3.Gとの交信
『はじめまして。私は【G】。その身体の具合はどうだい? 急に身体が女の子になっててびっくりしただろう? とりあえずこのメッセージを読んだら返事を返すこと』
最後までメッセージを読んだところで、俺はすぐに返事を打ち始めた。
この【G】って人が誰なのかはわからない。だけど俺には一つ思いあたるフシがあった。
【G】とはおそらく【ゲームマスター】の略なのだろう。つまりここはゲームの世界であり、こいつは俺をナビゲートする案内役ってことなんじゃなかろうか。
「【G】さん、あなたはなにものですか? 私はどうなっちゃったんですか? ここはどこ、いや何てゲームの世界なんですか? 教えてください」
メールを送って数分後、ようやく返事が返ってきた。
こんなにもひとつのメールが待ち遠しかったことがあっただろうか。ベッドの上に正座状態で返事を待ち続ける。ピロピロと音が鳴った瞬間、素早く携帯を手に取った。
届いたのは、結構長いメッセージだった。
『どうやら確認してくれたみたいだね。私は【G】、君たちを見守るものだ』
俺たちを見守るもの? やっぱりこいつは【ゲームマスター】と見て間違いなさそうだな。
相手の正体がおおよそ見当のついたところでとりあえず続きを読むことにする。
『君はいま、ワケあってその少女の体の中に入ることになった。ちなみにその少女の名は【日野宮あかる】。花も恥じらう十六歳の高校二年生だ。嬉しいだろう? 幸せだろう? 喜びは後で存分に噛み締めてほしい。あーでも本当に噛まないでくれよ? 気持ち悪いから』
おいおい、理由は説明してくれないのかよ。しかも書いてあることがイラっとくるし。でもまぁ確かにいちいち【ゲームマスター】が『ここはゲームの世界ですよ』なんて説明するのも変だよな。
それにしても【日野宮あかる】……かぁ。ここがゲームの世界だとしても、やっぱり聞いたことがない名前だ。
とはいえ、未だにこの体になる前の記憶をほとんど思い出すことができていない。
自分が男だったことは覚えている。だけどどこに住んでいたのか、何をしていたのか、さらには自分が何歳くらいだったのか、結婚していたのか働いていたのか、その他ほとんどのことを思い出せないのだ。
ぼんやりと思い出せるのは、自分が男だったってことと、若いころに経験したであろう幾つかのほろ苦いエピソードや、『トキメキシスターズ』みたいなどうでもいい情報だけだった。
まぁいい、これでとりあえず今の自分が誰であるのかはわかった。これはこれで大事な一歩だ……と思うことにする。するったらする。
一歩を踏み出したところで、思い切ってストレートに「それではGさん、私はなぜ記憶が失われているのですか? これは何ていうゲームの世界なんですか? 私はどうなるんですか?」とメッセージを送ってみる。
ピロリロリン。今度は返事がすぐに返ってきた。
『さっきから色々と妙なことを言っているようだが、残念ながら君からの質問については海よりも深い事情があって答えることができない。そのかわりといってはなんだが、君が記憶を取り戻す方法がないわけではない』
なかなか簡単には口を割ってくれないな。とはいえ少し話が進んできたぞ。やっぱりゲームらしくクリア条件とかがあるみたいだ。
とりあえずこいつのいうことを聞いてみよう。
「それでは私はどうすれば良いのですか?」
『君はなかなかものわかりが良いな。なーに、簡単なことだ。君にはこれから【日野宮あかる】として高校生活を送ってもらうことになる』
ま、マジ? 俺ってば女子高生になっちゃうの? まぁ体が女の子になってたからにはある程度覚悟はしてたけど……。
そもそも俺ってば、あんまり女の子のキモチとかよくわかんないんだよなぁ。そういや昔「あなたって女の人の気持ちがぜんぜんわかってないよね」って誰かに言われたような……あぁ思い出せない。
ペロリン。続けてメッセージが届いた。
『ちなみに、君が入れ替わっていることは誰にもバレてはいけない。同様に、バレるような行動を取ることも許されない。なおこれは強制であって拒否権はない。勘違いしないように』
ゲッ。許さない、じゃなくて許されないと来たもんだ。そりゃあここがゲームの世界だってバレちまうのは色々と問題はあるだろうけどさ。ちなみにバレたときはなんかペナルティーがあるんだろうか。
ピロリン。どれどれ……。
『もし断ったり秘密がバレたりしたら……どうなるか分かってるよな? 二度と元に戻れないどころか、残念な末路が待っているだろう。オークとゴブリン、どっちが良いかじっくりと考えておくんだな』
ちょ、ちょ、ちょっと待て! オークかゴブリンって、もしかしてヤツらの巣に放り込まれて大変な目に遭っちゃう系のやつ!? ってか、このゲームの世界は夢の国のぬいぐるみが置いてありながらゴブリンやオークが出現したりする世界なの?
