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枢機卿の依頼

お昼時、館内の応接間にて、ソファーに深く腰掛け、客人と相対する。


「お茶にございます」


サスーンが、客人と俺、あと、なぜか俺の隣で、やけに身体を密着させてくるシャーリーに紅茶を煎れてくれた。

シャーリーは客人に向けてすごい視線を向けている。

というか、シャーリーさん、近いんですけども。


「というか、なんで、あんたがここにいるのよ」


すごい剣幕でシャーリーが客人に対して威嚇をはじめた。

昔から、この二人は犬猿の仲だ。

もうちょっと仲良くしてもいいと思うのだが。


「‥‥姫、今日はあなた様には用はございませんので、席をはずしていただければうれしいのですが」


客の方も丁寧ながら毒のある言葉遣いだ。

昔は、もっとひどい言葉遣いだった気がするが、今は、一応立場があるのだろう。


長いつやつやした黒髪。前髪はちょっと短め。

漆黒の法衣の上に、最高位の枢機卿のみが着ることを許された紫の帯を巻いている。

ベクルト枢機卿。俺の幼馴染にして、最年少にして教会の最高位、枢機卿の一人に選ばれた才女だ。


お互いがガンを飛ばしあっているので、ちょっと居心地が悪い。


ごほん。

咳払いをして話を切り出す。


「あー、ベクルト枢機卿。お久しぶりでございます。このたびは、我が家においでいただき、恐悦至極に存じ上げます。お忙しい枢機卿が参られた、ということは何か理由があってのことでございましょうか」


異端審問にかけにきました、とか言われても不思議ではないシチュエーションなので、下手に出ながら問いかける。

昔、ベクルトに助けられて以来、まったく頭が上がらない。


「はい。東部方面騎士団長のハノウス様に、ぜひお願いしたいことがございまして、こうしてまかりこしました」


「‥‥えー、お願い、というのは何でしょうか」


何だろう。嫌な予感しかしない。


「単刀直入に申し上げます。東のランス王国にて来月開催される公会議への私の護衛を、東方方面騎士団にお願いしたいのです」


えー。

一応、ランス王国って、俺と何度か命のやり取りをしている間柄なので、まかり間違っても『仲良く』はできない関係だ。

そんな国へ、ほいほいとついていくのは危険すぎるのだが。


「えー。枢機卿。なぜ、われわれ東方方面騎士団に依頼するのです?中央騎士団や、教会騎士団でなしに?」


騎士団にも色々な種別があり、我がグリスラテス国の教会は、ちゃんと、私兵集団『教会騎士団』を有している。

あと、中央騎士団は、やはり、教会中枢と仲がよく、色々と便宜を図っていたはずだ。

それに、ランス王国とも直接やりあっていないので、まだ、角が立たない。


いぶかしげな視線に気づいたのか、ベクルト枢機卿はちょっと考え込んだ後、笑顔を浮かべ語りだした。


「今回の公会議では、諸国の教会の高位の方々が多数いらっしゃいますので、ぜひとも、わが国の英雄のジャスタン様をご紹介できれば、と思ったのでございます。将軍のご名声は東方のランス王国においても、広く知れ渡り、よもや、ジャスタン様のご機嫌を損ねるようなことはございますまい。このたびは、ぜひとも、私目に、将軍の御威光をお貸しいただければ、と思いこのように直接お願いにまいりました」


俺の目をまっすぐに熱っぽく見つめながら、手を取って、語ってくる。

俺の手が、ベクルトの大きな胸のあたりまで引っ張られる。

ちょっと役得。


‥‥だが、なんだか、うさんくさい。

絶対に裏がある。


「こらー、離れなさーい!」


そんな様子が、シャーリーには気に食わなかったらしく、急いで、俺たち二人の間に割ってはいる。


(ちっ)


え?今、ベクルトさん、舌打ちしませんでしたか?


「では、ジャスタン様、よろしくお願いいたします。あと、もしお断りするというのでしたら、残念ですが、ジャスタン様の信仰に偽りあり、といううわさが、もしかすると、もしかすると、あちらこちらから聞こえるやも知れませんよ」


にっこり笑いながらベクルト枢機卿は最後には、脅しを入れて帰っていきやがった。

最初から、俺に拒否権ないじゃねーか。



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