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39.ニュースペーパー・ゴシップ

 ここは、薄暗い部屋の中。ぼんやりと浮かび上がるように表示される大きなモニターの前に、二人の人物の姿があった。いずれも白と黒のストライプの色をした不思議な髪の色を持つ男女……すなわち【F】と【G】であった。


 二人はなにやら他に聞こえないように小さな声で会話を交わしていた。だがその状況を打ち砕くかのように、男性である【F】が「あははははっ」と大声で笑い声をあげた。


「ちょっと【G】、それホント? 君はあのひとのことを世界を滅ぼす【魔王】みたいなもんだって伝えたの?」

「……悪いか? それに【F】よ。私は別にウソをついたわけではないだろう? 現にそれだけの力は持ってるんだし」

「それは否定しないけど……でもさ、よりによって【魔王】は無いんじゃない? さすがにラ……じゃない、ここのルールに従うと【R】って呼ばなきゃいけないのか。それ聞いたら【R】もヘソを曲げるよ?」

「私たちに無断であっちの世界・・・・・・に行ったんだ。とやかく言われる筋合いは無い」


 冷酷にそう言い放つ【G】の言葉に、またもや【F】は面白おかしそうに笑い声を漏らす。


「ふふふっ。ま、いいや。それで、君が担当している彼は【R】……もとい【魔王】を見つけられそうなの?」

「それが、どうやらあまり真面目に探してないようなのだ。やはり【魔王】と呼んだのが逆効果だったのかもしれない」

「そうかもね、胡散臭すぎてリアリティが無くなっちゃったのかもね。でもさ、【R】なら彼のもとに必ず近づいてくると思ってるんでしょ?」


 そう問いかけられて【G】は、しばらくの沈黙のあと、ゆっくりと首を縦に振った。


「ああ、そう思っている。【R】の性格上、必ず彼の前に現れるだろう」

「……そのことで、いろいろなものがぶち壊しにならなければいいんだけどね」

「ああ、そうだな。そのためにも私がこうして警戒しているわけだしな」


 真面目な口調で答える【G】を見て、【F】は優しげな表情で微笑みかけると、彼女の頭をそっと撫でた。


「まぁ、微力ながらぼくも【R】探しを協力する方法を考えてみるよ」



 ◆◆◆



 さて、俺が導き手メンターを引き受けた翌日。いつものように登校してると、校門をくぐったところで声をかけられた。えーっと、このパターン何回めだよ。


「にゅふふっ! 日野宮さーん、おはよーさん! こうして面と向かって話すのは初めてだけど、ごめんねぇ! アチキは2-Bにいる新聞部の新部長になった我仁がに 鳴沙めいさったいうの。よろしくね!」

「は、はぁ……」


 声をかけてきたのは、小太りでもっちもちな肌をした、なんともフレンドリーに接してくる女生徒。念のため【ステータス】を使ってみたんだけど、『この人、しーらない』と表示された。どうやら本当に初見の人のようだ。

 それにしても……我仁がにさんだっけ。新聞部の部長 とやらが、なんでまた俺に声をかけてくるんだか。


「実はねー、日野宮さんに取材させてもらいたくて声をかけたんだー。ぜひ新聞部発行の『マリアナ会報』に日野宮さんの記事を掲載したくてね」

「マ、マリアナ会報?」

「あっれー? 日野宮さんは知らなかったかな? アチキらは日野宮さんの記事とかこれまでも何度か載せてたんだけどなぁ、気づいてもらってなかったなんてざーんねんだなぁ!」


 そう言ってふくよかな手からなにやら新聞らしきものを渡される。しっかし馴れ馴れしい人だな、まぁニコニコしてるからいまいち憎めないんだけどさ。

 とりあえず渡された新聞の中身を読んでみると、どうやら『マリアナ会報』というのはこの摩利亞那マリアナ高校の時事ネタを取り扱った新聞のようだ。へー、こんなの発行されてたんだ。素で知らなかったよ。


「こう見えて外部にも購読者がいるほど『マリアナ会報』は人気あるんだよー! すごいでしょ?」

「そ、そうだね。それで……取材って?」

「あー! それでね、ぜひ日野宮さんにインタビューさせてもらいたいんだ! 『史上初めて、生徒会メンバー以外から導き手メンターに選ばれた気分はどうですか?』ってね」

「……えっ⁉︎」


 にこやかな笑顔でいきなりそう振られて、思わずどもってしまう。

 ど、どういうこと? もう自分アカルちゃんがメンターになるってことが知れ渡ってるわけ? もしかして……とんでもない仕事を引き受けちゃったりした?



