奇襲・強奪・楽観
「敵兵五個分隊およそ五十名補足完了。いつでもやれます」
街中に散らばっている敵分隊五個を、それぞれ俺の部下たちが補足した。
ランタン通信網などを介して、リアルタイムに状況を得て、決断を下す。
「○○二○を過ぎたらそれぞれ同時に攻撃開始。相手に連携させるな」
俺は、各地にて散らばっている部下たちに指示を出す。
そして、道路わきの瓦礫に身を隠しながら、向こうの通りからこちらに向かってやってくる敵一個分隊十名に向けて視線を向ける。
そして、慎重に矢をつがえ狙いを定める。
「各人、鎧がないところを慎重に狙え。合図をしたら、一斉に射撃せよ」
小さな声で周囲の部下たちに指示を出し、息を潜めて相手が近づいてくるのを待つ。
射線内に敵兵がやってきた。
まだ、こちらに気づく様子はない。
緊張のため口の中が乾く。
舌なめずりをし、緊張をほぐす。
「五、四、三、二、一、撃て!」
俺は指揮する分隊十名に、射撃を指示。
狙いたがわず、敵兵の鎧に覆われていない顔面に矢を命中させる。
もんどりうって倒れる敵兵集団に向かい、剣を抜きざま突撃する。
「突撃ぃー!うおぉぉぉ!」
敵兵の中で一人、馬上の騎士が、片手に矢が刺さりながらも敢然と立ち向かってきた。
「この雑兵がぁー!」
こちらに向かって敵騎士は槍を振り下ろしてきた。
俺はそのやりをかわしざま、その横面をやり先のハンマー部分で、思いっきり叩く。
相手は、馬上からもんどりうって倒れて動かなくなる。
ほかの敵兵たちも、俺の部下たちが次々と仕留めていく。
「状況は!」
「はっ。周囲に敵影なし。引き続き警戒を維持します」
部下が報告してくる。
俺は、通信兵を呼びつけ、他の部隊の状況を確認させる。
しばらくして、各部隊でも奇襲が成功したことが報告された。
「よし。まずは部隊の安全確保を第一優先。負傷者がいれば本部に戻り手当てせよ。敵兵の持ち物を回収することも忘れるな!」
俺は、ここでやっと、ふーっと、息を吐く。
ここまでは筋書き通りだ。
今は敵軍は同時に目を失ったので、こちらの事態に気づくのにしばらく時間がかかるだろう。
中隊全部が動くことも引くこともできず、事態を完全に把握するまでは用兵には慎重になるはずだ。
俺は倒れている敵騎士が生きているのを確認すると、部下たちに、縛り上げて本部まで連れて行くように指示をした。
「よし。撤収するぞ。のろのろしていると敵の本体を相手にすることになるからな。急げ。」
部下たちに撤収を指示し、俺たちは馬にて王都の北部に設置してある偵察小隊本部に戻った。
部下たちが集めてきた敵軍の装備を点検する。
高価そうな短剣。書類のたぐい。硬貨や金貨もある。
なんだか、山賊業に手を染めているような感じがする。
ごそごそと書類を点検していたララが声を上げる。
「これは‥‥、作戦指示書ですね。‥‥なるほど。今回は、敵兵は単なる偵察作戦みたいですね。なになに、王都への事前偵察、と」
「作戦指示書を持ち歩くなんて、抜けているわねー」
ララの説明に、シャーリーが身も蓋もない感想を漏らす。
「まぁ、敵軍は軍規が厳しいんだろう。少しでもその作戦通りに動かないとそれだけで査問されるとか」
生前の俺の組織がそうだったな。
相手に対してちょっと同情心が浮かんでしまう。
「今回が偵察作戦だとすると、本格的に、王都にラミルス軍が進駐してくるだろうな」
「今は、この辺は力の空白地帯だけど、ここもラミルス軍に取られちゃうってこと?」
「まぁ、イエプト王国軍には、このあたりを保護する力はないだろうな」
俺はシャーリーの質問に、端的に答える。
現実はきわめて厳しい状況だ。
俺たちがいろいろと書類などを漁っていると、ミリーが天幕に入ってきた。
「これ」
ミリーが一本の杖を俺に差し出してきた。
「相手の騎士がこれを撃ってきた」
差し出された杖は、昔俺が士官学校時代に一度だけ見たことがある、例の杖だった。
「お、おい。大丈夫だったのか?」
「大丈夫。射線をかわしながら懐に飛び込めと、博士に言われていた」
そんなアバウトなアドバイスでもなんとかなるのか。
さすが戦闘マシーン。
「で、でかした」
俺はその杖を受け取ると、しげしげと『赤竜杖』と称される新型兵器を観察する。
玉込めは、前方から入れる感じになっており、鉄筒の中に火を導入するための火縄も中に入れなおす仕組みがない。
そして、引き金もない。
これは、縄に火をつけたら、それだけで発射する小型の大砲だ。
俺は、にやりと笑みがこぼれた。
「これは、仕組みが簡単だから大量生産には向いているが、単発だ」
「えーと、つまり?」
シャーリーが首をかしげながら聞いてくる。
「戦場では最初の一発しか使えない代物、ということだな。なんとか最初の一撃、初発をどうにかできれば、相手が何百丁とこの杖を配備しても恐れるに足らず、だ」
「では、どうやってその初発を回避するのですか?」
ララが聞いてくる。
俺は、もったいぶった感じに、鷹揚にうなづくとララの目を見て威厳を持って断言する。
「これから考える」
ミリーがなんだか冷たい視線を送ってきている気がする。




