公会議に向けて
「しかし熱いな‥‥」
「もう夏だしねー。でも、グリスラテスよりはからっとした感じ。空気が乾燥してない?」
公会議が開催される、ランス王国内第二の都市、商業都市グリモワに到着した俺たちは、現在、商館の一つを借りて、前進基地として使用している。
今は、シャーリーとララ、それにベクルトと、ぬるいお茶を飲みながら会議の打ち合わせをしている。
部下達のためにも、館は複数借りているが、近くに分散させて駐屯させている。
これは表向きの兵力なので、正式に俺名義で借りている。
ほかに、ジャスタン商会警備部隊をギルド名義で複数借りた家々に駐屯させている。
「ベクルト猊下は、こちらには滞在なされないのですか?」
いつもどおり優雅に紅茶を飲みながら、ララが心配そうに尋ねる。
今日は、ランス産の白い陶磁器を使って飲んでいる。文様がおしゃれだ。
ララは守備よく、ランス王国の王弟ガスカー公爵に雇われる形となった。
グリモワ市でも、ガスカー公爵の領地の一角に天幕をはらせてもらっている。
俺たちの予備兵に関しても、今は、共同訓練、という名目で、ガスカー公爵の軍と行動をともにしている。
一応、蜜月関係をアピールしているが、どこまで本気にしてくれているかはわからん。
「うむ。一応、われわれグリスラテス国からの使者は、一括してわが国の教会騎士団と現地の教会騎士たちが守護する建前だからな」
「昼間はこちらにおいでになるのでよろしいのですが、夜間は危険ではないのですか?」
「ははっ、そこまで奴らも蛮人ではあるまい。君たちにはここにいてくれているだけで良いんだよ」
ベクルトは、純粋に宗教内だけの争いで閉じていると判断しているな。
俺の直感と、事前調査の結果によると、本当はベクルトはかなりヤヴァイ状況である。特に、肉体的に。
「あー。ところで、ベクルト。現在の公会議の投票状況はどうなりそうだ?」
「あと一人、あと一人こちら側に寝返って、反対票か棄権をしてくれれば否決に持ち込める。‥‥だが、このままだと可否同数となり議長採決となる可能性が高い。今回の公会議の議長は、慣例に応じて主催国、つまりランス王国の枢機卿だけど、がちがちの教皇派だ」
そういや、ベクルトの口調が、昔に戻ったな。
もう、公式の時間は終わった、ということか。
しかし公会議の裏側での暗闘が激しそうだな。
きっと、相手方も、こちらの勢力を切り崩し工作をしているな。間違いなく。
ベクルトは内部の結束は固いと信じたいだろうけども、大方の連中は強いほうにつく。絶対に。
「ふむ。ところでグリスラテス国からのもう一人の枢機卿は?」
「あぁ、ラカスル枢機卿は、教皇派の重鎮だ。なんども説得を試みているのだが、私に教皇派になれの一点張りだ。あと、あの御仁は、いつもいやらしい目で、私を見るのできらいだ。最近は、あまりしゃべっていない」
ベクルトは両手で自分の身体をぎゅっと抱きしめている。
胸が強調されていて、ちょっと良い眺め。
っ痛い。
横からいきなり足にけりが入った。
隣を見るとシャーリーがすごい顔でこちらをにらんでいる。怖い。
「あー。とりあえずベクルト。ラカスル枢機卿にはくれぐれも気をつけるように。一応、俺たちも夜間に、お前の警護をするようにするが、心持としては、自分の身は、自分で護るようにな」
「言われなくともそんなことはわかっている!」
ぷんすかとベクルトはむくれる。かわいい。
にこやかに目じりを下げていると、また足にけりが入った。痛い。
「とりあえず、これを持っておけ。使い方はこのピンを引っこ抜くだけだ。危なくなったら引っこ抜け。すごい音と光がでる」
「あ、ありがと‥‥」
とりあえず、お守り代わりに、閃光弾を渡しておいた。時間稼ぎにしかならないが、何もないよりはましだろう。