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悪党と大悪党

「ん。書状を渡してきた‥‥」


「ごくろうさん」


グリスラテス王国の教会関係者たちの警護を取り仕切っている教会騎士団長宛に、俺がしたためた書状を、無事にミリーが届けてくれた。

ベクルト枢機卿について、夜の警護をお願いする旨の書状だ。

だが、どうせ、教会騎士団とラカスル枢機卿はつながっている。

公会議を明日の午後に控え、動くならば今日だろう。


「サスーン。首尾は?」


「はっ、ここに」


サスーンに命じて調査させていたラカスル枢機卿の身辺だが、出てくる出てくる。

不正の総合デパートだ。

身辺をかぎまわるものには、金品による取り込み、恫喝、果ては殺害して証拠隠滅をしていたみたいだが、上には上がいることを今回わかってもらわないと。


「よし。これだけあれば、彼を大人しくできるだろう。あとはタイミングだけだな。ところでラカスル枢機卿の夜の予定は?」


「公会議の準備のため面会謝絶とのことでございます」


「よし。ジャスタン商会警備部から数部隊、陽動部隊を見繕ってくれ。ミリーとシャーリーは俺とともにベクルト救出に向かう」


「救出?」


ミリーが怪訝そうに首をかしげる。


「あ、あんた、もしかしてベクルトのこと‥‥」


シャーリーが唇を震わせている。だいたいわかっているらしい。


「申し訳ないが、ベクルトにはラカスル枢機卿をおびき寄せる囮になってもらう。確実に相手方の票を一票つぶすためだ。ここで、教皇派に勝ってもらっても、俺も困るしな」


「今すぐにでも助けに行かないと!」


シャーリーが今すぐにでも駆けて行きそうだ。


「まぁ、待て。タイミングが全てだからな。動かぬ証拠を突きつけるにも、相手が一番、後ろめたいときを狙わないといけない」


「そ、それで友達を危険な目に合わせるわけ‥‥」


シャーリーが愕然としている。


「俺は為政者だからな。勝つべきときは勝たないといけない。そのためには、どのようなリスクもとる」


それが命を預かる将兵の義務だ。


「だが、安全も最大限考慮に入れている。まぁ、大丈夫だ。信じろ」


「う、うん‥‥」


シャーリーが心なし悲しそうにうつむいている。


「私もついている」


ミリーが頼もしげに胸を張っている。ないけど。


「そ、そうだね。ベクルトの貞操は私が護る!」


シャーリーが拳を振り上げて、気勢を上げている。だから、ちゃんと、閃光弾渡してあるから、大丈夫だって。


‥‥そして夜が来た。

すでに、ラカスル枢機卿の息のかかった教会騎士たちがベクルトの周囲を警護していることを掴んでいる。

陽動部隊の力を借りて、警護の者が少なくなったすきに、館の中に忍び込んだ。

今、俺たちは、事前に手に入れていた館の見取り図をもとに、ベクルトの部屋の近くで息を潜めている。


こつっ、こつっ‥‥


誰かが廊下を歩くことが聞こえる。足音から考えて二人だ。

二言三言、なにやら部屋の前で話した後、部屋の前から数名の足音が遠ざかっていった。

人払いをしたな。


「よし、まもなく動くぞ。準備をしてくれ」


小声で、二人に準備を促す。

ミリーがメイスを握りなおし、シャーリーがレイピアを鞘から抜き出し、いつでも走り出せる体勢になっている。


「キャー」


叫び声と同時に、轟音が聞こえてきた。合図だ。


「よし。いくぞ!」


掛け声とともに駆け出す。


部屋の入り口に鎧をまとった大男がこちらに背を向けている。

ミリーがメイスをすごい勢いで振りかぶっている。


「殺すな!」


とっさに叫ぶ。

大男の頭に向けて振りおろしていたミリーのメイスの矛先が少しずれ、大男の肩口にぶち当たる。

すごい勢いで、すっとんでいく大男。


「殺してない。たぶん」


ミリーが、ふんっ、と胸を張っている。ちょっとえらそうだ。


「よし。ミリー。ここで見張っていてくれ。誰かが入ってこようとしたら排除しろ」


「わかった」


そして、俺は、扉を蹴りあけた。


「助けて‥‥ハノウス‥‥」


部屋に飛び込んだ俺は、下着姿のベクルトが、床に突っ伏しているのを目撃する。

その傍らには、顔を両手で覆っている剃髪の太った男がつっ立っている。

閃光弾を間近にくらって、悶絶しているみたいだな。

一瞬にして状況を悟り、男にとび蹴りを食らわせ、床にすっ飛ばす。

そして、床に倒れているベクルトに声をかける。


「待たせたな」


「え‥‥え‥‥?」


ヒーローみたいにかっこよく登場はできたみたいだ。動機は不純だが。

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