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66.行き先

 

 今回の修学旅行は五泊六日で九州旅行と決まった。

 一日目は鹿児島!二日目は宮崎、三日目は熊本、四日目は大分、そして五日目と六日目が福岡に行くことになっていて、そのうち五日目の福岡が″班ごとの自由課題″という名の自由行動の日となる。

 ちなみに行きは一気に飛行機で鹿児島まで、帰りは新幹線での帰路となるようだ。


 このうち目に留めたのは五日目の自由行動。もし俺が何か″自分の過去″を調べるとしたら、この日を置いて他にないだろう。

 だけど、俺が思い出した過去の記憶……その場所はたしかに九州に存在すると認識していたものの、それが福岡なのか宮崎なのか佐賀なのか、それすらさっぱり分からない状況だった。


 とりあえず、場所の特定が先決だな。とはいえそう簡単には判明しないだろうなぁ。やっぱ厳しいかな。


 半ば諦め気味にそう思っていたんだけど、予想に反して事態は急展開することになる。

 なんと俺は″目的地″を思い出すことができたのだ。そのキッカケは、本当に偶然に……まるで運命の女神様の気まぐれのように、俺の目の前に突如現れたんだ。




 ◇◇◇




「で、自由行動日はどこに行く?」


 班のリーダーを引き受けてくれた--というより他に適任者がいないから引き受けざるをえなかったガッくんが、会議を進行させるために話を振ってくる。

 でも俺は返事を返さず、目の前に広げられた観光ガイドをパラパラとめくっていた。


 今日は班のメンバーが集まって自由行動の予定を決めることになっていた。とはいえレーナは仕事が忙しくて不在だ。

 いおりんが彼女から「アカルが決めたところならどこでも良い」というありがたいメッセージを受け取っている。信頼は嬉しいんだけど、それって丸投げってもんですぜ、お嬢さん?


「なーガクカ、ここ行こうぜ! 中洲ってとこ。可愛いねーちゃんがいっぱい居るみたいだぜ?」

「おいコラ冥林めいばやし、中洲は歓楽街だ。高校生がそんなとこ行けるわけないだろう?」

「んー、じゃあ志賀島は?」

うしお、悪くはないが交通の便が悪いな。とりあえず仮候補に置いておこう。……明星あけほしはどうだ?」

「わ、わたしは特に希望はありません。みなさんの行きたいところで……」

「そういう考えは良くないな、自分の意思を出すことも大事だぞ? ということでもう少し考えてくれ」

「す、すいません。わかりました……」


 こんな感じで会話を交わしながら、自由行動日の予定を決めようと話が進んでいく。


「日野宮はどこか行きたいところはあるのか?」

「んー、ごめん。いま調べてるところだからもうちょっと考えさせて」

「ったく、お前たちは何も事前に調べてないんだな。ちゃんと予習くらいしてくれよ……」


 そんな、修学旅行の行き先に予習なんてするのはガッくんくらいだと思うけど?


 俺はガッくんに生返事しながらパラパラとガイドブックのページをめくっていく。福岡の観光地がいろいろと掲載されていて、たとえば大濠公園なんてところはなかなか面白そうだな。


「ここなんてどう? 貸しボートなんかもあって楽しそうだけど」

「ほほぅ、大濠公園か。まぁそこなら交通の便も良さそうだな。仮候補に入れておこう」

「ガッくん、さっきから仮候補ばっかりじゃん」

「まぁそう言うなよ汐、せっかくだからじっくり考えて決めようぜ」


 いくつか案を上げては、ガッくんに却下されるか保留される。そんなことを繰り返しているせいで、なかなか場所が決まらずにいた。


 ったく、行き先なんて早く適当に決めれば良いのにさ。そんなことを内心思いながら手にしたガイドブックのページを進めた--そのとき。俺の手がピタリと止まった。


 こ、この場所は……。


 そのまま、そのページに釘付けになる。

 覚えてる。覚えてるぞ。俺は間違いなくこの場所を知っている。たぶんだけど、過去の俺はきっとこの近くに住んでいたはずだ!

 なんてこったい、こんな形で記憶に残る場所が見つけられるとは思わなかった。まさに青天の霹靂、いや違うか、棚から牡丹餅かな?


 いずれにせよ俺は、ついに見つけた過去の記憶への糸口を前に、溢れ出る興奮を抑えられずにいた。


「……ねぇガッくん」

「ん? どうした日野宮」

「私、ここに行きたい。ってかここ以外考えられない」


 かなりハッキリとした態度と口調で言ったのが驚きだったのか、全員が俺が指差すページに目を向ける。

 そこには、福岡にある有名な大きな寺院が映し出されていた。


「ほほぅ、そこか。まぁ福岡では有名な場所だな。しかし日野宮は神社仏閣に興味あったのか?」

「そ、そんなわけじゃな……いや、そうだね。興味あったんだ。だから絶対にここに行きたい」

「あん? おいアカル、他じゃダメなのかよ?」

「他はイヤだよミカエル。私は……ここに行きたい」


 そのあともすったもんだあったものの、結局は俺の強硬な態度に全員が折れて、五日目の自由行動日は、例の神社仏閣に行くことに決まったんだ。




 ◇◇◇




 その日の夕方、いつものように学校をあとにする。今日は珍しく何の予定も入ってなかったので、そのまま帰る予定だった。


「日野宮さん、さようなら」「おおおお姉様、ごきげんよう!」「薔薇姫様、気をつけて〜」などと他の生徒たちから挨拶されて、とりあえずにこやかに返事を返す。それにしても薔薇姫って呼び名はキッツイなぁ。言われたこっちの方が恥ずかしいんだけど。


