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博士降臨

くつわを並べて走っている最中、ふと横を見ると、シャーリーがなにやら思いつめた顔をしている。

付き合いが長いので、ちょっとしたしぐさで、シャーリーがどんな気分なのかがわかる。

これは、心配しているときの顔だ。


しかし、何を心配しているのかは、ちょっと思いつかない。


「シャーリー、気分でも悪いのか?」


「ううん。なんでもない」


シャーリーが無理な笑顔をこちらに向けてくる。なんでもなくないじゃないか。


頭を振り、気を取り直して、乗馬に集中する。

さすがに夜道の全力疾走は、整備された道路の上を走るとはいえ、気を抜くと危険だ。


今は俺たちは、選抜した五十騎の精鋭と、先ほど合流したララたち傭兵たちと共に、グリスラテス軍前線司令部だった城に向けて一目散に駆けている。


まぁ、今は、セヴェルス一世さんのお城というべきかもしれないが。


「近衛兵の方々の負けっぷりは、それはもう見世物としては面白かったですわ」


先行して現地にて偵察を行ってくれたララ達からの情報で、つい先ほど、近衛部隊が完全敗北し、城内から駆逐されたとの連絡を受けている。所詮お坊ちゃん連中の群れか。ふがいない。


でもまぁ、相手は、最大で一個旅団三千名弱、しかも、つい先日まで実戦を行っていた部隊だ。

そんな軍相手にさすがに、弱兵五百名程度では、かなわないか。


近衛兵は、報告では、すでに半数ほど失っているということなので、我々救援部隊を入れても三百程度。

軽く見積もって、相手方とは十倍近い戦力差だ。


しかも、相手は、城内に立てこもっていて防備もある。

正攻法は厳しい。


「しかし、なんで国王は生かされているんでしょう?」


「裁判にかけて、自分の正統性をアピールするつもりなんじゃないか」


ララの問いかけに、俺は、推測で答える。

なぜ、国王陛下を今殺さなかったか、について考えてみたが、やはり、国民の手前、裁判にかけて死刑にするつもりなのだろう。


罪名は、適当にでっち上げればよい。

たとえば、他国に国を売り払うつもりであった売国奴である、とかなんとか。

どうせ、真実は闇の中だし。

貴族会議や、教会の連中は日和見主義だ。

勝ち目のある方になだれをうってついていく。


そういった意味で、ラーマス王子を無事に保護できたのはよかった。

こちらの大きな旗印になる。

ちなみに、先ほど、王子の保護に成功した、という連絡があった。まずは、最悪の事態は免れた。


「しかし、いかがなさいます。さすがに、直接城に攻め込んで国王陛下をお救いするのは無謀なのではないかと」


ララが茶化すように聞いてくる。まぁ、普通の思考だと、まず無謀だしな。


「で、でも、おとう‥‥、いや、陛下を助けないと‥‥」


シャーリーが何かを言いかけたが、よく聞き取れなかった。


「陛下は助ける。だが、そのためには策が必要だ。まぁ、現地に言ってみればわかるが、一応、こうなることを見越して、準備はしてある。まぁ、博打みたいなもんだがな」


俺の頼れる相棒は、先日来、近くの町にて待機してくれているはずなので、俺からの急報を受けて、そろそろ例の『ぶつ』を用いて、到着するころあいだ。


そうこうするうちに、近衛兵たちが、夜営しているキャンプに到着した。

殺気立っている兵士、疲れ果てて泥のように眠りこけている兵士。いろいろだ。

だが、全員に共通しているのは、悲しいまでの諦めだ。


「ジャスタン将軍。ようこそおいでくださった」


応対してくれた近衛隊の副長にも疲労の影が濃い。

隊長は名誉の戦死をしたとのこと、冥福を祈る。


「こちらは、このような状況でして、さすがに、今日はもう兵は動かせません」


「そのようですね。しかし、お忙しいところ申し訳ないのですが、城内の詳しい状況についてご教授いただきたいのですが」


「それならば、この者にお聞きください」


近衛部隊の作戦担当の騎士から、現状報告を受ける。

今は、陛下は、城の隅にある物見の塔にて幽閉されている、と。


その情報は、俺の城に潜り込ませているスパイからも報告を受けていたが、信頼性に乏しかったので保留にしていた。

しかし、近衛兵でも同様の情報を確認しているので、間違いではない、と結論付ける。


「塔まで行く秘密の抜け道はないのですか?」


「下水道を通って、城内には入れます。たぶん、まだ、セヴェルス公たちには見つかっていないはずです。ただ、そこを通って、塔まで入れるにしても、塔から出られないでしょう、袋のねずみになってしまいます」


もっともなことを言ってくる。

だが、その不可能を可能にするやつがそろそろ到着するはずだ。


(わーわーわー)


なにやら、外が騒がしい、まぁ、『あれ』を見るのは、初めてだろうから仕方がない。


天幕から外に顔を出すと、闇夜に『それ』が空に浮かんでいた。

その輪郭は、おぼろげで、空の闇に溶け込んでいるような気分になる。


その輪郭を目でたどると、それは、大きな丸っこい布のようなものでできており、その下にちょこんと、人間が数名程度入れる木製と思わしきかごがぶら下がっている。

『気球』だ。


気球は、だんだんと、地上に降りてきて、ついには、布がしぼむ。


そして、その布をかきわけて、一人の女の子が顔をだした。


丸いめがねをかけて、背が低い、やせっぽっちな女の子だ。

白いローブを無造作に着込んで、なにやら、膝の辺りを叩いている。転んだみたいだ。


「博士。早い到着だね」


「にひひ。私に不可能はないよ。とりあえず、例のものを持ってきたよ」


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