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5.アカルの家族

 気がつくと、なんとなく下の部屋で人の気配がする。たぶん家族が起きたんだろう。いくらゲームの中の世界とはいえ、やっぱり家族はいるんだね。


 壁にかかっているネコの顔の形をした時計を確認すると、朝七時を指していた。

 ……どうしよう、部屋から出る勇気が湧かない。

 学校に行くこと自体相当なプレッシャーなんだけど、家族に会うことだって十分にやばいことには変わりない。いったい家族とどう話せばいいんだか。


「アカルー! そろそろ起きなさい!」


 やばっ、この声はたぶん……母親が自分を呼ぶ声だ。

 こうなったらどうしようもない。覚悟を決めて【ステータス】を駆使して乗り切るしかないぞ。


 自室の扉を開けて廊下に出てみると、少し先に下に降りる階段が見えた。

 へーっ、アカルちゃんの家は一軒家って設定なんだな。振り返って扉を確認すると「アカルの部屋」と書かれたメッセージボードがぶら下がってる。なんだか妙にリアルを感じてしまった。


 階段を下りていくと、その先には廊下とドアがあって、さらにその向こう側がリビングという構造になっていた。

 リビングにたどり着くと、三人の人物の姿が確認できる。よーし、さっそく【ステータス】で確認だ。心の中で素早く【ステータス】と念じる。すると、三人の体から白いパネルのようなものがポップアップして浮かび上がってきた。


 --《日野宮 銀次郎 (アカルパパ)》--

 48歳 男

 state: アカルのお父さんだよ。サラリーマン。ヒゲとメガネがダンディ。

 −−−−


 --《日野宮 幸子 (アカルママ)》--

 ??歳 女

 state: アカルのお母さんだよ。キャリアウーマン。キレるととっても怖いよ。

 −−−−


 --《日野宮 まよい(マヨちゃん)》--

 13歳 女

 state: 中学二年生。アカルの妹。小うるさくていろいろ目覚めちゃったお年頃。

 −−−−


 ほっほー、人物に【ステータス】を使うとこんな感じに見えるんだ。

 親切なことに、ステータス情報は対象人物から線が引っ張られて見えるようになっていて、誰のステータスか一目で分かるようになっていた。なるほど、これならステータス情報が混じっても混乱せずに済みそうだ。


 まず、テーブルに座って新聞を読みながらコーヒーを飲んでるのがアカルパパ。たしかにヒゲとメガネでダンディに見える。


 次に台所でエプロンをつけて料理をしているのがアカルママだな。

 さすがに美少女アカルの母親だけあってかなりの美人さんだ。年齢のところが??になってるのは自主規制か何かだろうか。おそらく「命が惜しければツッコむな」ってことだろう。


 そしてアカルパパの向かいのテーブルに座ってパジャマ姿のままパンをかじってるのが妹のまよいちゃん、通称マヨちゃんね。

 そういやメールの送り主の一人に「マヨイ」ってのがあったな。あれは妹からのメールだったのか。

 アカルを少し幼くして、全体的に可愛らしさを足したのがマヨちゃんだ。それなりの可愛さだとは思うけど、アカルを最初に見たときの衝撃には残念ながら及ばない。

 なにせアカルさんはモデル並みのスタイルに、両親の最も良いところだけを抽出して創り出した神の最高傑作みたいな感じだからさ。

 すまないマヨちゃん、相手が悪かったよ。


「あ、おねーちゃんおはよー。今日はパジャマのままなの」

「ふぇ!?」


 ドアを開けた瞬間、マヨちゃんの先制攻撃が炸裂した。

 うっわー、もしかしていきなりマズッた? アカルはパジャマで朝ごはんを食べない設定だったりする!?


「えー、ほらいつも制服に着替えてから朝ごはんなのにね。しかも寝ぐせもついたままだし」

「ほあっ!?」


 マヨちゃんに指摘されて慌てて手櫛で寝ぐせをなおした。

 どわー、なんか出だしからヤバイ感じなんですけど! しかも俺「ふぇ」と「ほあっ」しか喋ってないし。


「いいからマヨイはさっさとご飯を食べて支度しなさい」

「はーい」


 ふぃー、助かったぁ。

 アカルママの援護射撃でなんとかこれ以上の追求を逃れることができたよ。

 とりあえず落ち着いた俺はマヨちゃんの隣の席に座ろうとする。


「……おねーちゃん、そこおにーちゃんの席だよ?」

「ひぃっ!?」


 ぐおぅ、お兄ちゃんまでいるんかい!