 ◇◇◇



 はーっ、疲れた。

 ようやく我仁がにさんの取材が終わり、解放されて席に着いたとたんにどっと疲れが出た。思わず席に突っ伏してしまう。


 我仁がにさんは新聞部の部長だけあって聞き上手だった。なんだかんだで色々と喋らされたような気がするよ。


「えーっと、それじゃあ日野宮さんの好みのタイプは?」

「タイプ? そういうのは特に無いかな」

「じゃあ……気になる人は?」

「気になる、か。そうだねぇ……魔王みたいなひと、かな?」

「な、なんですその一昔前のラノベのヒロインみたいな気になる人は! がはははあはっ!」


 そう言って爆笑する我仁がにさん。このひとどーもこれまでに出会ったどのタイプとも違うから、やりにくいったらありゃしない。

 結局時間ギリギリまで色々と話すことになっちゃって、しかも下手なことを言わないように気を使って話してたから、なんかずいぶんと気疲れしてしまったよ。



 キーンコーン、カーンコーン。

 二限目の授業が終わって休み時間に、心配そうな顔をした羽子ちゃんが近寄ってきた。


「あかるさん、大丈夫ですか? なんだか朝から疲れてるみたいですけど」

「うーん、なんか朝から面倒くさいのに捕まってね」

「へぇー。昨日は生徒会、今度はどんな人に目をつけられたんですか?」

「えーっと誰だっけな。確か……隣のクラスの我仁かにさんってひと。新聞部の部長だって言ってたよ」

「新聞部……ということは、もしかして『マリアナ会報』の取材ですか? すごいですね、新聞部に取材されるなんて」


 ほほぅ、羽子ちゃんも『マリアナ会報』のこと知ってるんだ。もしかして知らないのは自分だけだったりして。

 そんな会話を羽子ちゃんと交わしていると、今度は廊下の方がガヤガヤし始めた。なんだろうかと思って視線を向けると、なにやら騒がしい声が聞こえる。


「おー、ここが噂の日野宮あかるがいるクラスかぁ? おーい、″ヒメ″がワザワザ会いに来たぞぉ、誰か紹介してほしいのだ!」


 なんだなんだ、また変なのが来たぞ?

 しかも自分のことを〝ひめ〝と呼ぶとかなに者よ。出会う前からウンザリしていると、慌てた様子の一二三ひふみトリオがこちらに駆け寄ってきた。


「アカルちゃん、大変よ! すごい人があなたを訪ねて来たわ!」

「一丸さん、落ち着いて。いったい誰が来たっていうの?」

「あの人よ、あの人! この学園のヒメ!」

「……姫なら『姫王子』一人で間に合ってるんだけどなぁ」


 そう答えてみたものの、なにやら三人ともテンパってて要領を得ない。そうこうしているうちに、業を煮やしたのか……教室のドアがガラガラと開いて、背の低い女生徒が勢いよく入ってきた。


「お! いたいた、見つけたのだ! 君が日野宮あかるだな!」

「えーっと……どちら様でしょうか?」

「ヒメのことを知らんのか? ……むぅ、まぁ仕方ない。そしたら教えてあげよう! ヒメこそが、ここ摩利亞那マリアナ高校の現・生徒会長である、星乃木ほしのき 姫妃ひめきなのだ!」


