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御前会議

「城砦奪還作戦は成功裏に進み、敵インデス軍主力千名を撃滅、うち五百名を捕虜といたしました」


グリスラテス軍前線司令部となっている城内の大広間にて、作戦参謀のクリー伯より戦況報告がなされている。

ヘンドラッド国王陛下が長机の上座に座り、諸侯がおのおの机を囲んでいる。

ヘンドラッド国王は齢五十を超えたくらいの初老で、白髪が目立つ。

煌びやかな赤い礼服を着こみ、立派な口髭を蓄えている。


この会議は、国王の御前にて、今後の戦略を決める、最重要な会議だ。


「中央騎士団第一大隊死者二百名、負傷者三百名、第二大隊死者百名、負傷者二百名、第三大隊損害軽微」


東側の中央騎士団第一軍は、やみくもに、城砦の堀に向かって突撃を繰り返していたらしく、死傷者数が多い。

机の向こうで、第一大隊の指揮を直接とっていた、国王長女の入り婿であるセヴェルス公爵が顔を真っ赤にして怒りに震えている。

顔が丸顔で、ヘンドラッド国王よりも若干若いくらい、体つきは大柄で、良く言えば恰幅がよく、悪く言うと太っている。


しかし、セヴェルス公爵の面子は丸つぶれだな。


彼の次期国王へのポイントアップとなるはずの今回の戦が、逆に、彼に軍事的な采配能力がないのではないか、という疑念を周囲に与える結果となってしまった。

セヴェルス公爵の憎悪にあふれる視線が痛い‥‥。


「第二軍ジャスタン侯爵軍損害軽微、傭兵隊の損害も軽微です‥‥」


セヴェルス公爵の視線に負けて、細身の身体をさらに縮ませ、最後は、尻すぼみな声となってしまったクリー伯。根性がない。


今回は、もともと、俺たち第二軍は牽制目的が主目的で西部側への陽動が第一目標であったので、誰もまさか西側から攻略できるとは思っていなかったようだ。


「ジャスタン侯爵、大義である。この度の活躍まことに天晴」


国王陛下が俺の方に向き直り、直々にお声をかけてくれた。

俺は直々にお褒めの言葉を預かったので、直立不動にて敬礼をする。


「これも陛下の御威光あればこそ。また、セヴェルス公の東部での奮戦があればこそ、我々は手薄となった西側を破ることが出来ました」


セヴェルス公の顔も立てておく。こうしておかないと後で無用な憎悪を一身に受けることになる。


「殊勝な心がけである。さて、だが、我が国においては信賞必罰を旨としておる。これだけの戦果をだした貴君へは何か褒美を与えなければな。例えば、そうだな。そろそろ身を固めて妃などを迎える、などというのは粋な計らいかもしれんな」


会議がざわめく。国王から妃の話がある、ということは、王族に迎え入れる用意がある、と宣言をするようなものだ。

セヴェルス公爵の視線がいよいよ熱を帯びてきている。発火しそうだ。


それと同様に、なぜか、背後に控えている副官のシャーリーの顔が赤くなったり、青くなったりしている。ちょっと面白い。


「まことにありがたく、身に余る光栄でございます。しかし、まだ、戦が続いておりますので、時期が悪いかと」


「ふむ、たしかに時期も重要であるな‥‥。すまなかった。今の話は忘れてくれ。」


後ろで、シャーリーが、ふー、と大きく息を吐いている。

なんで、そんなに緊張しているんだ?


「では、代わりに何を褒美としようか。領地が良いか、報奨金がよいか‥‥」


「‥‥もし、陛下のお許しいただけるのでしたら、私めが開発いたしました、『遠眼鏡』について特許状をいただきたく思います」


「ほう、そなたのまた新しい発明品か。そなたは無限にアイデアが浮かんでくるのだな。よかろう許可を出そう。詳細については、この度の戦が終わったのちでよいな」


「はっ、ありがたき幸せ」


最初の特許状はいわゆる『メガネ』についての発明で得た。

ドワーフの工房と組んで質の良いメガネを大量生産に成功し、かなりの額を稼いでくれている。

口さがない貴族たちに言わせると、『ジャスタン商会』などと陰口をたたかれているが、前世で商売をしていた自分としては気にならない。


というか、実際に、ギルドとの関係もあり資産管理会社を作った。

有力なギルド関連の商人の方々に出資をしてもらい、最近は、だいぶ羽振りが良い。

『株式』という制度がまだこの世界にはなかったので、たぶん、この世界では俺が初めての株式会社の創設者だ。

名前も、そのまま、てらいも無く『ジャスタン商会』と名づけた。


国も商品にかける関税で潤い、商売敵のギルドの商人も会社の投資益で儲け、俺も特許料で儲ける。

顧客も良い商品が買えてハッピー、工房も商品を大量に売れてハッピー。みんなハッピー。

いわゆる三方良しは日本の商売人の精神としては基本ではあるが、この世界だと異端の思想みたいだ。


「では、続いて、軍議を再開する」


陛下の宣言により、侃々諤々と議論が再開される。


「こたびの戦の勢いを維持し、攻勢をこのまま維持すべきです!」


セヴェルス公爵が最右翼の意見を述べる。それに同調する主戦派の諸貴族。


「補給路はすでに限界です。これ以上の作戦続行は不可能だと判断いたします‥‥」


作戦参謀のクリー伯は、細い体全体を使って一生懸命に意見を述べる。

彼は、守備の用兵と、補給に才能がある。

ただ、用兵それ自体には才能はあるが、残念ながら、意思が弱いところがあり、指揮官としてはあまり成績が芳しくない。

弱気な性格なので、こういった場面では、いつも損な役回りを演じる羽目になっている。


そんな彼が、珍しく気色ばみ、強行に反対しているということから、本当に、補給状態が厳しいのだなと察する。


「ふむ。ジャスタン侯爵。何か意見はないかな?」


陛下が下問してくる。もともと、ヘンドラッド国王は奪還作戦を超えた敵領地への遠征には乗り気では無く、セヴェルス公爵の意見に引っ張られて戦いをしたくないと考えている、という情勢なので、助け舟をだす。


「軍事専門家が作戦限界であることを客観的に述べております。また、当初の作戦目標であった、前年度にインデス軍に奪い取られていた、砦の一帯も奪回できました。したがって、これ以上の作戦には大義がないように思えます。ここは、こちらに有利な形で講和にもっていくのが良策かと。仮に講和を蹴られても、休戦中に補給部隊を前線近くまでもってきておけば、次の作戦をすぐにでも開始できますし、相手軍への威嚇にもなります。また捕虜の中から高位の者のリストを至急作成し、インデス軍との交渉に利用すべきかと」


「それもそうであるな。よし、クリー伯爵よ、インデス軍へと休戦と講和の使者を送るように」


国王の内心の思いも慮って、落としどころを提案したが、あっさりと乗ってきた。ちょろい。

それと、セヴェルス公爵が顔を真っ赤にしてこちらをにらみつけている。

いよいよ、俺を敵だと認識しつつあるな。


あまり、ああいった手合いとは争いたくないんだけどなー‥‥。


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