ピンピロリーン。おいおい、なんか毎回着信音が変わってない?
『オークやゴブリンはほんのジョークだ。だが似たような目にあうかもしれないということをゆめゆめ忘れないでいてくれたまえ。だから変なことはくれぐれも考えないように、ね?』
なにが「ね?」だ! 最後だけ妙に可愛くしてんじゃねーよ!
にしてもオークは冗談なのか……良かったと言うべきか残念と言うべきか。あ、いや、残念ってのはファンタジーの世界じゃないかもって意味だからね?
……オホン。なんか現状がはっきりしてないから、Gの言うことのどれが本当でどれが冗談かの区別がイマイチつかない。ペロリーン、はいはい。
『ちなみに私の正体や君の記憶に関しては意図的に遮断されてるから、私から教えることはできない。だが先ほども言いかけたとおり、解決策がないわけではない。そのことについて説明する』
そりゃあ【ゲームマスター】がゲームクリアに関する情報を与えるのはマズいんだろうな。それにしても、ここでようやく俺のクリア条件の説明か。どれどれ……。
『さっきも説明したとおり、君にはこれから【日野宮あかる】として学校生活を送ってもらうことになる。その際、君には五つの課題が与えられる。その課題を一つクリアするごとに、君の記憶や君が知りたがっている情報などが少しずつ開示されていくだろう。ついでに私からもクリアボーナスなんかを君に与えるつもりだ』
……どうやら俺はGによって否が応でも【日野宮あかる】として学校生活を送ることを強要されているらしい。いや、この文脈を読むとGも歯車の一つでしかないんだろうな、ゲームマスターだし。
『ちなみに五つの課題を全部クリアしたら、君は失った記憶のほぼ全てを取り戻すことができるとともに、以降の未来の選択権を得ることができるだろう』
……なるほど、俺はどうあってもこの【ゲーム】をクリアするしかないみたいだ。自分がどうなったのか知るためには、とにもかくにも【日野宮あかる】として当面生きていくしかないのだろう。
結局ここがなんのゲームの世界なのかサッパリわからなかった。たぶんどれだけ聞いてもGはこれ以上口を割らないだろう。
とはいえ、今の俺に取るべき他の手段があるわけではない。このままだとGから手に入る情報もあまりなさそうだし。
どんなゲームの世界に入り込んでしまったのかわからないのは不安だけど、選択肢は限られている。もう少し情報が集まるまでは、とりあえずGのいう通りに【日野宮あかる】として生活してみるしかないみたいだな。
たぶん、少しずつミッションをクリアして記憶を取り戻していけば、わかることも増えて取れる選択肢も増えていくかもしれない。このゲームがなんのゲームなのかが分かれば、打てる手も増えてくるだろう。
……願わくば、エ⚫️ゲーでないことを祈るのみだ。真剣に、マジでそれだけは勘弁してほしい。
さて、そうと決めたところでまだまだ問題はある。というか山積みだ。
そもそも俺はこの子のことなーんにも知らない。それどころか女の子のこともよくわかってなかったりする。だって俺、女の子と付き合った記憶がロクに無くてさ……って言わすなよっ!
そんな俺がさ、これからどうやって女の子として生活していけば良いんだ? ぶっちゃけスカートの履き方すら知らないんだけど?
ピロリーン。まるで俺の心を読んだかのようにGからメッセージが届く。
『とはいえ、急に他人として生活を送れと言われても困るだろう。そこで君には特別にある能力を授ける』
能力? なんか話が妙な方向になってきてるぞ。
『今回君に与えられる能力の名は【ステータス】。こいつは君が知りたいと思ったものの情報を知ることができる特別な能力だ。ただし、知ることができるのは君の体の持ち主である【日野宮あかる】が知っている情報に限られる』
おっ、いよいよゲームらしい能力が出てきたぞ。ためしに鏡に映る自分の姿を見ながら【ステータス】と心の中で呟いてみる。
すると突然目の前に画面のようなものが浮かび上がってきた。
―― ステータス ――
name:日野宮あかる 女性
age:16
height:165cm
weight:48kg
3size:86-60-87
state:女子高生
――
「ステータス、確認したら……女子高生かよ」
俺は目の前に表示された画面を見ながら、思わずそう呟いていた。
---《おまけ》---
Gの独り言シリーズ
G「……ゲーム?」
G「彼は一体なんのことを言っているんだ?」
G「もしかして、なにか勘違いをしているのか?」
G「……でもまぁいい、いずれ彼もこの世界がまぎれもない【現実】だということを実感することになるだろうさ」