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36.メンター

 数日後。

 アカルちゃん完全復活、キターーッ!

 ついに『女の子の日』が終わり、気分爽快なまでに体調がバッチリに回復したぜ! いやっほーい、ハイテンション&バイバイブルー! 俺の心はこの晴れた青空のように爽快だぁっ!

 いやー、ほんっとここ数日は大変だったよ。なんか誰にも相談できないし、しかも気分は落ち込みまくりだしさ。もし男に戻ったときには、女の子には優しくしようと心に誓ったね。


 ってなわけで、今日も元気に高校前の坂を登ってると、同じ時間に登校していた海堂かいどう 布衣ぬいちゃんが笑顔を浮かべながら近寄ってきた。さすがは去年の準・至高の一輪華プリモディーネ、相変わらずの美少女っぷりだ。いやー、朝から美少女ってサイコーだね!


「おはようアカルちゃん。今日は元気だね?」

「ふふふのふーっ。ヌイちゃん分かるぅ? 分かっちゃうぅ?」

「うんうん、分かるよ。あなたが楽しそうだと、なんだかあたしも嬉しいな」


 まるで憑き物が落ちたかのように、あの事件以降の布衣ちゃんはとっても良い子になっていた。一連の騒動で一部からの評判は若干落ちたりしたものの、裏でいろいろな情報を操ったりしていた--あの頃の黒い彼女の面影は、今じゃ見る影も無い。

 裏の無い彼女はただの可憐な美少女でしかなかったので、こうして並んで登校するのはなんだか幸せな気分だ。


 むふふっ、なんか今日はいいことがありそうだな〜。

 だけどそんな俺のささやかなシアワセは、そう長続きすることはなかった。



 ◇◇◇



「日野宮、いるか?」


 キングダムカルテットの一人、メガネ賢者ガッくんこと天王寺てんのうじ 額賀がくかが俺を訪ねてやってきたのは、授業の合間の休み時間のことだった。

 突然のイケメンの登場に、教室の中の女子たちが騒ぎ出す。ちょうど一二三ひふみトリオと雑談してたときだったんだけど、最近いおりんからガッくんに乗り換えた二岡さんがヤツの姿を見て「きゃー」と黄色い歓声を上げた。


 たしかにガッくんは背も高く顔も整ってて知的でクールな感じで……一言で言うと相当なイケメンなんだけど、残念ながら俺はまったく興味が無い。

 これが可愛らしい美少女ならともかく、イケメンとかお呼びじゃないしねー。嬉しいどころか、むしろ夜の道で警察に呼び止められたときくらい嫌な気分だよ。とはいえ無視するわけにはいかないので、しぶしぶ返事を返す。


「ここにいるよ、天王寺くん。何か用?」

「日野宮。昼休みにちょっと生徒会室に来てもらえるか? 話がある」

「……それは、ここでは話せないことなの?」

「生徒会に関することだ。ここでは話せないな。それで、昼休み来れるか?」


 これ以上生徒会に逆らってミッションの達成率を下げられては敵わない。俺がしぶしぶ頷くと、ガッくんはメガネの端をグイッと上げてニヤリと笑った。げーっ、気持ち悪っ!


「ねぇねぇ! アカルちゃんすごいじゃん! ガッくんから呼び出しなんてさっ!」

「もしかして、告白とかっ⁉︎ きゃー‼︎」

「日野宮さん、モテすぎです……」


 ガッくんが撤収したあと、一二三ひふみトリオが無責任に騒ぎ立てる。なにやら盛大な勘違いをしているみたいだけど、残念ながらそんな甘い話ではないと思うな。怒られるようなことは最近してないはずなんだけど……うーん、嫌な予感しかしない。また達成率下がったらイヤだなぁ……。





 そうして迎えた昼休み。羽子ちゃんに断りを入れて素早く昼食を済ませると、歯を磨いてそのまま生徒会室に向かう。生徒会室は教室から少し離れた、あまり人通りのない静かな場所にあった。

 ちなみに【ステータス】を使って以前調べた情報によると、ここ摩利亞那マリアナ高校の生徒会は、俺のイメージしていた「適当に仕事をこなしてる生徒会」とは違って、マリアナ高校の自治権や部活の予算執行に関する権限なんかまで持っており、それなりに大きな権力を持つ重要な存在だった。


