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覚醒

「ちょっと、ハノウス!どうするのよ!」


俺と併走しているシャーリーが隣から怒鳴ってくる。

俺は、意識がないランフィを背中に背負いながら一目散に走っている。


「あれとまともに戦うのは愚策だ!鋼鉄の刀剣がまったく聞かない化け物相手に、直接戦うのは愚の骨頂だ。体勢を整える!」


「あんたには隠された能力があるんでしょ!それを使ってちゃっちゃとやっつけちゃってよ!」


「んなもんあったら、とっくに使っているって」


頭の中で魔法を使うイメージを浮かべたりして、実は、俺、何か特別なことができるのではないかと色々と試してはみたのだがだめだった。

どう考えても、マスタング爺さんの、勝手な思い違いだろう。


「右!」


シャーリーが叫んだので、急いで左に跳びすさる。

ちょうど、俺がいた位置を炎が焼き尽くした。

ファイアブレスって、こうしてみると火炎放射器みたいなもんだな。あぶねー。


俺たちが全速力で走っていると、前方に懐かしい顔ぶれが見えた。


「あ、ハノウス様!ご無事でしたか!」


ララがこちらを視認してくれた。


「任せる」


槍を構えたミリーがドラゴンに向けて、一目散に駆け出そうとする。


「ストップ、ストップ! ララ!ミリー!部隊に対して射撃指示、急げ!」


指示を受けたララたちが、部隊展開を始めた。

最初は、兵士たちは初めて見るドラゴンに気を呑まれていたが、ララたち指揮官に鼓舞されて体勢を整える。

そして、間髪いれずに、弓と石弓を構え、ドラゴンに向けて射撃を開始した。


「どうだ!」


俺は、手近な兵士に、ランフィを預け、ドラゴンに向き直った。

しかし、そこには重戦車のごとく、弓矢など毛ほどにも効いていない化け物がこちらを睥睨していた。


「くっ、独立特別射撃分隊展開、博士も焼夷弾用意! 狙え!‥‥撃て!」


部隊に合流したばかりの銃撃部隊に、射撃を指示。それと同時に、上空の博士にも、特殊火炎弾を空から投擲させる。

目前に、炎の山が出来上がる。

特に、上空からの特殊な油を混ぜた炎の弾が、ドラゴンに命中し、爆発的な炎を上げている。

これで効かなければ、本当に、対戦車ミサイルでも用意しないと勝てないぞ。


炎が弱まり、黒色の塊となったドラゴンを見据え、俺は安堵する。

やれやれ、やっぱり生物だから炎は効いたみたいだな。


俺は部下たちに指示を下し、ドラゴンの状況を確認させる。

と、突然、部下たちが上半身を吹き飛ばされた。


そこには、うろこがやや薄黒くなったものの、なんらダメージを受けていなさそうな化け物が、その獰猛なカギ爪を上空に振り上げている。


「遊びはこれでおしまいだ。お主が力を発揮しなければ、次で死ぬ」


そして、カギ爪を無造作に振り下ろしてきた。

スローモーションのようにゆっくりと見える。

だが、身体は、まったく動かない。


あ、これは死ぬな。


俺が半ばあきらめかけたとき、俺の前に手を広げて盾となるかのように振舞う者がいた。


シャーリー!


そのカギ爪がシャーリーを引き裂く。。。


目の前が真っ白になる。。。


‥‥。


‥‥ここはどこだ?


気づくと、俺は、見知らぬ回廊に立っていた。


周囲には、白銀色の床や壁で作られ、両側に扉がいくつもならぶ回廊が目の前に広がっている。

その白銀色には、少し視線を変えると、七色にも見える、不思議な材質だ。


好奇心につられて、そのうちの一つの扉の中を覗く。

そこでは、シャーリーが心臓をえぐられ息絶えていた。

別の扉を見ると、俺が首を引きちぎられ死んでいる。


数十、数百、数千、数万、数億、数兆。。。


自分にとって、都合のよい結果が見えないかと、様々なドアをあける。

どれくらい探しただろうか。もはや時間という概念がない、この空間ではそれを問うことは意味がない。

ただ、この可能性の分岐路を探索する回廊には、それこそ無限の可能性があり、俺は、その可能性を支配していた。


そして、俺はもっとも都合の良い選択肢の扉を開く。。。


‥‥。


意識がはっきりすると、目の前のドラゴンが大きくカギ爪を振りかぶり、振り下ろすところだった。

右の方向からシャーリーが急いで、こちらに飛び出してくるのも把握した。


「シャーリー!跳べ!」


俺の咄嗟の指示に、黙って従うシャーリー。


シャーリーが俺のほうに飛びついてくる。

俺はシャーリーを抱きとめ、背後に飛ぶ。


上方からのカギ爪をほんの紙一重で回避する。

そして、シャーリーの腰の背中にある短剣を取り出すと、ドラゴンの目に向けて投擲する。


「小癪な!」


ドラゴンが、一瞬、目を閉じ、短剣を防ぐ。そのまぶたをも短剣は貫くことができない。

ただ、これは単なるフェイントだ。

俺は、刀剣を鞘からぬき、さらに腰から火薬弾を取り出す。


ドラゴンは体勢を整えると、口の中に炎をあふれ出した。ファイアブレスの前兆だ。

俺は、ドラゴンに向けて、まっすぐに突進し、その刀剣でドラゴンの口の中へと斬りつける。

ドラゴンは、一瞬、迷ったものの、俺を噛み砕こうと口を閉じた。


俺は、刀剣を垂直に立て、ドラゴンの顎がしまる直前に、つっかえ棒のように一瞬だけ口の隙間に空間を作る。

次の瞬間には、鋼鉄の刀剣は音を立てて折れた。


だが、その一瞬の隙間に、俺は、ドラゴンの口の喉部分、炎が渦巻く空間へと、火薬弾を投げ入れた。


「ふせろー!」


俺は力の限り大声で叫びながら、ドラゴンを蹴りとばし、その反動で、なるべく間合いを取るようにする。

次の瞬間、大爆発が起こった。

ドラゴンの腹の中の炎と、火薬弾との相乗効果で、内部爆発を起こしたのだ。

要は、戦車の内部に爆弾を放り投げたのと同じだ。

固い外側のうろことちがい、内部の柔らかい組織はこれでずたずただ。


俺は、爆発の衝撃から立ち直ると、ドラゴンに向き直る。

幸運にも、少々のやけどを負っただけですんでいる。まぁ、そういった未来を選択しただけなのだが。


俺は、ドラゴンが爆発した場所に横たわっている老人に近づき声をかけた。


「神の力なんてないんですよ。師匠。全ては人間の努力と、ちょっとした幸運の結果に過ぎないんです」


「幸運か‥‥。ふふっ、それが奇跡の正体か‥‥」


「マスタング殿。貴殿を内乱罪と、異端信仰罪で逮捕させていただきます」


「なぁ、ハノウス。わしを殺してくれぬか?もはやこの世に未練はない」


「申し訳ありませんが、それはできかねます。グリスラテス王国の士気にもかかわってきますので。師匠は、軟禁させていただきます」


「好きにせい」


俺は部下たちに撤収を指示した。

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