表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/51

傭兵集団『黒い水』

次の日。

午前中は、来月開催される御前試合の演習に費やされた。

演習では、当日の動きを模擬し、リハーサルが入念になされる。

砂ぼこりが口の中に入り、気持ち悪い。


俺は野外演習場での、騎兵の突撃訓練に明け暮れた。

訓練の合間に、演習当日、VIPが臨席するステージの位置関係を把握する。

演習場全体を眺めやすい小高い丘の上に、石造りの階段のような形のステージがしつらえており、このステージに、当日はお偉方が座ることになっている。

今、俺が、この場所から肉薄すれば、平面的な距離としては一分とかからない距離だ。


俺は馬から降り、歩きながら、ステージへと近づく。


ステージと、演習場との間には、大きな堀が横たわっており、そのまま馬上にて突撃するのは現実的ではない。

そして、飛び道具を使おうにも、数十メートル離れており、また、ステージの前には、木材で、ある程度の囲いが作られている。

この距離で、木材の囲いの隙間から、ターゲットに、正確に狙い撃ちするのは、かなりの熟練を要すると思われる。


しかも、演習場に飛び道具を持ち込むこともかなり難しく、さすがに、この場で暗殺未遂を起こすのは現実的ではないと感じる。


やはり、陛下の近くに肉薄できる、表彰時か。


どちらになるかがわからないので、両方に目配せして対策を練る必要がある。

可能性があるときには、常に、その可能性を捨てない。

めんどくさいが、頭の片隅に地形を叩き込んでおく。


「おやおや、田舎の騎士見習いどのは、そんなところで立ち往生かい。目障りだから、私の目の前から消えて欲しいのだが」


俺が思案しながら歩いていると、そんな尊大な声が背後からかかった。

振り返ると、クスハドがそこにいた。

薄い金髪で、見た目は貴公子然としているが、口調がいつも尊大だ。

今は、装飾を施した特製の甲冑を着こんで、馬上にてこちらを見下している。

しかも、周囲にとりまきを従えている。めんどくさい奴だ。


「お前の挑発は安っぽすぎる。もうちょっと脳みそを使え」


こいつと話すだけでも疲れるので、無視をする。

本当は、こいつに直接、事件当日はどうするつもりだ、と聞きたいところだが、今の時点で相手の勢力に感づかれるのも困る。


「貴様!調子に乗りやがって!」


いきなり、いきりたって、剣を鞘から抜くと威嚇し始めた。


おいおい、沸点低すぎだろ。


仕方なく、相手のほうに身体を向ける。

クスハドは無礼うちでもしたいのか、こちらにやおら、渾身の一撃を振り下ろしてきた。

俺は、その一振りにタイミングを合わせ、右足を引いて転身し、左側を相手に向けるような半身となり、相手の振り下ろした剣を避けると同時に、相手の振り下ろしたその腕を引っ張り、馬上から引きづり落とす。


ぐしゃっ


嫌な音がする。

バランス崩しながら剣を振るうなよな、と思いながら、自分が倒した相手を見下ろす。

クスハドが泡を吹いて倒れている。

そして、周りのとりまきたちがざわめく。


さすがに死んでいると寝覚めが悪いので、脈を取り、息をしていることを確認した。

単なる脳しんとうかなんかだろう。


「おい。お前たち、こいつを早いところ、医務室へ連れて行け。一応、こいつの名誉のために、自分から落馬したことにしておいてやれ」


俺は、とりまきたちに声をかけ、そのまま歩き出す。


後ろで、ざわついているが、目もくれない。

俺は、馬にまたがると、演習場全体を走ってみた。

戦場の地形を頭に叩き込む。


そうこうしていると、隣に赤い鎧を着込んだ人間がやってきた。シャーリーだ。


「ハノウス。お昼にしよ」


「あぁ、もうそんな時間か。わかった」


俺たちは、並んで、学舎の方に向かう。


「しかし、さっきのかっこよかったね。あれどうやってるの?」


「なんだ見てたのか。あんなのは簡単な手品さ。ちょいと、相手のバランスを崩してやっただけのさ」


「ふーん。ところで、今日はおじさまのところに行くの?」


「ん?爺さんのところか?昼を取ったら、また行かないとな。相談したいこともあるし」


「じゃ、じゃあ、私もまたついていってあげようかな。ハノウスが一緒に来て欲しいみたいだし。あと午後は休みだし」


今日は、午前中の演習が終わったら、休暇だ。

というか、なんで俺が一緒に来て欲しい、と断言できるんだよ。


まぁ、断る理由もないので、お昼を食べ終わると、そのまま爺さんのところに向かった。


「ふむ、なるほど、『赤竜亭』か。よかろう。荒事向きの者を紹介してやろう。きっと役に立つはずじゃ」


俺からの報告書を読んだ爺さんが、俺に助っ人を紹介してくれた。

なんでも、昔馴染みの歴戦の傭兵で、ヤリ働きだけでなく、こういった諜報活動にも長けている人物らしい。

俺は、その人物と接触するために、紹介されたギルドホールに向かうことになった。


ギルドホールは、三階建てのレンガのような石を積み立てた建物で、壁の周囲を彫像や彫刻できらびやかに飾られている。

俺とシャーリーは、ホールの裏口からはいり、紹介された部屋へと向かった。


「失礼します」


部屋の扉をノックし、中へと入ると、そこには人物が二名座って待っていた。

一人は、華奢な金髪の女性で、もう一人は、栗色の髪の女の子だ。


「ハノウス様でいらっしゃいますか。マスタング様からご紹介を受けております。私はララ、傭兵集団『黒い水』の代表させていただいております。あと、こちらはミリー、私の補佐官です」


「どうも」


傭兵集団の代表と名乗る金髪美女と、補佐官らしい子供が、そろって頭を下げている。


おいおい。どのあたりが荒事向きなんだよ。


いきなり、前途が怪しく思えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