 ここの生徒会が面白いのが、主に生徒会をとり仕切ってるのが二年生だってことだ。

 三年生は受験を控えていることから基本的に生徒会に関わるのは六月までで、毎年六月に選挙が行われて、二年生から生徒会長を選出している。そのほか副会長、書記、会計がいるのは当たり前なんだけど、それらの役職も二年生がほとんどを占めていて、一年生役員は主に風紀委員として参画しているのだとか。

 んで、うちらの代の一年生時代の風紀委員が天王寺てんのうじ 額賀がくかだ。他にも生徒会には三人が所属していて、それがいおりん、シュウ、ミカエルなんだとか。なるほど〜、だからあいつら四人は仲が良いのね。にしてもほかの奴ら、絶対生徒会として何の仕事もしてないだろ。むしろ学校の風紀を乱しまくってるし。


 ちなみに生徒会には部活の予算の管理権限なんかもあったりするから、基本的に生徒たちが逆らうことはない。場合によっては先生よりも怖い存在だったりする。それだけの強大な権力を持ってる故に、生徒会長選はけっこう大規模に行われるらしい。

 ……ま、俺には関係ないことなんだけどね。



 そんなわけで生徒会室の入り口をノックして中に入る。

 初めて入る生徒会室の中は、驚くほど綺麗だった。まるで校長先生が座るような机や椅子、さらには柔らかめのソファーなんかも置いてある。

 そのソファーに座る四人の人物の姿があった。『メガネ賢者』天王寺額賀ガッくんだけでなく、『黒騎士』火村修司シュウ、『姫王子』汐伊織いおりん、そして……『堕天使』冥林美加得ミカエルまでいるじゃないか。

 おいおい、キングダムカルテット全員集合かよ、こりゃ只事じゃなさそうだな。


「いおりんまで、どうして……」

「やっほーアカルちゃん」


 戸惑う俺にいおりんが面白おかしそうに手を振ってくる。なんなんだこれ? どうやら単に怒られたりとかそういう話ではなさそうではあるんだけど……。

 いおりんに促されてソファーに座ると、正面に座るガッくんが口火を切った。


「よく来てくれた。ところで日野宮はメンターって知ってるか?」

「メ、メン……なに? 天王寺くん」

「メンターだ」

「メン、ター? うーん、メンソレー⚫️ムなら知ってるけど」

「ぶっ‼︎」


 態度悪そうに足を組んだままソファーに座ってそっぽを向いていたミカエルが、俺の言葉を聞いて盛大に噴き出した。ちょ、いおりんやシュウまでクスクス笑ってるし! なんだよ、そんなに変なこと言ったかな?

 するとガッくんが、苦虫を潰したような表情でメンターについて説明してくれた。


「仕方ないな……。いいか、日野宮。メンターとは、簡単に言うと″後輩の指導を行う″もののことを指す。日野宮も知ってるとは思うが、毎年一年生の中の成績上位の四名を生徒会委員として選ぶわけだが、そのうち首席である人物が当該学年の風紀委員となる。うちの年代の場合は、まぁ僕だな。その際、一年生の風紀委員に導き手メンターという指導役を二年生から一ヶ月間ほど当てることが、過去からの生徒会のしきたりになっている。ちなみに去年の俺の導き手メンターは現・生徒会長の星乃木ほしのき先輩だ」


 驚愕の事実。目の前にいるイケメン四人は、なんと入学時の成績トップ四だった! いやさ、ガッくんが首席ってのは分かるよ? だけど、よもやミカエルみたいなチャラ男がガリ勉だったアカルちゃんより成績上位者とは……恐るべし、キングダムカルテット。


「へー、そうなんだ。知らなかった。それでそのメンターだかメンソールだかがどうしたの?」

「メンターだ。この導き手メンターというのは、実は新一年生の風紀委員……すなわち入学時の首席に相手を選ぶ権利、すなわち選択権がある。とはいえ普通は先代の風紀委員を選ぶのがこれまでの通例だった。実際に俺も星乃木先輩を選んだわけだしな」

