表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/112

32.ジ・アナライズ

 

 そのあと、【G】との通信を切ると同時に、俺の脳裏に失われていた記憶が蘇ってきた。今回は初回だからか、残念ながら以前の自分が特定できるような重要な記憶が戻ってくることはなかった。だけど、俺の精神衛生上極めて大事な記憶をひとつ、取り戻すことができたんだ。

 ……どんな記憶を取り戻したのかについては、また機会があったときに詳しく語らせてもらおう。




 それはさておき、【G】から新たなミッションと【アナライズ】の能力が与えられてから、既に一カ月以上が経過していた。その間の【魔王】調査の方の進捗は、ハッキリ言って皆無である。


 最初の数日は、とりあえず家族などを中心に【アナライズ】の効果や適用範囲について実験と検証を行った。結論から言うと、こいつは思っていたよりも使いやすい能力だった。


 まず【アナライズ】は、直接的な体液の摂取だけでなく、間接的な摂取でも分析が可能だった。試した範囲では朝日兄さんの吸いかけのタバコや、アカルパパの飲みかけのコップ、はたまたマヨちゃんの食べかけのパンでも上手くいった。

 ちなみに外れセーフの場合には、まるでハチミツみたいな甘い味がする。……決して変態じゃないからね? 仕方なく間接キスやってるんだからねっ⁉︎


 ただ、応用力が高そうなこの能力にも大きな欠点がある。それは、使う前に呪文スペルを唱える必要があるということだ。具体的には【アナライズ】の能力を使う前に『いただきます』と口にする必要がある。

 ……意味わからないだろう? 俺も最初に能力の説明を聞いたとき、なんの冗談かと思ったもんだ。実際、口に出すには最低最悪な呪文だよな。もし誰かに聞かれたらぜったいに変態だと思われるよ。


 呪文については一応【G】に抗議したんだけど、他に提案された呪文スペル候補がより酷かったので、仕方なくこいつを受け入れることにしたんだ。

 だってさ、他の候補が『我、君を食す』とか『汝の味、確認するもの』とか『ペロリンキュー』とかなんだよ? さすがに論外でしょうよ?


 ……そんなわけで、必ず直前に呪文を唱える必要があることから、いつでもどこでもだれにでも『間接キス』による経口摂取が出来るわけじゃなかった。だから調査についてはおのずと牛歩になってしまっていた。

 たとえば羽子ちゃんのときは、飲みかけのジュースを奪い取ったりして成功していた。いおりんの場合は、カラオケボックスで席を外したスキにコップの縁を舐めたりしていた。実にリスキーな手段だったけど、他に手がないから仕方がない。


 現時点で調査が完了しているのは、羽子ちゃんやいおりん、布衣ちゃんや一二三トリオたちなど、比較的身近にいる数人のみ。隙を見つけて試してはいたものの、当然のことながら全員セーフ。進捗としては思わしくなかったんだ。



 ◇◇◇



「どうしたんですか、あかるさん? ぼーっとして」

「んあっ⁉︎」


 おっといかん、昼食中にも考えごとをしていたみたいだ。羽子ちゃんに注意されて、すぐに現実に引き戻ってくる。


「うははっ、なんでもないよ。ちょっと考えごとしてただけだから」

「……大丈夫ですか?」


 そう言いながら羽子ちゃんは心配そうな眼差しでぐいっと俺に近づいてくる。ボリューム感のある胸が俺の腕に触れる。おいおい、当たってんよっ⁉︎

 ここ一ヶ月強で羽子ちゃんは一気に可愛くなった。その原因を作ったのはもちろん俺なわけで、実験的な要素も込めて色々なメイクを施したりした結果、立派な可愛子ちゃんが出来上がってしまった。

 俺的には可愛くなった羽子ちゃんがこうやって無防備に触れ合ってくれるのは嬉しい限りなんだけど、やっぱりなんか照れちゃうんだよねー。思わずドキッとして顔を逸らしてしまう。


「あかるさん……」

「は、羽子ちゃん? か、かおが近いよっ⁉︎」

「もし心配ごととかがあったら、相談してくださいね? わたしなんかじゃあかるさんの力にもならないかもしれないけど……」


 ずくん。そのとき、お腹の奥の方が僅かに疼いた。なんだ、この痛みは? 腹痛⁉︎ ちょっと違う気はするけど……。

 でも今はそんなことを気にしている場合じゃない。健気な様子で俺のことを心配してくれる羽子ちゃんの頭を優しく撫でると、俺は彼女を安心させるような口調でお礼を言った。


「ありがとう羽子ちゃん、心配してくれて。でも私は大丈夫だよ?」

「そう、ですか。よかった。わたし、ときどきあかるさんがわたしたちの知らない何かと戦ってるように感じられて、不安に駆られるんです」

「あ、あははっ! なにそれ、私はアニメの『美少女勇者セーラーエンジェル』かなにかなの?」

「そ、そうですよねぇ。そんな訳ないですよね。最近読んでる本の影響かな?」


 そう言いながら羽子ちゃんが見せてくれたのは『異世界戦隊ピンクとホワイトの百合事情』という、これまたマニアックなジャンルのライトノベルだった。なんだその題名はっ⁉︎


