内戦勃発
「‥‥お館様、報告します。セヴェルス公爵の一党が前線司令部での謁見中に、国王陛下を幽閉。その場で、セヴェルス一世として王位を僭称しました」
「あほかー!」
心の声が、つい、口についてでてしまった。
サスーンが、顔をしかめているので、咳払いをし、深呼吸をして心を落ち着かせる。
休戦から一ヶ月。
隊の半分は領地へ帰還、ララとの契約も終了したこのタイミングを見計らって行動が起こされた。
まぁ、当然、こちらの様子を伺った上で暴挙にでたと推測される。
俺は、執務室の机にて、羊皮紙を取り出しながら、すばやく、指示を書き込んでいく。
「王都からの情報は?」
「はっ、未だ動きはありません。次の定時連絡は1時間ほど後になります」
「間違いなく王都でも今日動きがある。よし、ランタン光通信にて王都へ打電。ジャスタン商会警備隊は、予定通りハートの2を保護。クラブのジャックは排除せよ、と」
「承知いたしました」
緊急招集を受けて会議室に集まった部下たちに指令を下す。
ランタン光通信は、街道の要所要所の詰め所間をランタンの光により、信号を送り、早馬よりも迅速に、情報を伝達を行うジャスタン商会独自の情報網だ。
普段は、これを使って、各地の商業情報を集めているが、有事には、作戦指令のやりとりもできるようにしている。
セヴェルス軍も早馬を使って国王拉致成功を中央の仲間たちに連絡しているはずである。
速度で負けたら終わりだ。
今回の暴挙の理由を考えると、やはり、国王になる可能性が極めて低くなったからであろうと推定できる。
セヴェルス公爵の奥方は、国王の長女であり、王位継承権は三位だ。
順当にいけば、国王の長子ベイカー皇太子が王位を継ぐことになっていた。または、その息子ラーマス王子がだ。
しかし、ベイカー皇太子は、病弱であり、貴族会議と教会から信頼感が低い。
そこで、もし国王に大事があれば、ラーマス王子が成人するまでは、セヴェルス公爵とその奥方が共同国王として即位することになっていた。
そして、もし、ラーマス王子が適任でなければ、そのまま国王でいられることになっている。
しかし、もうすでにラーマス王子は十歳だ。
そして、現在のヘンドラッド国王の健康状態もすこぶる良い。
そのような状況では、セヴェルス公爵の即位は厳しいものとなってしまうだろう。
ここで、クーデタを起こした、ということは間違いなく、自分の正当性を脅かすラーマス王子に危害を加えることは明らかだ。
そこで、俺は当初より、ラーマス王子の近辺に、ジャスタン商会の警備部隊(俺の私兵)を配置しておいた。
先程の指示は、要は、ラーマス王子を先手を打って拉致しろ、という指令だ。
まぁ、ちょっと怖い思いをするかもしれないが、セヴェルス公爵の一味に殺されるよりはマシだろう。
「よし、ミリー。そろそろこちらにもお客さんがくるはずだ。相手をする準備をしてやってくれ」
「わかった」
ミリーが、大急ぎで扉から出ていった。
そろそろ夜半なので、夜襲をしかけるには良いタイミングだ。
相手方の貴族たちの顔ぶれから計算するに、こちらへ派遣されてくるのは第三軍の半数、一個大隊千名ほどだろう。
ちなみに、すでに、第三軍相手の作戦計画は準備してあるので、ミリーは、その下準備に向かっている。
こちらの軍勢は、駐屯しているジャスタン軍一個強化中隊五百名と、ララの身辺警護隊の一個分隊三十名ほどだ。
「ララ。別働隊として、国王陛下の様子を偵察してきてくれ。たぶん、今は、第一軍と近衛軍とがどんぱちしているはずだ。だが、深追いするなよ。数が違い過ぎるからな」
「心得ております」
ララは無駄口を叩くことなく部屋を出ていく。
「シャーリー。各部隊指揮官に伝達。時計合わせ、二○○○」
「復唱します、時計合わせ、二○○○」
うちの軍の指揮官たちには、ゼンマイ式の時計が配備されており、二時間程度はかなり正確に時間を合わせることが出来る。
これのおかげで、夜間でも同時に攻撃をしかけることができ、また、ランタン光通信と合わせて、他の軍隊よりも精密な敵情を情報交換できる。
「隊長。お客さんが現れた」
ミリーが全身甲冑姿で顔をだしてきた。
試合の準備ができたらしい。
「よし。パーティータイムだ」
俺は、勢いよく、こぶしとこぶしとをぶつけて立ち上がった。