「うんうん、それで?」

「ところが、今年の一年生の首席は僕を選ばなかった。彼女が導き手メンターとして指名してきたのは……日野宮あかる、君だったんだ」

「ヘェ〜、それは大変だねぇ……って、はぁぁぁぁあぁぁぁあっ⁉︎」


 ガッくんの口からいきなり飛び出したとんでもない爆弾発言。ちょっとちょっと、どういうこと⁉︎ なんでまた俺がご指名なんて受けるわけさっ⁉︎


「ななななんで私がっ⁉︎ い、意味わかんないんだけどっ⁉︎」

「それはこちらも同じだ! 通常であれば少なくとも僕たち四人の誰かから選ばれるのが通例なんだ。なのに、よもや生徒会委員でもない君を選ぶなんて……こんなの完全に想定外だ」

「そ、そんなの生徒会権限でどうにかならなかったの⁉︎」

「もちろん生徒会長にも相談したさ。だが星乃木先輩に『お前らに一任する』と言われて丸投げされてな……」


 口をへの字に曲げるガッくん。こいつのこんな表情初めて見たよ。クケケッ、いい気味だ。

 それにしてもこのクソメガネを困らせるなんで、生徒会長の星乃木ほしのき先輩とやらもなかなか面白い人みたいだな。会ったことないけどさ。


「そこで仕方なく……俺たち四人で集まって相談することにした。ところがそこでさらに想定外のことがあったのだ。なんと、こいつら三人が日野宮をメンターとして送り出すことに賛同したのだ」

「はぁ?」


 意味が分からずに三人の方に視線を向ける。すると、いおりんは楽しそうに笑い、ミカエルはニヤリと口角を上げ、そしてシュウはバツの悪そうに視線を逸らした。

 どういうこと? いおりんとミカエルはまだ分かる。たぶんあいつらは楽しんでるんだろう。だけどシュウはどうなの? こいつ、俺のこと恨んでるんじゃなかったの?


「いくら僕が風紀委員とはいえ、さすがに生徒会メンバーの多数決の結果を無視するわけにはいかない。だからこうして日野宮を呼んで、本人の意思を確認しようということになったわけだ」

「はぁ……なるほどね」


 確認するまでもない、そんなの断るに決まってる。そもそも生徒会のことなんか何も知らない俺に、たとえ一ヶ月間だけとはいえ導き手メンターなんて大役が務まるわけがないし、これ以上評価を落としてミッションの達成率を落とすわけにはいかない……って、ミッション?


「もちろん日野宮には拒否権はある。もし断ったとしても……」

「ねえ天王寺くん。そのメンターってのをやるってことは……生徒会への、ひいては学校への貢献になるのかな?」

「それは……もちろんそうだな」

「じゃあ、やるっ!」

「はあ?」

「だからやるよ、私。もちろんメンターとしてやるべきことは教えてもらえるんだよね?」

「それはもちろんそうだが……お前、本気か?」

「うん、本気だよ」


 かなり驚いた表情でこちらを見つめるガッくん。それは他の三人も同じだった。ミカエルなんかは楽しそうニヤニヤしてたけどさ。

 だが、たとえ誰からどう思われようとも関係ない。これはまさに天の恵み、ミッションクリアの大きなチャンスなのだ。ここで見事にメンターとやらをこなして、伸び悩んでた第二ミッションの達成率を一気にゲットしちゃうぞぉ!


「ところでさ、その--私を指名してきた今年の一年生の風紀委員って誰なの? 私、一年生なんかに知り合いなんていないし、そもそもなんで一年生が私のことを知ってるんだか」

「……日野宮、お前は自分に関する認知度や影響力を甘く見過ぎじゃないか?」

「ふぇっ?」

「……まぁいい。お前が指導する後輩の名前は--『土手内どてない 珠理奈じゅりな』という子だ」


 土手内どてない 珠理奈じゅりな、どこかで聞いたことあるような……。あっ、思い出した。この前電車で痴漢されてた子だ!

 なるほど、だからアカルちゃんのことを知ってて、かつ今回指名してきたわけね〜。いやー、世の中自分の行動がどういう結果を生むかなんて予想できないわ。

 でもまいっか。俺が導き手メンターとやらに選ばれた理由も分かったことだし、とりあえずやるべきことをしっかりやってこうかね!



 このときの俺は、こんな風に色々と物事を軽く考えていたんだと思う。

 だけど、まさかこれが、あんな大事につながっていくなんて--このときは夢にも思ってなかったんだ。



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