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30.ザ・リアル

 梅雨前の晴れ間、というのだろうか。日差しは初夏のような強さをもって教室の中に差し込んできており、俺は窓から見える眩いばかりの外の景色を、目を細めながら眺めていた。


 気がつくと、俺がアカルちゃんになってから既に一ヶ月以上経過していた。

 もちろん、これまで平凡に過ぎ去っていったわけではない。むしろ最初の激動の二週間が遠い過去の出来事に思えるくらいたくさんのことがあった。


 その中でもやはり最初に語るべきは、ミッションクリアによる【G】からの報酬および記憶の一部開放とごく僅かな……だけど重大な秘密の開示。そして、新たなるミッションの提示だった。



 ◇◇◇



 いおりんのカミングアウトをもって最初のミッション「友達を作る」をクリアしたあと、待ち構えていた俺にようやく【G】からの連絡が届いたのは、その日の夜の0時を少し回ったときだった。ピンピロリーン。相変わらず間抜けな音がスマホから鳴り響く。


『ミッションを一つクリアしたようだな。おめでとう』

「ったく、連絡が遅いんだよ。早くミッションクリアの報酬をくれよ!」


 散々待たされたので対応が雑になってしまうのは仕方ないと思う。

 だってさ、せっかくミッションクリアしたってのに、【Gテレパス】の表示に『第三ミッションの達成度が100%に到達しました』って文字が表示されるだけで、他になにも変化がないんだよ? こっちから連絡を取る手段もないわけだし、そりゃあモヤモヤもイライラもするよな? ピロリロリーン。


『連絡が遅くなってすまなかった。少し会議が長引いてな』


 へー、こいつらも会議とかしてるんだ。ってことは、やっぱりこいつ一人の単独犯ってわけじゃないんだな。犯人は複数犯、と。メモメモ。ペンペロリーン。


『君と色々と話したいことがあるのだが、この【Gコール】の機能では不便だ。だから新たに追加された機能を使おうと思う。これからアプリケーションをバージョンアップするから【同意】してくれないか』


 ……は? バージョンアップ?

 意味がわからずに戸惑ってると、スマホの画面に『アプリケーション【Gテレパス】のバージョンアップを行いますか?』というポップアップが表示された。思わず反射的に『NO』の方のボタンを押してしまう。うひゃっ。


 そしたら即座にデロレロレロレロっていう不気味な音と共に【G】からのメッセージが届いた。


『おい貴様、なに拒否している? 話が進まないだろうが?』

「す、すまん。つい押してしまったんだ。マジごめん、許して?」


 ……デッデロデロレーン。

『もう一度送る。今度拒否したらどうなるか、分かっているよな?』


 やっべ、こいつマジギレしてるよ。

 これまでと別人のような文面にドン引きしてると、再びさっきと同じポップアップが表示される。

 さすがにもう一度拒否する勇気はないのですぐに『YES』のボタンを押す。なんとなく権力に負けたような気分なんだけど、仕方ないよね? だってさ、激怒している【G】さんの様子から見て、もう一回拒否するとさすがにシャレにならなそうなんだもん。問答無用にオークの餌食なんてイヤだしさ。


 アプリのロゴが暗転した後、しばらくして【Gテレパス】の表示が少しだけ変化する。お、どうやらアップデート終わったみたいだな。

 さっそくアプリを立ち上げて確認してみると、一つなにやら機能が増えていた。


「えーっと、【Gスピーク】? なんだこれ」


 そのとき、テッテレーン。という着信音と共に、画面に『【G】からテレビ電話を着信しています』という文字が表示された。テ、テレビ電話だぁ? 慌てて『受信』ボタンを押すと、画面が瞬時に切り替わる。


 画面に映し出されたのは、目元と鼻までを覆う仮面マスクを身に着けた女性へんじんの姿だった。しかもこの人物へんじん、異様なのはマスクだけじゃない。肩下まで延びる長いストレートな髪の色が、白と黒のストライプ模様なのだ。あー、もしかしてこの不審者は……。


『……どうやら成功したみたいだな。初めまして』


 落ち着いた、それでいて若い女性の声が画面の向こうから聞こえてくる。間違いない、やっぱりこいつは--。


「あんたもしかして、【G】か?」

『そうだ。【Gスピーク】はテレビ電話を可能とする機能だ。これで画面を通じての直接的な会話が可能となった』

「マジかよっ! すっごいな!」


 やはりテレビ電話の相手は【G】だった! しっかしテレビ電話機能なんてものをアプリに付けるなんて、こいつらすごい技術力を持ってるよなぁ。そんなことを思いながら、あらためて画面に映る女性の姿を確認する。


 初めて見る【G】は、事前の予想通り年若い女性だった。マスクのせいで顔はハッキリ分からないけど、アカルちゃんと同年代のように見える。……だけど、そんなことよりもはるかに気になることがある。俺は我慢できずに画面の向こうの【G】にツッコンだ。


