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望郷願望

「フィンラー公、中央騎士団団長に任ずる」


ヘンドラッド国王の重々しい声が宮廷の広間にこだまする。


クーデター騒ぎの最中に、中立を決め込んでいた者の中で、最年長の公爵が新しい騎士団の団長に任命された。

ちなみに、軍事的な才能はこれっぽっちもない方だ。


本当は、俺に、陛下じきじきにお声をかけられていたのだが、固辞した。

さすがに、中央に入り浸ることになっては、領地経営に支障がでてしまう。


で、色々と折衝したあげくに、以下のような按配となった。


「ジャスタン侯爵、公爵位に叙する。合わせて、中央騎士団副団長および、新設する東部方面騎士団騎士団長に任ずる」


俺の領地コーンリッツは、東部戦線にあり、常に、東側からの脅威にさらされている土地だ。

まぁ、何度も敵兵には教育をしてやっているので、しばらくは、攻め込んでくることはないとは思うが、一応、周辺の貴族どもを強制的に動員するための法的な根拠をいただいた。

あと、セヴェルス公が追放されたことで空いた公爵位に俺が横滑りした形だ。

グリスラテス国で八人しかいない公爵位についた事で、これからは、定期的に中央にいって会議をしないといけない、面倒だ。


「謹んで拝命いたします。神とヘンドラッド国王陛下の御為、身命を賭して、任務に当たります」


一応、儀礼に則って宣命する。

ちなみに、これでも俺は、教会からの洗礼を受けている身だ。

前世と同様に、まったく信じてはいないが。


国王陛下の御前から、広間の東側にある自分の立ち位置に戻ると、また次の者が呼ばれ、式が続けられる。

ふと部屋の南側方向、俺から見て左側を見ると、そこには、招待客たちが観客として立ち並んでいた。

その端っこの方では、ララ、ミリー、マクニー博士たちがこちらを見ており、目があった。

お互いに笑顔を浮かべる。


やっとこれで帰れる。

かれこれ、遠征から先、半年以上領地に戻っていない。

故郷でシャーリーが振舞ってくれるひき肉とたまねぎのパイの味が懐かしい。


しかし、やっぱり、シャーリーのやつはいないな。

どこで油を売っているのやら。


「ここで、諸卿に重大な発表をしたい」


式がつつがなく進み、陛下からのお言葉を頂戴する場面で、いきなり式次第にないことが起こった。

ん?聞いてないぞ。


事務を取り仕切っていた周りの貴族たちもざわついているので、どうやら、国王個人で準備をしていたらしい。なんだ?


国王の背後の控え室の扉から彼女が現れた。


おいおい。


「このたび新たに認知したわが娘、シャーロット姫を紹介したい」


シャーリーがパールホワイトのドレスを着て、頭や首もとを、宝石で着飾って立っていた。

そして、優雅に一礼する。


「シャーロットにございます、諸卿の皆様方には、以後、お見知りおきを」


「‥‥」


誰もがポカーンと口を開いている。

そりゃそうだ。

つーか、シャーリー、お前、陛下の隠し子だったのかよ!


「正式な認知と、王位継承権の問題については、これから、貴族会議と、教会の枢機卿会議において議論させてもらえればと思う」


国王とシャーリーはお互いにうなずきあった後、シャーリーは控え室に戻っていった。


正直、その後の式の様子は目と耳に入ってこなかった。


式が終わり邸宅に戻った後、シャーリーがいつものようにひょっこりと戻ってきた。


「えへへー。内緒にしておいてごめんねー。お父様に固く口止めされていて」


割と、あっけらかんと話してくる。

じと目でにらみつけると、手をぶんぶんふりながら言葉を足してくる。


「あ、一応しばらくは、王都で過ごすことになるんだけど・・・、ほら、ほとぼりが冷めればまた、故郷に戻れるよー、たぶん」


「そんなに簡単なわけあるか!」


内心、なんで俺こんなに不満がたまっているんだ、という感じだ。

わからない。不思議だ。


「お館様、お客様でございます」


あーだこーだと話をしていると側近のサスーンが耳打ちしてきた。気が立っていたので、つい語気が荒くなってしまう。


「今は、誰かと会いたいという気分ではない。お帰り願え!」


「申し訳ありませんが、お館様のご命令でもそれは無理でございます。(国王陛下がいらっしゃいました‥‥)」


最後は非常に小さい声で耳元に囁きかけられた。

主犯が来たか!しかもこのタイミングで。


シャーリーが半べそをかきながらうなっているのを背に、陛下に会いに行く。


応接間に向かうと、そこには、ヘンドラッド国王と、もう一人、背筋がぴんと張った軍服を着た老人が立っていた。


「し、師匠!」


「久しいな、ハノウス。立派になりおって」


剣聖マスタング。俺が王都の士官学校にてお世話になった先生だ。


「親友のマスタングから、お主のことを聞き及んでおったのだ。迷うたらお主の言に耳を傾けよと、とな」


合点がいった。

俺の発案に、国王陛下があっさりと承諾を与えていたのは、俺の策を理解していたからではなく、師匠のお墨付きがあったからなんだ。

人間関係って、大事だなー。


「さて、今回こちらに来たのは、一人の父親としてお願いがあったからでな」


(ごくりっ)

思わずつばを飲み込む。


「と、言いますと‥‥」


「最初、お主に、娘シャーロットを后としてくれてやろう、そう思ったのだ。しかしながら、本人が、強制的な形で婚約をさせるのは何かが違う、とか言い出しおってな」


肩をすくめる国王。


「あれは、死んだ母親に似て強情な娘だ。なので、強制的に婚約をさせるのはやめた。だが、一人の父親としてあれが不憫にも思う。そこで、お主にシャーロットを預ける。お主ならば、あれとも、今までどおり仲良くやっていけるだろう」


「と、言いますと‥‥」


国王の真意がわからず問い直す。アホみたいに、同じ言葉の繰り返ししかでない。


「うむ。あやつをわしの名代として、東部方面騎士団に預ける。しっかりと護ってやってくれ」


「はっ、はい!」


思わず直立不動で答えてしまう。


「では、任せた」


「ハノウス、またな。今度酒場で、エール酒でも飲もう」


嵐のようにやってきた二人が帰った後、しばらく応接間でボーっとしてしまった。

魂が抜けるとはこのことか。


なかなか帰ってこない俺のことが気になったのか、そーっと、扉からシャーリーが顔を出してきた。


「なにかあったの?」


ちょっと不安そうに声をかけてくる。


「いや、なんでもない。さぁ、コーンリッツの懐かしい城に帰ろう!」


笑顔を浮かべ答えた。

これにて第一部『西部動乱編』は終了です。私の拙い文章にここまでお付き合いいただきまことにありがとうございました。第二部は近日中にまた書きはじめたいと思います。一応、東部の領地でのお話にしたいなー、などと思っております。感想欄に何か一言感想でも書いていただけると大変にうれしいです。

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