基づいて処断するように国王陛下には上申しておいた。
んで、王都である。
あれからもう1ヶ月は経っているが、今日、インデス軍に武力占領されていた、西の砦奪還成功を祝うセレモニーを行うことになっている。
俺は、もう戦での傷も癒え、王都の屋敷にてだらだらとすごしている。
とは言っても、陛下からの色々な打診、他の有力貴族たちとの様々な折衝などを通じて、今回セレモニーでのシナリオを練っていたわけだが。
サプライズ人事などというのは、夢物語である。
ほとんどの場合は、損得打算、権謀術数によって事前に決まっているのである。
で、俺の場合は、むしろ、余計な仕事がこないように防御することに専念していた。
それと、俺の先祖代々の領地安堵のための政治工作だな。
一ヶ月間の工作が実り、だいたい、俺が満足できる褒賞になっていると思う。
「私は今日は別用で席をはずさなきゃいけないので、一緒には参加できないの。ごめんねー」
シャーリーが、机の上の、ベリーと蜂蜜とバターで作ったケーキ(シャーリーの自家製)をぱくつきながら伝えてくる。
「そうか、ちょっと残念だな」
シャーリーも功労者の一人なので、当然、式に参加することが決まっていたのだが、用事ができてしまったらしい。ちょっと悲しい。
「私は既に報酬をいただいておりますので、今回の式には、観客としてみていますねー」
紅茶を優雅にすすりながら穏やかに話す。
ララたち傭兵は、どんなに活躍したところで、表の舞台で賞賛されることはない。
その代わり、ビジネスの成功に見合う金額はちゃんともらっているわけだが。
「私も見学‥‥」
ケーキだけではもの足りなかったのか、チーズや干し肉、果物をかじりながら、ミリーがぼそっとつぶやく。
ミリーたち下士官には、すでに恩賞が与えられている。
ミリー個人は今回の活躍が大変大きかったため、なんと叙勲されて正式な騎士となり、領地が与えられた。
まぁ、亜人類なので、家系単位ではなく、個人叙勲だが、それでも、めったにあることではない。
領地といっても、セヴェルスたちが所有していた領地の一角であり、遠いところなので、今までどおり代官を置いてその上前を上納させる仕組みではある。
だがそれでも、領地持ちであることには変わりはない。
俺も、外部領地を、他の貴族に比べればだいぶ多く所有しているが、まぁ、だいたい、発明の開発で融けてしまう。
開発というものは、本当にお金を湯水のように使う。なので、手元にはぜんぜん残らない。
更に、領地での治水工事、学校や病院経営、農業の新品種開発などでも、容赦なく金が消えていく。
「にひひ。私もすでに褒賞をもらったよ。王立大学と、王立図書館への制限のないアクセスを教授会の反対を押し切って認めさせることができた」
マクニー博士は、大学の教授たちと喧嘩をして、大学を放校された過去があり、知の宝庫である、上記の二施設へ今まで直接立ち入ることができなかった。
今回は、国王の命令により、上記放校を取り消させ、教授の一人として任命された。大逆転である。
あーだこーだ、おしゃべりをしていたら、そろそろ出発の刻限に近づいていた。
「よし、そろそろ出発するわ」
俺はみんなに声をかけて、王宮へと向かうことにした。