 ……それにしても羽子ちゃんの直感は侮れないなぁ。さりげなく核心をついているところがまた恐ろしい。これまで以上に注意しないとな。


「あ、このサンドイッチ美味しそうだね。いらないならいただきまーす・・・・・・・

「あ、それはわたしの食べかけ……」

「モグモグ。うーん、甘〜い!」

「な、なんでハムサンドが甘いんですかっ」


 羽子ちゃんは照れた様子でそう言ったけど、さりげなく【アナライズ】の能力を使いながら食べた羽子ちゃんの食べかけのハムサンドは、採れたてのハチミツみたいな甘い味がしたんだ。



 ◇◇◇



 放課後、今日はいおりんと約束していたので街でショッピングだ。制服姿のまま五つほど離れた駅に向かい、駅前の変な銅像の前で待っていると、可憐な美少女がこちらに向けて手を振りながら駆け寄ってきた。

 栗色の髪を揺らしながら、大きな瞳に満面の笑みを浮かべて近寄ってくるこの美少女は、言わずもがな……女装した・・・・汐伊織いおりんだ。


「おまたせー、待った?」

「ううん、そうでも無いよ。それにしても相変わらず凄い美少女っぷりだね」

「あははっ、アカルちゃんには敵わないよ」


 そうは言うものの、横を通り過ぎていく人たちはチラチラといおりんに視線を向けていた。だっていおりんってば、どこからどう見ても可愛らしい美少女だったんだもん。こいつが男だってわかってても、ふとした仕草でドキドキしてしまう。……って、あれ? なんかそれはそれで変だよなぁ。うーん、まいっか。


「さて、それじゃいこっか。あっちに新しいショップがオープンしたらしいから行ってみたいんだ。いいよね?」

「はいはい、ついて行くよ……うっ⁉︎」


 ずくん。またお腹が疼いた。

 なんだろうこれ、腹壊したかな? アカルママのお弁当に変なものが入ってたのかな? ただこの腹痛は、これまで経験のある腹痛とも違う気がする。なんとなく下腹が痛いというかなんというか……。


「どしたの、アカルちゃん?」

「んーん、なんでもない。大丈夫だよ」


 いおりんにすぐそう答えると、気を取り直して二人でウインドウショッピングに出かけたんだ。





 いおりんが行きたいと言っていたのは、ファンシーショップという、いわゆる雑貨店だ。可愛らしかったりマニアックだったりする数々のアイテムを取り揃えており、若い女の子の客で店内は溢れかえっていた。


「あー、これかわいい! どうかな?」

「そうだねー、かわいいねー」


 そうやっていおりんが嬉々として可愛らしいアイテムを眺めている様子を、俺は少し距離を置いて眺めている。いやー、デートしてるときの男の立場ってこんな感じだよなー。きゃいきゃい言いながら買い物している彼女に、「おいおい、早くしろよー」的な感じで眺めている彼氏って感じ? 実際俺は中身は男だし、今のいおりんなんてそこいらの女の子よりも遥かに可愛らしいしね。

 最初の瞬間こそいおりんの女装姿に戸惑ったものの、よくよく考えたら俺自身も似たようなもんだし、なによりいおりんはびっくりするくらいの美少女に変身するもんだから、なんかすんなりと受け入れちゃったんだよねー。

 んまぁ、こうやって美少女とのデート気分を満喫できてるから良いんだけどね。……なんか間違ってるような気がするけど、細かいことは気にしないことにする。



 とりあえず羽子ちゃんとマヨちゃんにプレゼントする用に可愛らしい小物を買ったりしたんだけど、すぐに手持ち無沙汰になってしまったのでスマホを取り出す。

 立ち上げるのはもちろん【Gテレパス】だ。ちなみに今の俺のミッション達成状況はこのようになっていた。


 --


 第一ミッション:【アカルを可愛くすること】

 …進行率:78%

 bonus:『人助けをする』

 第二ミッション:【アカルの学力を落とさずに過ごす】

 …進行率:13%

 bonus:『学校に協力する』

 第三ミッション:【アカルの友達を作る】

 …進行率:100% complete‼︎

 第四ミッション:【″魔王″を探す協力をする】

 …進行率:6%

 第五ミッション:不明

 --


 第一ミッションの【可愛くなる】は、『人助け』関係のボーナスで上がってるけど、100%に近づくにつれ上昇率が鈍くなってる気がする。

 一方、第二ミッションの【学力】のほうは……あーあ、今朝ガッくんとやりあったせいか、また下がってるよ。くっそー、これなかなか上がらないな。この一カ月以上ほとんど変化なしだよ。

 このミッションについては、普通に勉強しててもなかなか上がらないってのもあるんだけど、本来であればボーナスであるはずの『学校のために協力する』っていうのがくせもので、『学校に協力してない』と見なされると逆に下がってしまうんだ。つまり、現状ではボーナスがむしろペナルティになっちまってる状態なのだ。トホホ……。

 一応ダメ元で【G】に抗議したんだけど、『それはお前が悪い』と一蹴されてしまった。クソッ、応用の効かないやつめ!


 あーあ、こんな調子でいつになったらミッションクリアできるのかなぁ。


「おまたせアカルちゃん! じゃあ次いこっか」

「はいはいー」


 いおりんに声をかけられて、店の外に出る。どうやらいおりんはまだまだお店を回るつもりみたいだ。ふぅー、女の子とのショッピングは大変だよ。

 ずくん。また下腹が疼いた。あーくそ、やっぱお腹痛いな。なんだかなぁもう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