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『赤竜亭』にて

「ねー、このあと、今日の晩御飯はどこで食べるの?」


「そうだな、たまには、外食でもするか」


「うん。そうしよ」


俺たちはなぜか、腕を絡めながら、歩いている。

一応、恋人のふりをして歩くことで、周囲を偽装しよう、というアイデアだったはずだが、シャーリーがやけにくっついてくるな。

まぁ、気分は良いのでいいんだが。


俺たちは、クスハドたちの後をつけながら、しばし街を歩いた。

半刻ほど歩き続けると、市外区の外れにたどり着いた。

クスハドたち三人は、ある飲み屋兼宿屋に入っていった、入ったあと、しばらくたっても外に出てこない。


ここが連絡所か?


その宿屋は、一階は飲み屋で、二階は宿屋、という典型的な旅の宿屋で、看板には、剣とヤリとで飾られた赤いドラゴンが描かれ、『赤竜亭』と名が記されていた。


あんまり、てらいがない名前だな。まぁ、いいが。


俺たちは、通りの角から、飲み屋の入り口を遠めに観察する。


入り口近くには、人相が悪い飲んだくれな風体の男たちが、三名ほどたむろしており、普通の客は、あまり近づきたいという雰囲気ではない。

しかし、よくよく観察してみると、人相の悪い連中の背筋はぴんとはっており、また、手足に刀傷が見える。

また、手が届く範囲に剣を置いてあったりして、あまりかたぎといった感じではない。

たぶん軍隊経験があるんじゃないかと疑う。


一箇所からずっと覗き続けるのも、周囲の人間の疑念を抱くかとおもい、遠巻きに一周しながら、宿を観察する。


宿屋は木造二階建て、二階の宿は、二から三名ほどが泊まれる部屋が、三から四部屋ありそうだ。

そして、一階の飲み屋にも、常時人がたむろしている。


裏口は狭いが、ときおり、人が出入りしており、入り口の活気のなさと対比すると、ちょっと、バランスが悪く、おかしいと感じる。


「ねー、どうする。私たちも入る?」


シャーリーが暢気に聞いてくるが、首を横に振る。


「もうちょっと待とう」


しばらく人の動きを観察していたが、だんだんと日が落ちていき、あたりが暗くなっていく。

さすがに、暗がりで、遠くから観察していても、人の風貌はわからなくなってきた。


潮時か。


「じゃあ、シャーリー、中で食事して帰るか」


「うん!」


勢いよく返事をしてくれた。


俺も腹を決めて、飲み屋に入ってみることにした。


俺たちが、入り口から入ろうとすると、入り口近くの飲んだくれたちがガンを飛ばしてくる。

気づかないふりをして、中に入る。


中に入ると、四つのテーブルがおいてあり、半分のテーブルが埋まっている。

入り口に三名、中に、八名がエールなどを飲みながら、談笑している。

ただ、その視線が、ときおり、俺たちの方に注がれる。


‥‥注目されているな。


俺は、内心、冷や汗をかきながら、カウンターで、エールを注文する。

シャーリーは甘いりんご酒を頼んでいる。

ほかに、おつまみとして、豆と野菜の炒め物、チーズと、いくつかの果物を注文する。


「でねー、あいつがさー」


飲み始めて、そんなに時間がたっていないのに、もう出来上がっているシャーリー。

相変わらず酒に弱い。


「あ”?あたしの酒が飲めないって言うの?」


しかも酒癖も悪い。


「うっ、うっ、私もつらいのよ。この心の内をハノウスにも見せてあげたいわ」


そんなことを言いながら、服を脱ぎだしそうにしたので、慌てて止めに入る。

もう帰ろう。


俺たちが漫才をしている間中、周りの客がみんな、こちらに注意を払っているのを感じていた。

やっぱり何かあるな、あそこは。

しかも、俺たちより先に中に入り、外にも出てこなかったクスハドたちの姿が、一階では見当たらなかった。

二階の宿屋か、カウンターの奥の部屋にでもいるのではないか、と思われる。


でもまぁ、俺たちが来たことが知られると、疑いをもたれるかもしれないので、直接顔を合わすことがなかったのは、良いことかもしれない。


結局、眠りこけたシャーリーを背負って、寮に戻ることになった。

しかし、シャーリーは軽いな。

あといいにおいだ。


寮に戻った俺は、忘れないうちに、赤竜亭の情報を羊皮紙に書き記し報告書をまとめた。


まずは、『赤竜亭』という、拠点と思わしきところを押さえ、あそこから他の拠点に向かっている人の流れを把握しないといけないな。

しかし、さすがに人手が足りないな。


仕方がないから、明日爺さんに、人手について頼むか。


つか、本当は、俺の仕事じゃないんじゃないか、このあたりは?


釈然としない思いを抱きながら、ランプの炎を消し、床に入ると、すぐに、睡魔が襲ってきた。

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