分隊長会議
それから一週間内偵を続け、拠点を三つ抑えたところで、爺さんを通じて官憲に突入してもらった。
総勢、五十名もの人間を捕まえることになった。
表向きは、禁制品の密輸容疑だ。
「これだけ証拠を抑えることができれば、もう十二分じゃろう。しかし、お手柄だなハノウス。お主のような弟子を持てて、わしも鼻高々じゃよ」
マスタング爺さんが高笑いをしている。
がさ入れの結果、襲撃計画の詳細も出てきた。
一応、もっともらしく暗殺計画になっていたらしいが、杜撰そのものの作戦計画で、到底成功はおぼつかないものだったそうだ。
しかし、いつ、俺が爺さんに弟子入りしたんだ。
まぁ、いい。
「で、じ、いや、師匠。もう俺の仕事は終わりということでいいんですか。演習は来週ですんで、そろそろまじめに演習の準備をしようかと思っているんですが」
「ふむ、そうじゃな。とりあえず、しばらくほとぼりが冷めるまでは課業に打ち込むが良い」
「じゃ、そうさせてもらいます」
最近は、爺さんに稽古をつけてもらうことが多かったので、しばらく休めると思うとほっとする。
「あ、わしのところにもちゃんと毎日来るんじゃぞ」
「んぐ、あ、はい‥‥」
胃が重くなる。
「あ、そういえば、クズハドたち学生はどうなりますか?」
「あやつらか?やつらのご両親たちの面子もあるで、自主退学ということになろう」
やはり、闇に葬るのか。当然だが。
「わかりました、では師匠、あの金髪のエルフたちにもよろしく言っておいてくださいね」
本来は直接顔を出して挨拶したいが、ちょっと忙しくなってきたので、しばらくは顔を出せそうもない。
「うむ。そういえば、ララたちが、また何かあったら遊びに来い、といっておったぞ。しばらくしたら顔をだしてやれ」
「はい」
俺は、爺さんに別れを告げ、士官学校に戻る。
学校では、学生三名が家庭の事情で急遽、退学することになったことが報告された。
彼らは、この学校でも有名どころだったので、周りの学生たちはお互いに噂話をしている。
また、退学した学生たちは、演習では小隊長、分隊長を勤めていたので、隊の再編成作業が始まった。
その理由を作った一人である俺はそっぽを向きながら、知らん顔をする。
新しい編成表だと、俺が所属する第二(黒)学生小隊の第三分隊長が変更となった。
俺の新しい同僚か。
名前を見てみると、ランフィとある。
俺が依然に分析した、通常の学生と異なる特異な行動を取る学生五人のうちの一人だ。
俺たちは分隊長会議と称して、夕方、寮の一室に集まった。
ランフィは、男にしては、ちょっと長めの銀髪の持ち主で、中性的な容貌を持ったやつだ。
男の娘、として売り込むと、一部に人気がでるかもしれない。
俺が観察したところ、見た目以外には、これといって特徴はなく、この二年間の学業を振り返っても、そんなに目立つところはなかったと思う。
「ランフィです。このたび、新しく第三分隊長を拝命いたしました。皆さんよろしくお願いいたします」
丁寧に挨拶をしてきた。
しかし、こいつ声も女みたいな感じだな。
やはり、女装させて売り出すか。
挨拶が終わって、改めて、来週の演習について動きをチェックする。
当日は、最初のうちは、大まかなシナリオにしたがって部隊を動かすが、途中からは、がちの演習になる。
一応、剣は刃引きされ、槍も鈍らを使っているが、それでも危険がたっぷりとあるので、丁寧に図上演習する。
俺は、周りの連中が、やけに雄雄しい突撃ばかりにこだわっているのに、いらだって、ついつい横から文句を言ってしまった。
いつもならば、あんまり口出ししないが、ちょっと気が高ぶっていた。
「そこで小隊同士がお互いに正面突撃したって、損耗が増えるだけだろ。ここに遮蔽物があるんだから、ここに陣取って、側面から突撃させろ」
こんな具合に、図上演習に突っ込んでいると、いつの間にか俺の隣に新任のランフィが座っていた。
全く気配を感じなかった。
「ハノウス君って、いつも授業や演習ではやる気がない感じだけど、今日は何か違う感じだね」
俺の耳元にささやくように語りかけてくる。
俺は急いで、間を空けて、言い訳をする。
「い、いや。ほら。怪我とかはなくべくしたくないだろ?」
相手は男だぞ。なんで、こんなに俺緊張しているんだ。
「ふーん、そうなんだー。怪我したくないよねー」
ちょっと笑顔が硬い感じで笑っている。
笑顔を作っている感じがする。
「てっきり僕は、ハノウス君が何かをやり遂げて、ハイになっちゃったのかな、なんて思っちゃった」
俺は、急に背筋に氷を突っ込まれたように頭が冷静になった。
「お、お前‥‥」
「んふふ。」
俺たち二人が急に陰険に顔を見合わせているのを見て、会議はお開きとなった。
「来週の観閲式、非常に楽しみしているんだ、僕。ハノウス君にも、ぜひとも活躍してもらいたいなー、って」
笑顔を浮かべているが、目は笑っていない。
「僕の脅威判定に狂いが生じたことに、非常に感銘を受けているんだよ。これはお世辞でもなく本当にね」
「何者だ」
周りの学生の姿はもう見えない。
ランフィが俺の目をまっすぐに見ながら笑顔を浮かべながら、冷たい声でその名を告げる。
「業界では『ウィズナー』という名前を使っているけど、ここではランフィと呼んで欲しいな」