 ってことは、アカルちゃん家は五人家族なんだな。

 それにしてもずいぶん家族が多い設定なんだな。だいたいこの手のゲームだと家族は少なめだったりするんだけど……。


「今日のおねーちゃん、なんだか変だね?」

「そ、そ、そ、そんなことないよッ!」


 これ以上ボロが出てはまずい。とりあえずアカルパパの隣に座りなおすと、無心でパンと目玉焼きを食べ始めた。

 はっきり言って味なんて分かるわけがない。俺はとにかくこの場から一刻も早く逃げ出したかった。できるだけ上品に、残さないように全部食べる。


「アカルー? コーヒーはどうする?」

「にゃはっ!? あ、ぶ、ブラックで」

「えっ?」


 やば、ナチュラルでブラック頼んじまったよ。

 マヨちゃんが俺を驚いた顔で見つめている。


「めずらしいね、おねーちゃんだいたいカフェオレなのに」

「ふふふっ、どうやらアカルも大人の味がわかってきたみたいだな。かあさん、俺もブラックで!」

「えー、じゃあマヨちゃんもブラック飲むー!」


 ふぅぅ、アカルパパのおかげでなんとかマヨちゃんを誤魔化すことに成功したみたいだ。

 それにしても、もしかして毎日こんな感じでギリギリのやりとりをしなくちゃならないのか? そう考えるだけで胃が痛くなってきたよ……ゲッソリ。



 針のむしろのような食卓を脱出して、向かった先は洗面所だ。ここでとりあえずは朝の支度をしなければならない。

 とはいえ当然俺は男の子。なにをやっていいかなんてまったくわからない。そんなわけで、困った時は【ステータス】だ!


【ハンドソープ】……手を洗う石鹸。顔は洗っちゃダメだよ!

【歯磨き粉】……しろのやつ。アカルはストライプの方が好きなので、今度アカルママにお願いしようと思っていた。

【洗顔フォーム】……アカル専用の顔を洗うソープ。ちゃんとネットで泡立ててね。


 あった! これが洗顔フォームか。

 突っ込みどころはいっぱいあるけど、それをおいておいて目的の洗顔フォームを手に取る。

 俺は掌にギュッと中身を出すと、別途見つけた泡立てネットで泡を立ててみた。

 たしか前にネットで見た記憶がある。洗顔は、力を抜いて泡でマッサージするような感じで洗うんだよな。


「おねーちゃん、マヨちゃんにも洗顔ソープ貸して! あとヘアバンド忘れてるよ?」


 気がつくと横ではマヨちゃんが俺と同じようにソープを泡立てて顔を洗っていた。しかも髪の毛にはバンダナみたいなゴムをつけているじゃないか。

 あぁなるほど、これをつけたら髪の毛に泡がつかないんだな。どうりで髪の毛が邪魔だと思ってたよ。

 手の泡をとってヘアバンドをつけると、こっそり横目でマヨちゃんを見ながら洗顔の仕方を学習する。

 ありがとうマヨちゃん、ほんとうに君がいてくれてよかったよ。

 去り際に頭を撫でてあげると「えへへっ」といって喜んでくれた。



 寝ぐせをドライヤーで直して歯磨きと洗顔が終われば、今度は着替えだ。

 下着も替えて制服に着替える必要がある。

 とりあえず【アカルのタンス】から下着を取り出して……やっぱり清楚な白だよな? ってか下着にはモザイクかからないのな。ちなみにあいかわらず大事なところはモザイクでちゃんと見えない。もう諦めたから良いけどさ。

 下着を着替えて白いシャツを着てみる。よし、ボタンはずれてないぞ。でもさ、超絶美少女が白いブラウスに下着姿ってだけでも猛烈にそそるものがあるよね?よねよね?


 一人でしばらくムフフなお楽しみを堪能したあとは、いよいよ制服だ。

 俺は当然スカートをはいたことがない。脱がしたこともない。

 えーいままよ、なるようになれ!

 俺は下からズボッとスカートをはいてホックを止めてみた。


 ……完成した女子高生アカルは、びっくりするくらい可愛かった。冬服であろう制服にセーターを着た姿に思わず目を奪われてしまう。

 パジャマ姿でも相当可愛かったんだけど、制服に着替えたアカルはとんでもない美少女だった。

 いやこれまずいっしょ。こんなのが学校に居たらえらいことになるんじゃないか?


「アカルー! そろそろ行かないと遅刻よ?」


 やばっ、アカルママの声だ。

 慌てて机の上から鞄を取ると、部屋を飛び出していった。


---《おまけ》---


マヨちゃん「……今日のおねえちゃん、いつもと違ったね?」

アカルパパ「ん? そうかぁ?」

マヨちゃん「えー。だってほらぁ、いつものおねえちゃんってさ……」

アカルママ「マヨイ、そろそろ支度なさい!」

マヨちゃん「はぁーい」



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