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6.初登校

 

 ついに恐れていた瞬間がやってきた。

 俺の身に襲いかかってきた危機。そいつの正体は、絶対に避けることのできない生理現象……すなわちトイレだ。


 いやさ、これはヤバイって! だってさ、どうやって出す・・のか分かんないんですよ!

 大はいいよ、大は。なんとなくわかる。でも小はどうすんのさ! 出し方なんて分かんねーよ! 神様助けてくれよ!


 だけど尿意てきは、そんな思いを無視して容赦なく襲いかかってくる。

 クソッ、こうなったら覚悟を決めるしかない。アカルちゃん、ごめんよ。でも、もう無理なんだ。俺はもはや限界なんだよ。

 何故か俺は必死に身体の主アカルに謝罪しながら、意を決してパジャマのズボンをパンツと一緒に下げた。視界に出現するモザイクに罪悪感を強く刺激されながら、俺は一気に便座せんじょうに座り込んだ。



 ……ほぅわぁっ!?




 結論から言おう。なんとかなった。すっきりした。

 ただ、どうも大切なものを失ってしまったような気がするよ……。うぅぅ、シクシク。



 ◇◇◇



 さて、そんなわけで初登校となるわけだが。

 出がけに中学校の制服を着たマヨちゃんに「おねーちゃん、今日は髪の毛編まないの?」なんて聞かれてしまった。

 編む? あぁ、おさげとかそういうのかな?


 ぶっちゃけやり方がわかんないから、髪の毛をサラッと手で撫でつけながら「この髪型、変かな?」と問いかけてみた。するとマヨちゃん、顔を真っ赤にして「うん、おねーちゃんはその方が良いかも!」と微笑んでくれた。

 んんー? なんか微妙な反応だけど、これでまぁいいのかな?


 制服がとっても似合うマヨちゃんと別れて、早速学校へと向かうことにする。【ステータス】で確認したところ、どうやら【日野宮あかる】が通う高校は電車に乗って三駅ほど離れた場所にあるみたいだ。本当に便利だな、【ステータス】は。

 通学かばんのなかに入った定期入れには、通学用の電車の定期券と一緒に学生証が出てきた。このへんはさすがにリアルに存在しているのな。ちなみに駅は実在する駅の名前だ、記憶にあるから間違いない。

 定期券を握り締めると、勇気を出して駅に向かって歩き出した。


 季節は春。ずいぶんと暖かくなってきてはいるけど、アカルの格好はなかなかに刺激的だった。

 冬用の制服に、上は紺色のセーターを着ているんだけど、問題は下。スカートの丈が短い!

 膝上くらいまでしかスカートの丈がないんだけど、アカルは足が長いからなんだか落ち着かない。

 しかもなんだかまたぐらがスースーして歩きにくい……。


 気になるのは、すれ違う人たちの視線。特に男!

 すれ違うスーツ姿の男性や学生たちは、最初チラッとアカルの顔を見たあと視線をそのまま下に向けていく。そして生足を見てニヘラと表情を崩すのだ。

 うわー、なんだこれ。めっちゃ見られてるよ。それにしても男の目線ってこんなにも生々しくてイヤらしいものだったのか。

 個人的には色々見せてあげたい気持ちもあるんだけど、今の俺は【日野宮あかる】だ。そんな痴女みたいなことをするわけにはいかないし、なによりそれ以前に大問題があった。

 ……そう、めちゃくちゃ恥ずかしいのだ。


 だってさ、中身は男な訳ですよ? それが女ものの学生服なんて着て外を歩いてるわけですよ!

 なんかジロジロ見られてるのも、なにか間違ってるみたいで気になって仕方がない。思わず手に持ってたかばんで足元を隠すようにして歩き始めたら、余計注目されるようになっちゃった。なんでよ!