 そう言うと、ちっこいのは無い胸を思いっきり前に張った。


 ……えーっと、つまりこのちっこいのが摩利亞那マリアナ高校の生徒会長ってことで良いのかな? 念のため【ステータス】で確認してみると、『星乃木ほしのき 姫妃ひめき、生徒会長だよ』と表示された。へぇー、この子が生徒会長ねぇ。なんか背がちっこいからマヨちゃんみたいに感じちゃうなぁ。


「おいこらー、日野宮あかる! 君はいま、とっても失礼なこと考えただろー!」


 そしたらこっちの態度から察したのか、ヒメこと星乃木ほしのき会長は怒り出した。うわー、なんかこいつもメンドクセー。


「あのー。それで、生徒会長の星乃木ほしのき先輩が私に何の用なんですか?」

「むふふ、ヒメのことは親しみを込めて『かいちょー』って呼んでくれていいぞ? ちなみにヒメがここに来た理由は、ガッくんから君がメンターに選ばれたって聞いて、面白いからわざわざ顔を拝みに来たのだ。しっかし美人だなー、うちの妹と良い勝負じゃないか。そしてでかいなー! あ、おっぱいじゃないぞ? 背のことだからな?」


 いやいや、誰もそんなこと気にしてねーし。ってかなんかウザいよこの人。よく分かんないけど、きっと妹さんも苦労してんだろーなぁ。


「そしたら会長、もう顔を見たんで要件は終わりですかね?」

「そうつれないこと言うなよ日野宮あかる。ヒメは君に警告に来たのだ」

「警告……?」


 おうむ返しに尋ねると、生徒会長はコクコクと頭を壊れた人形みたいに前後に振る。この人、いちいちアクションが大げさだなぁ。


「これから生徒会長選があるが、そこで君の存在は台風の目となる。そのことをゆめゆめ忘れるな」

「えーっと、私は生徒会選挙になんか出るつもり無いんですけど?」

「むふふ、そういう意味ではないのだ。まぁそのうちこの言葉の意味が分かるだろう」


 そう言うと星乃木会長は、俺の背中をバチンと叩いて、わはははっと笑いながら教室から出て行ったのだった。

 んー、なんかちっこいくせに偉そうな口を利く子だなぁ。ま、生徒会長だっていうんだから仕方ないのかな。



 ◇◇◇



「むふふのふ〜♪」


 その日の夜、俺は風呂上がりに思わず鼻歌を歌ってしまっていた。理由はもちろん、ミッションのクリア状況にある。

 なんと……今まで伸び悩んでいた第二ミッションが、一気に13%まで伸びていたのだ! 間違いなくこれはメンターになった効果だと思う。やはり「生徒会の手伝いも学校への協力とみなされる」と判断した俺の考えは正しかったのだろう。

 久しぶりにGとテレビ電話をして確認したところ、やはりそうだと肯定された。


『生徒会も学校の一部と判定されたのだろう。よかったな、これからも学校のために勉強共々がんばるといい』

「ふふふ、この調子だと一気にクリアしちゃうかもよぉ?」

『かまわないさ。もしクリアを早めたいのだったら、それこそさっき言っていた、新しく知り合った人たちに【アナライズ】しまくればいい』

「おいおい、気軽に言ってくれるな。相手の体液を摂取するのも気を使うんだよ?」

『まぁそうなんだが……。とりあえず君のそばに寄ってくる存在は、敵味方含め気をつけたほうがいい。その中に【魔王】が潜んでいる可能性は十分にあるから』


 おお、そういえばそうだった。それらしい相手からの妨害的なものがまったくないから完全に油断してたよ。

 あーでももしかしたら、メンターになったりしてる今のこの奇妙な状況自体が、【魔王】から何らかのアプローチをされてたりするのか? いや、ないな。どう考えてもメンターは偶然だろうし、そもそも世界を滅せるような存在が俺なんかに興味持つ訳がないしなー。

 しかし、ほんっとに【魔王】とかいるのか? Gにも特に焦ってる様子はないし……。


 まぁいい、明日はネットゲームをやる日だ。最近ストレスがかかるような出来事がなんとなく多いから、ゲームでもしてストレス発散するぞぉ!


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