「……なぁ【G】、いくらなんでもその格好は無いんじゃないの? 無機質なマスクに白黒ストライプの髪とかさ、アニメのキャラじゃないんだからさ!」

『し、失礼なことを言うな! こちらでは大変神聖な装いなのだぞ!』


 そう言われても、ねぇ? いきなりこんなあからさまに怪しい人物がテレビ電話に出たら、さすがに笑っちまうわ。


『……オホン、まあ良い。今日は伝えるべきことが多いから、この機能を使って直接話をさせてもらう』

「おお、いきなり本題来たか! さっそくだが、クリア報酬で俺の記憶を返してくれよ!」

『まぁ待て、物事には順序というものがある。そう焦らずに、少し私の話を聞いてもらいたい』


 ほぉー、珍しいな。こいつから語りだすくらいだから、きっと重要な話なんだろう。とりあえず居住まいを正して【G】の言葉を待つことにする。


『まずは祝いの言葉を述べさせてもらいたい。ミッションクリアおめでとう。正直なところ、こんなに早く君が最初のミッションをクリアするとは思っていなかった。そういう意味では、君は私たちの期待以上の活躍をしてくれていると言える』

「……そんな御託はどうでもいいからさ、早く肝心なところを話してくれよ。どうせここはゲームの世界なんだろ?」

『ゲームの世界?』

「ああ、俺は美少女育成シミュレーションゲームの世界に紛れ込んじまったんだろう?」


 --しばらくの沈黙。

 やがて【G】はあからさまに呆れた様子で「はぁ」と大きくため息をついた。


「……おいおい、なんでため息つくのさ?」

『なるほど、君はどうやら盛大な勘違いをしていたみたいだな。その誤解を解くためにも、まずは現状の君に許可されている範囲で情報を開示しようと思う』


 そうして【G】の口から語られたのは、予想だにしていなかった現状に関する説明だった。



 ◇◇◇



『まずはっきりと言っておくが、君がいる世界はまぎれもない【現実】だ。夢の中でもゲームの中でもない』

「なっ……」


 こうして【G】の話は、まずは俺の誤認アイデンティティの否定から始まった。


『そして、うすうす気づいているとは思うが、私たちは君のいる世界とは異なる世界の存在だ』

「じゃ、じゃあ【G】はもしかして……宇宙人⁉︎ いや、異世界人だっていうのか?」

『君の言葉の定義についての明言は避ける。だが君にとってその単語が一番しっくりくるというのなら、私たちのことを異世界人と呼ぶと良いだろう』


 異世界人--そんなもん、マンガやラノベの中にしかない存在だと思っていた。それがいま、この画面の中に存在しているという。そんなこと、本当にありえるのだろうか。


「そ、そしたらさ、あんたら異世界人は何のために俺にこうしてコンタクトを取ってるんだ? あ、もしかして俺が『日野宮あかる』の姿になっちまったのも、あんたらのせいなのか?」

『……そのあたりの事情はまだ、いまの君には・・・・・・話せない。申し訳ない』


 くっ、こいついつも肝心なところははぐらかしやがるな。だけどそれでも、たったいま得られた情報は重大だった。

 --この世界は紛れもない『現実』だった。これまでゲームの世界のだと思ってたのは、どうやら俺の盛大な勘違いだったってわけだ。そりゃそうだよなー、ゲームの世界になんて入れるわけないよな。勘違いしてたのは間抜けな話なんだけど、真実がわかっただけ良しとしよう。ポジティブシンキング、ばんざーい。


「……じゃあさ、俺に与えられているミッションってのは何なんだ? あれをクリアすれば現実世界に戻れると思ってたんだけど」

『このミッションというのは、簡単に言うと私たちから君に与えられた【試験】だ。君が信頼に足る存在かを確認するためのな』

「信頼……だって? ずいぶんと上から目線なんだなぁ」

『そう感じたのなら申し訳ない。だけどこんな手段を取ったとしても、君という存在が--私たちにとって真実を語っても問題ない相手なのかを判断したかったのだ。それだけ……私たちには慎重にならざるを得ない事情があった』

「それは、なぜ?」

『……その理由について、今はまだ語ることはできない』


 けっ、結局またそれかよ。俺が不貞腐れていると、【G】が僅かに雰囲気を和らげて語りかけてきた。


『そう怒らないでくれ。それに君は私達の期待に十分応えてくれていると判断している。だからこうして私も姿を出したんだ』

「……マスク着けてるくせに?」

『だ、だからこれは正装だと言っているだろう!』


 動揺する【G】の様子をよそに、俺は思考を巡らす。

 こいつが真実を言っている保証はない。だけど言ってることは筋が通ってる気がする。

 ただ理解できないのは、なぜ俺なのだということだ。ダメ元で確認してみると、案の定『その理由はいまは答えることはできない』と言われてしまった。チックショー。


 一人で悔しがっている俺を完全に無視して、画面の向こう側の【G】が俺に語りかけてきた。


『……さて、それではそろそろ本題に入ってもいいか?』

「へ? 本題? いまの話が本題だったんじゃないの?」

『これまで話していたのはあくまで【前提】もしくは【背景】に過ぎない。本題は……別にある。ある程度私たちの信頼を勝ち得た君に、改めて頼みたいことがあるのだ』

「へぇ……どんな頼みごと?」


 なんと、【G】が俺に頼みたいことがあるのだという。ろくな内容でないことは確かだが、聞かない手はない。貴重な情報収集タイムだ。

 促してみると、【G】は少しだけ躊躇しながら……頼みごとを口にした。


『君に頼みたいことというのはな。その……君に、この世界での【人探し】に協力してもらいたいのだ』


 【G】の口から語られた予想外の言葉に、俺は思わず目を見開いた。


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