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内戦前夜

「‥‥というわけで、インデス軍とは一時休戦となったので、お前たちにも休暇を与える。当面半年ほどは休戦期間となったので、一部兵力をこちらに残し、残りは領地へと撤退する」


御前会議の一週間後。

定例のジャスタン軍の軍議にて、部下たちに決定事項を伝える。


インデス軍は今回の敗戦にて、要地を我がグリスラテス軍に奪取されてしまい、これ以上の戦いは自国に甚大な被害がでることを予想して、早々と我が軍との休戦を決定してしまった。

停戦条約の締結は、もうしばらく先だが、なんとか金銭、商品のやりとりですみそうである。

なるべく平和が良いよなー。


俺たちジャスタン軍の本営地は、前線司令部近くの中規模な町の、現地領主の別邸を購入し、利用している。

周囲を簡単な柵と堀で覆っており、簡易な砦にしてある。


今は、別邸の周りに天幕を張り、軍を駐屯させている。


ジャスタン軍の規模は、だいたい一個大隊千名程度。

それと、傭兵隊が一個中隊三百名ほど駐屯している。俺が個人として第二軍の援軍として雇っているので、経費は、全部俺持ちだ。


「では、私たちも契約金をもらって撤退させていただきますね。あ、連絡担当として、私はこちらに残らせていただきます」


傭兵隊長のララが、机の上の紅茶を優雅に飲みながら、さらりと述べる。

ゆったりとした薄い生地の絹のローブを纏い、金色の長髪が真っ白な胸元まで垂れている。

しかし、巨乳だな‥‥。

ララは、切れ長の目とほっそりとした鼻筋の、美女と形容するしかない容姿を備えている。

しかし、もっとも特徴的なのは、ときたま長髪の隙間から見え隠れする、長い耳。

ララはエルフだ。

この世界では、亜人類の種族が出世するには、軍事や学問などの特別の才能を必要とする。

実際ララの傭兵部隊では、亜人類が多く雇われている。平均的な能力の亜人類では、正規兵にはなりにくいのだ。


というか、なぜ隊長が連絡担当として残るんだよ‥‥。


「あら?あなたさまの近くが一番、情報が集まってきますもの。この生き馬の目を抜く業界、情報がもっとも集まっている所に常駐するのが常識でございます」


心の疑問が視線に出てしまったらしく、ララが言葉を足してくる。


「ねー、ハノウス。私たちはどうする?」


俺の隣に腰かけている副官のシャーリーが首をかしげながら聞いてくる。

赤毛がちのセミロングの髪の毛が肩にかかっている。顔は、まぁ、美人の部類だと思う。

くりっとした大きな目。意思の強さを感じさせる。

動きやすい綿製のシャツとズボンを履き、腰にベルトを締めて、長剣を吊っている。

それと、悲しいまでのまな板の胸。指摘すると殺されるので、あまり凝視しないようにしている。


ちなみに、シャーリーと俺とは幼馴染だ。

遠縁の貴族の娘で、俺の領地での居城近くにある、古い屋敷に住んでいた。

なんでも、ご両親は既に亡くなって、祖母の家に住んでいたらしい。しかし、その祖母もシャーリーが小さいうちになくなったので、六歳ぐらいからは、一緒に城で暮らしていた。

語弊があるかもしれないが、俺とは兄弟姉妹といった感覚が強い。


「そうだな。領地に帰りたいところだが、陛下からの許可はでないだろうから、ここで執務するしかないだろうな」


他にも理由はあるが、当面は、ヘンドラッド国王の近くにいた方が良いと判断している。


「じゃ、じゃあ、ちょっとこの辺りを二人で視察するとかが良いかも。ほら、ほら、地理を頭に叩き込んでおくのは将兵の常だものね。ね。けっ、けっして、で、デートとかそんなんじゃないんだからね!」


なにやら、建設的なのか、非建設的なのかよくわからない提案だが、さすがに、司令官がほいほいと動き回るのはまずい。


「却下だ。すでに、この辺りの地理は頭に叩き込んである。散歩するのは、もうちょっと情勢が安定してからだ」


俺の発言に、しょんぼりするシャーリー。上がっていたテンションが急に下がったみたいだ。


「ミリー。君の意見を聞かせてくれ」


会議の席の端っこで、机の上のイチジクを一心不乱に食べている女の子に声をかける。

ミリーはジャスタン軍の現場指揮官にして、猛将。

しかし、見た目はチビッこい少女にしか見えない。

栗毛色の短い髪の毛で、ちょっとだぼだぼな服を着ている。たぶん、中にはチェインメイルを着込んでいる。

そのかわいらしい外見とは裏腹に、彼女はドワーフ族と草原妖精族とのハーフだ。片手で、ハルバードを振り回せる。本物の化け物である。


「ん。暴れられるならば、どこでもいい」


脳筋に聞いた俺が馬鹿だった。


「セヴェルス公爵が自派の貴族たちと何やら会合を重ねている様子。ご注意を」


他の者たちが意見を述べ終えた頃合を見計らい執事のサスーンが懸念事項を伝達する。

サスーンは、執事の外にも、ジャスタン商会の副会頭という職務を兼務している。

彼は、長らくギルドの事務一切を取り仕切ってきた辣腕の老紳士だが、俺がスカウトした。

今は、ジャスタン商会の事務長として切り盛りしてもらっているが、商会の各所から上がってくる商人や各国、各地の常駐事務官からの情報をとりまとめて貰っている。要は、俺の情報部隊だ。


「規模は?」


「主戦派の貴族たちは勢ぞろいしております。第一軍三千名のほとんどはセヴェルス公が自由に動かせるかと。また、後衛の第三軍二千名の指揮官の中からも多くの貴族が賛同しております」


「すると、今、クーデターを起こされると、陛下を守ることができる兵力は」


「近衛の五百と、我々だけになります」


「セヴェルス公が馬鹿な真似をしなければ良いが‥‥。今、わが国で内戦が起これば、インデス軍だけでなく、他の国も傍観してくれるとは思えない」


我が国グリスラテスの周辺には六か国を数える、群雄割拠する地域だ。

中には、婚姻同盟を結び、同盟関係にある国もあるが、損得打算によりいつでも敵にもなる情勢である。


しかも、今は、インデス軍と対峙するために、軍備は、グリスラテス国の西側に集結させており、相対的に、その他の地域の防備が緩くなっている。

そこに、内戦などが起こったら、利するのは周辺諸国だけだ。


さすがに、そこまでセヴェルス公は馬鹿ではないと信じたい。


「セヴェルス公周辺に対し、引き続き警戒を怠らないように」


「はっ、お館様、承知いたしました」

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