「アカールちゃん、一緒に帰ろっ!」

「んあ? いおりんか、いいよー」


 返事を返すといおりんはニパッと輝くような笑みを返してくれた。うわぁ、眩しいよ姫王子その笑顔は。


「ところでアカルちゃん、今日はえらくあの場所にこだわってたね?」

「ん……そうだね、前から行ってみたかったんだ」

「その割には、最初から行き先として出てこなかったよね?」

「そ、そそそれは……あぁ、忘れてたんだよ! 行きたいなーって思ってたんだけど、写真見るまで思い出さなくてさっ」

「ふーん」


 俺の苦しい言い訳にジト目で見つめてくるいおりん。その目はやめてー、なんだか女の子に下から見上げられてるみたいでドキッとするわ。


「まーでも楽しみだね、修学旅行。班のメンバーも気心知れた人たちばっかりだしね」

「そそそそうだね。確かに見事なまでに固まっちゃったよねぇ。特に男子は【キングダムカルテット】四人のうち三人がいるしさ。一二三ひふみトリオなんかには『一人くらいよこしなさいよ!』って本気でずいぶん責められたよ」

「あははっ、実際クラスをまたいで作られた班はうちらくらいだったからね」


 へぇーそうなんだ。本当にうちらは特別扱いだったみたいだな。


「レーナちゃんもすごく楽しみにしてたよ」

「そ、そうなの?」

「うん。たぶんレーナちゃんは卒業後は本格的に芸能界入りすると思うから、普通の友達と旅行に行くなんてのは、これが最後のチャンスかもしれないんだよね。本人もそのことは分かってるから、余計楽しみみたい」


 レーナがそうやって楽しみにしている修学旅行のうちの貴重な一日を、俺は私利私欲のために使おうとしている。

 みんなには本当に申し訳ないと思う。すごく心苦しい。だけどこの機会を逃したら、もしかしたら過去の記憶を取り戻すチャンスを失うことになるかもしれない。


 だから俺は、自由行動日の本当の目的はみんなに秘密にしなきゃいけない。それに、もし本当のことを言ったとしても、どうせ誰も信じないだろうしね。


 はぁー、でもなんか気が重いなぁ。




 ◇◇◇



 

「はぁぁ……」


 思わず漏れたため息に、目の前でメロンパンアイスを頬張っていた【G】がピタッと動きを止めた。


「あ、もしかしてこのメロンとパンとアイスが奇跡のコラボレーションをしたこのスイーツが食べたかったのか?」

「んなもん食いたくねーよ!」


 そう言うと【G】は安心した表情を浮かべ、目の前のメロンパンアイスに食いつき始めた。ったく、こいつはスイーツさえ食っとけば満足なのか?


 今日も俺は、【G】のたってのリクエスト、というか熱烈な催促メールが来たので、仕方なく一緒にスイーツを食いに来ていた。本当はこいつの相手するくらいだったら、例の神社仏閣あたりのことを調べたかったんだけどなぁ。


 とはいえこの件はさすがに【G】に相談することはできない。なにせ【G】は俺の過去の記憶を封じてる側の存在だ。俺が自力で記憶を取り戻すことを良しとしない可能性が高いからね。


「そういえば、修学旅行は九州に決まったよ」

「ムグムグ、ほうなのか。モグモグ、れもわらしは行けない…ゲホッ」

「ちゃんと口の中のもの飲み込んでから話せよな、せっかくの美少女なのに」

「ぶふぉっ⁉︎」


 うわっ、きたねっ! こいつ俺に向かって口の中のもの吹き出しやがった。


「コラ【G】! てめーなんてことしやがるんだよっ!」

「ゲフォッ、ゴフォッ! お、お前が変なことを言うからだろう、バカっ!」

「変なこと? 俺なんか言ったかな?」

「い、いや、その……私が、びびび美少女だと」

「あー言ったよ。実際【G】は可愛いじゃん」

「んんっ⁉︎」


 非現実的な髪色といい、欧米風でありながら和風も混じったようなルックスといい、ぶっちゃけ【G】は相当可愛い部類に入ると思う。あー、もしかして自覚なかった?


「や、やめてくれ。私はそういうのに免疫が無いんだ……」

「へー、勿体無い。絶対モテるだろうに」

「う、うるさいっ! もうそれ以上言うなっ!」


 顔を真っ赤にして照れる【G】。むふっ、こいつも揶揄うと面白いな。


「まーいいや、それよりさっきなんて言ったんだ? よく聞こえなかったんだけど」

「ん? あぁ、私は修学旅行には行けないと言ったんだ。たとえ召喚されても圏外になるから、あらかじめ了承しといてくれ」


 圏外? 圏外ってなんだよ。まるっきり携帯みたいじゃないか。


「私には制限……そう、制約があってこの街からあまり遠くに離れることが出来ないのだ。だからさすがに九州まで行ってしまうと無理だな」

「ふーん、なんかよく分からないけど不便だな」

「とはいえ、さすがに九州にまでは【魔王】は現れないと思われるから、心配する必要は無いと思うがな」


【魔王】? あーそういやそんな話があったな。すっかり忘れてたよ。


 そんなことよりも、九州では【G】が通信不可の場所になるというのは俺にとっては朗報かもしれない。これで【G】の介入を気にせずに、心置きなく自分の過去について調べられるからね。


 そうと決まればさっさと帰って調べ物をしないとな。


「……ところで、こっちの『季節限定、きなこメロンパンアイス』も食べて良いか?」


 ……あーもう、勝手にしてください。




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