告白
「今回の戦いは、ラミルス帝国内の新王即位後の、まぁ、景気付け?みたいなものだから、あまり気にしなくてもいいと思うよ」
ぬけぬけと、ランフィが言い放つ。
「お前たちの最終的な戦略目標はなんだ?」
俺は、単刀直入に聞いてみた。
個人的には、ラミルス帝国が、グリスラテス王国と直接国境を接したいとは思っていないんじゃないかと思ったからだ。
「まぁ、イエプト王国の南部に、うちの国に友好な勢力ができてくれるとうれしいとは思っているよ。元々、イエプト王家は、うちの属領だったしね」
イエプト王家は、グリスラテス王国にも、ラミルス帝国にも、両方にいい顔をしながら生き延びてきた中小国だ。今のイエプト王家はグリスラテス王国から后をもらっているので、親グリスラテス王国とみなされているが、ラミルス帝国の臣民の立場として、毎年、貢物をも送っているはずだ。
なかなか、中小国が生き残るのは難しい。
「国土の折半か。悪くない落としどころだな」
「え!ちょっと、ハノウス、何を言っているの?」
シャーリーが慌てて、俺に意見を言ってくる。
まぁ、その慌てる気持ちもわからんではないが、俺は別に正義のために戦っているわけではない。
グリスラテス王国にとって、もっとも都合の良い結果が取れるかどうかだけで、物事を考えている。
もっと言うと、俺の立場で、もっとも都合の良い結果、だな。
「そこが落としどころならば、グリスラテス王国としては呑める、というだけの話さ。だけど今はまだ無理だな」
「え?どうして?ラミルス帝国にとっては、とっても良い条件じゃないの?」
「いや、ちがうね、シャーリーさん。現在の戦況を客観的にみると、ラミルス帝国にとっては、このままイエプト王家を滅亡させることができそうな状況だ。そう考えると、ラミルス帝国にとっては、イエプト王家を滅亡させた後に、イエプト王国全土に、親ラミルス帝国の国を作ることがもっとも都合が良い状況なんだ。だから、さっきの案は、現状では呑めないんだよ」
「そういうことだ。なので、今ランフィが言った最終的な『落としどころ』も、少なくとも一戦してイエプト王国がポイントを稼がないと進めていけない状況だ。そして、それが限りなく不可能な状態、といったところが現在の頭痛の種だな」
そう考えると、なかなかに、厳しい状況だということを再認識させてくれる。
しかし、ここで疑問がでてくる。
「で、そんな、現状無理そうな落としどころをわざわざ俺に教えてくれるためだけに、俺に会いに来てくれたのか、ランフィは」
それだけのために来るには、あまりにもリスクとリターンが乖離しすぎている。
「いや、本題はこれからさ。実は、僕は君に告白をしにきたんだ」
「はぁ?」
「え!」
俺は良くわからない展開に間の抜けた返事をし、シャーリーはやけに驚いた声を上げている。
くくくっ、と一人笑うランフィ。
「まぁ、告白は告白だけど、別に、愛の告白ってわけじゃない。ハノウス君に愛の告白をして、君と結婚をするのも、それはそれでとても興味深いけど、今は、まだそのときじゃない、という気はしている」
「結婚なんて、私が許さないわ!」
なんで、シャーリーさんが許可をだしたり、禁止をしたりできるんでしょうか。
まぁ、そこは論点じゃない。
「で、何を俺に告白してくれるんだって」
さすがに話が進まないので、先を促す。
「冗談はこれくらいにして、告白の内容だが。僕はラミルス帝国の軍事侵攻とは別に、あるものを探している。そして、ハノウス君に、そのあるものを探すのを手伝って欲しいのさ」
「『あるもの』?」
「そう、それさえ見つけてくれれば、僕は、今回の戦闘からはさっさと抜けてあげるよ。もっと言うと、帝国を裏切ったって良い」
裏切りとは大きくでたな。
「で、その『あるもの』を見つけることが俺への告白なのか?」
それは告白ではなく、依頼、ではないか?
首をふって、ランフィは後ろを向き、背中を向けた。
「僕が告白するのはこれだよ」
そして、すっと、衣類を脱ぎ捨てた。
真っ白な絹のような肌の中に『それ』はあった。
蠢く蛇のように曲がりくねった痣、黄色と黒の斑点模様をしており、グロテスクな印象を俺にもたらした。
隣でシャーリーが口を覆っている。
ちょっと、刺激が大きい見世物だな。
そして、俺の方をランフィはちらりと振り向くと、ちょっと悲しげな声で俺に告げた。
「僕は、先王の実験台にされたモルモットの生き残りさ。君が本当に、神の眷属ならば、どうか、どうか僕を助けて欲しい」




