救出作戦
「よし、上がって来い」
下水道からはしごをよじ登り、天井の板戸を開けるとそこは薄暗い部屋だった。
事前にその部屋は倉庫だと聞いている。
一応、俺が一番乗りで部屋に入り、危険がないかを確認する。
‥‥問題がないと確認できたので、下の二人に声をかける。
「あー、くさかったー‥‥」
「‥‥」
シャーリーが悪態をつきながら、這い出てくる。
ミリーもやはり臭かったのか、顔をしかめている。
外に出て、新鮮な空気で深呼吸をした後、二人はまとっていたマントを脱いだ。
下には使用人のエプロンドレスを着ている。
ポケットからカチューシャを取り出し、頭にのせる。
まぁ、見た感じは使用人の娘たちだな。
近衛兵の連中に城内の使用人と同じ服を手配させたので、セヴェルス軍の兵士たちにはわからんだろう。
俺は、さらに、下水道の下にいた兵士たち数人から、『秘密道具』が入った白い大きな布袋、それと、だぶだぶなローブを貰い受ける。
そして、ローブを頭からかぶり、白い布袋を肩に担ぐ。
しばらくすると、扉がノックされた。
ノックのリズムで相手が誰かがわかったので、中にひき入れる。
入ってきたのは壮年の女性。俺が内部に侵入させていたスパイだ。
「ジャスタン様。ご用意ができました。ここを出て左から二番目の部屋にてお願いいたします」
「ありがとう。引き続き監視任務を頼む。無理はしないように」
「はっ」
急いで、倉庫をでる。
指示された部屋に向かうと、そこには大きな長机が真ん中に置いてあり、温かい食べ物が載っているお盆と、新鮮な果物やワインのビンが入っているバスケットが置いてあった。
俺は、シャーリーにお盆を、ミリーにバスケットを持つように指示をする。
そして、俺は、二人の後ろについて歩く。
事前の計画通り、まっすぐに塔に向かう。
塔の入り口では、二名の兵士が歩哨として警戒している。
また、周囲では、多くの兵士たちがうろうろと警戒している。厳重な警備だ。
俺は、ここに陛下が幽閉されているものと確信する。
「あ、あのー、ご飯をこちらに持っていくようにと指示されたのですが‥‥。こちらに置いておけばよろしいのでしょうか‥‥」
シャーリーが声を震わせながら兵士たちに声をかける。
なかなか、うまい演技だ。
「いや、お前たちが中に持っていけ!‥‥しかし、お前なかなかかわいい顔をしておるな」
ゲヘヘと、いやらしそうな笑みを浮かべる兵士A。
「やめとけやめとけ、この娘ぜんぜん胸がないぞ!こんな娘と遊んでもつまらんぞ!」
兵士Bが茶化す。
顔を真っ赤にして下を向くシャーリー。
恥ずかしくて下を向いているのではなく、殴りたいのを我慢するために下を向いているのは明らかだ。
「ところでお前ら二人は良いが、後ろのローブの男は、何を持っている?」
俺はだまって下を向きながら、袋の口を開けて中を見せる。
中には、金属のパイプの塊が三つと、布がいっぱい入っている。
「組み立て用のベッドを持っていけ、といわれたので、下男に持たせているのですが、これもこちらにおいておきますか?」
絶妙なタイミングで声をかけるシャーリー。
「中へ入ってお前らが組み立てろ!」
兵士が大声を上げて扉を開けた。
俺たちはぺこぺこしながら、中に入っていく。
塔の一階の部屋では、兵士が四名椅子に座ってカードゲームに興じている。
そのそばを通って、石の階段を上っていく。
階段を上りきったところに、扉が見えた。その扉の先の部屋が軟禁場所だろう。
その部屋の隣には、また階段があり、さらに上に行ける。
近衛兵の連中に聞いていた通りのつくりだ。
この部屋に陛下が軟禁されている。俺は確信した。
俺たちは、入り口近くの二人の兵士に声をかけて、扉を開けてもらった。
一人が扉を開けて後ろを向いた隙に、俺は、もう一人の兵士に組み付き、懐から取り出したナイフを、兵士の口の中に突き刺す。
鮮血があたり一面に飛び散る。
後ろの騒ぎに気づいたもう一人の兵士が何か叫ぼうとした瞬間に、ミリーの小さな腕が、兵士の首に絡まり、兵士の首をあらぬ方向にひん曲げる。こえー。
兵士の遺体を急いで、扉の中に運び入れると、部屋の主が驚いた顔をしていた。
「シャーロット!」
「お助けにあがりました!」
満面の笑みを浮かべるシャーリー。
あれ?それ俺の台詞じゃね?