指揮官会議
「‥‥という現状認識だ。ランス王国へのベクルト枢機卿の警護のために、第一〇一小隊百名を動員する。また、今後の交渉次第だが、第一〇二と一〇三小隊もランス王国内に進駐する可能性がある。第二〇一から三〇三小隊までは、準戦闘態勢にて、本国待機」
一個中隊三百名規模でランス王国内での警護を担当する計画を立てた。
ほかに、ジャスタン商会の警備部と、ララたちの兵力を加えれば一個大隊千名ほどの部隊になるので、急な戦にも対応できる。
まぁ、相手が本気を出して、一万規模の軍勢を動員してきたら、全面戦争になってしまうが。そのときはそのときだ。
「隊長、質問」
「なんだ、ミリー?」
見た目はチビッこい少女にしか見えない彼女こそ、ジャスタン軍一の猛将である。
前回の功績で貴族の末席に加わったので、今は、小隊長として、第一〇一小隊を率いている。
栗毛色の短い髪の毛の持ち主で、肌はちょっと浅黒い。
今は、動きやすい綿服を着込み、机の上の干し肉とチーズをつまんでいる。
会議のときくらい、食べるのを止めろ。
「敵の規模は?」
「最悪の事態としては、ランス王国の皇太子派と、がちでやりあうことになる。相手の規模は少なく見積もって五千名ほどだ」
「ん。一人当たり五十名か。わかった」
わかった、じゃねーよ。この脳筋。
一個旅団相手に、一個小隊で戦おうとするなよ。頭使ってくれよ。スパルタ人じゃあるまいし。
心の中でののしる。
「えー、あれだ。とりあえず、編成は任せる。各将、ほかに質問は?」
いくつか、兵力分布や部隊の補給、移動についての実務的なやりとりをして大まかな計画を打ち合わせる。
「よし。計画の詳細と訓練は任せる。あと、相手軍情報については、情報が入り次第打ち合わせる。では各自の任務に戻ってくれ」
会議を終了した後、ラボに立ち寄る。
隠し倉庫から外に出した後、ずっとむくれているマクニー博士のご機嫌をとるため、シャーリーお手製のお菓子を持参する。
「博士ー。そろそろ機嫌を直してくれよー」
実験を黙々と続けていた博士はこちらをきっとにらみつけ、はき捨てる。
「わたしとしては、レディを羽交い絞めにして監禁するような変態とは会話をしたくないんですけどね」
「まぁまぁ、そう言わないで。あ、これシャーリーの手作りクッキー。博士の好きなナッツとベリーがたっぷり入ったやつ。どう、食べない?」
「む、むむ」
あ、興味を示してきた。
「あ、そういえば、前に頼んでいた狙撃用大砲へのライフリングの導入実験はうまくいってる?」
「おぉ!よくぞ聞いてくれました。親方に頼んでいたライフリング入りの狙撃用大砲だけど、実験はうまくいったよ!これで、前に開発した遠眼鏡で作ったスコープと組み合わせると二百メートルの距離ならば、相手の兵士の首だけ上を吹っ飛ばせるよ!」
嬉々として危ないことを言ってのける。倫理観は、どこかにおいてきているな。
このマッドサイエンティストめ。
「そ、そうか。それはうれしいな。で、量産と訓練はどうだ?たとえば、一ヵ月後にはどれくらいできそうだ?」
「んー。大砲本体ならば、今ある奴を改良すれば十丁はそろうと思うけど、射手がねー。撃てるだけならば撃てるんだけど、当たらないと思う」
「じゃあ、誰が今は射撃が一番うまいんだ?」
「ん?私だよ?」
博士がけろりと自白してくる。徴兵確定だ。
あとは、昔取った杵柄で、俺も狙撃ライフルならば撃てる。
まさかこんなところで大学時代のライフリング射撃の経験が役に立つとは思わなかった。世の中なんでもやってみるもんだな。
「じゃあ、引き続き、狙撃大砲の量産と射手の育成を頼む。一人でも多く、腕が良い射手を育成してくれ」