 家にいるよりも外にいる方がはるかに気が休まると思ってたんだけど、外の世界もなかなか過酷みたいだ。


 ようやく駅に着いて電車に乗ると、スーツ姿のサラリーマンとかに混じって同じ制服を着た女子高生の姿もチラホラ目に入ってきた。

 俺はこの子たちと一緒に、これからしばらく学ぶことになるんだな。なんとも言えない気持ちになりながら、とりあえずカバンから携帯を取り出す。

 立ち上げたのはもちろん【Gテレパス】。Gがオンラインになってないか期待したんだけど、あいにくオフラインのままだった。

 仕方なくミッションの項目を確認してみると、第一ミッションのところについていたバーみたいな表示に少しだけ色が付いていて、その横に「10」って数字が表示がされていた。

 これは……もしかして10%って意味か? もしくは百点満点中の10点とか。今のファッションを評されて10点とかだったらさすがにショックなんですけど。


 とはいえ電車に乗ってる今は、これ以上確認するすべがない。家に帰ったらいろいろファッションショーでもして検証でもしてみるかな。

 超絶美少女を自分の好き勝手にお着替えさせられる。こんな素晴らしいこと他にないよなぁ……ぐへへっ。


 ふと気がつくと、周りのサラリーマンや男子学生たちの視線が自分に集まっていることに気づいた。

 ヤベッ! 俺ってばなんか顔に出ちゃってたか!?

 慌てて携帯をカバンに戻して表情を取り繕う。周りの男どもは気まずそうにサッと視線を逸らした。


 ふー、油断大敵ぜよ。たとえ電車の中とはいえ、うかつに変な表情は作れないな。

 俺は改めて気を引き締めるとともに、自分の置かれた状況の過酷さを思い知ったのだった。



◇◇◇



 三つ目の駅を降りてしばらく歩くと、桜の花びらが舞う道の向こうに大きな校舎が見えた。

 あー、あれがこれから俺が【日野宮あかる】として通うことになる『摩利亞那マリアナ高校』か。

 もはやこれ無しでは生きていけそうもない【ステータス】情報によると、摩利亞那マリアナ高校は私立で、なかなかに学力も高くスポーツもそこそこ。なにより親のステータスがそれなりに高い子が通う高校なのだそうだ。ようは金持ちのボンボンが通う学校ってことね。

 オーソドックスながら可愛らしい制服も人気で、男女比はおよそ五対五とのこと。まぁそのへんは普通の高校と言っていいだろう。


 ついでに言うと、今日は二年生となったアカルの一学期の初日になるみたいだ。

 クラス替えがあった初日からの登校になるのは、今の状況からするとかなりラッキーなのかもしれない。なにせ学期途中に放り込まれて意味不明な人間関係に巻き込まれるリスクが少ないからな。


 自分に声をかけてくる相手が居ないかどうかビクビクしながら、桜舞い散る一本道を足早に登校する。なんとなく周りからすごく見られてる感覚はあるんだけど、幸いにも声をかけてくるものはない。


 歩き方がおかしくならないように意識しながら歩いていると、ふいに後方で「きゃーっ!」という女子たちの黄色い声が聞こえてきた。

 なんだろう?と思って振り返ると、たくさんの女子たちに囲まれて通学してくる四人の男子の姿が見えた。

 ……ほほーぅ、四人ともかなりのイケメンだ。周りの女子たちが騒いでるのもよく分かる。


 四人のイケメンは、見事なまでに個性派ぞろいだった。

 栗色の髪の女の子みたいな可愛い顔したイケメン。

 メガネをかけた秀才みたいなイケメン。

 色黒で背の高いスポーツマンタイプのイケメン。

 あと、チャラチャラした格好をした今風のイケメン。

 イケメンも四人揃うと効果絶大だな。


 だけど俺はご存知の通り中身は男なわけで、美女ならともかくイケメンには微塵も興味が無い。どちらかというと近寄りたくない存在だ。

 むしろこいつらのおかげでアカルへの周りの視線がバラけていくほうが重要だった。

 しめしめ、こいつはラッキーだ。周りの視線が吸引力抜群のあのイケメンたちに集中しているこのスキに、一気に学校まで行ってしまおう。


「あれ? もしかして……あかるちゃん?」


 人混みを避けるように登校しようとしている俺に、不意に声をかけてくる人物がいた。

 なんてこったい、ここで捕まるとは。とはいえさすがに無視するのはマズイ。仕方なく声のした方を振り返ると、【日野宮あかるおれ】に声をかけてきたのは……。

 なんとビックリ。先ほどの四人のイケメンのうちの一人、栗色の髪の女の子みたいな可愛い顔したイケメンだった。

---《おまけ》---


サラリーマンA「あの子、めっちゃかわいい! クンクン、なんかいい匂いもする……」

学生B「ミニスカが見えそうで見えない……あれが絶対領域!?」

サラリーマンC「携帯見ながら笑ってるよ、かわええなぁ〜」

学生D「あぁ、あの子の後ろに立ちたい……」

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