25.黒幕との対峙
今日の空は快晴だった。
いつもより早く目覚ましをセットしていたので、余裕ある状態で目を覚ますことができた。窓を開けて心地よい春の空気を胸いっぱいに吸い込む。んー、気持ちのいい空気だ。
結局昨日の夜は、慌てふためく【G】のメッセージをよそに、適当に返事を返して会話を打ち切った。そして今日の『決戦』に備えて体調を整えるために早めに就寝したんだ。
顔を洗って念入りにメイクをする。昨日またいおりんに教わったテクニックを使って、アカルちゃんをより輝かしい美少女へと変貌させていく。
あー、俺って案外女の子を可愛くするのが好きみたいだ。とっておきの可愛い白の下着を履いて綺麗にアイロン掛けされた制服を身にまとううちに、改めてそんな思いを強くする。別に女装好きってわけじゃ無いんだけど、どうやら俺は女の子を可愛くすることにすごく楽しみを覚えるタイプだったみたいだ。実際昨日一丸さんたちを可愛くしてるときにもそんなこと思ってたし。
そういえばネカマやってたときもそんな感覚だったよなぁ。なんちゅうか、男どもを騙したいってのより、とにかくキャラを可愛くしたかったんだよね。
すごく可愛くなった鏡に映る自分を見て、改めてそんな思いを強くしたんだ。
「おねーちゃん、今日は気合い入ってるね?」
「そう? ありがと」
出がけにマヨちゃんからそう言われて、嬉しくなって頭を軽く撫でた。そしたらマヨちゃんってば、顔を真っ赤にしながら最高の笑顔を見せてくれたんだ。
よーし、こんなに素敵な家族も居るんだ。気合い入れて頑張るぞー!
◇◇◇
「おはよう!」
教室に入ると、一斉にクラスメイトたちがこちらの方に視線を向けてくるのが分かった。その中に一丸さんたち三人の姿を発見する。
彼女たちは、昨日のメイクレッスンを経て見違えるように可愛らしくなっていた。それぞれが昨日教わったことを活かして、自分なりのアレンジを加えているみたいだ。いいよー、そういう向上心。俺は好きだな。
つい嬉しくなって、満面の笑みを浮かべながら三人のほうへと駆け寄る。若干戸惑ってる感があるけど、そんなの気にしない。
「うわー! 一丸さんそのルージュ似合ってるね!」
「ほ、ほんと?」
「二岡さんも、そのチーク可愛い! すこく愛らしい感じ!」
「や、やだもう!」
「三谷さんもやっぱりメイクすると変わるね! まるで別人みたい」
「そ、そんな……」
一通り声をかけたところで、心配そうにこちらを見ている羽子ちゃんにウインクを飛ばす。きっと優しい彼女のことだ、俺のことを心配してくれたんだろう。だけど安心してくれ、このとおり上手くいったからさ。
明らかにホッとした様子の羽子ちゃんを確認したところで、改めて一丸さんたち三人に向き直る。三人は少しオロオロしながらも、やはり昨日の一件が効いてか態度が違っていた。
三人を代表して、リーダー格の一丸さんが立ち上がる。
「あ、あのね日野宮さん。あたしたち、あのあと相談したんだけど……」
「ん?」
「その、あたしらに良くしてくれるのはすごく嬉しかったんだけど、やっぱりうちらは布衣のダチじゃん? だから、その……」
「うん、分かってるよ。だから今日はその件を片付けるよ」
「えっ⁉︎」「はぁ⁉︎」「んん⁉︎」
俺の返事に戸惑う三人に、ハッキリと宣言する。周りに聞こえるように、アカルがこれからやろうとしてることが、明確にみんなに伝わるように。
「私は今日、海堂さんと話をつける。だから、海堂さんが何組にいるのか、私に教えてくれないかな?」
一丸さんたちの表情が、一気に凍りつくのが分かった。
◇◇◇
それから放課後まで、俺はあえてなにも動かなかった。それは、一丸さんたちから海堂 布衣ちゃんのところにちゃんとさっきの話が伝わるようにするためだ。
昼休み。いつものように羽子ちゃんと食事をしてると、心配そうな表情の羽子ちゃんが俺に尋ねてきた。
「あの……あかる、さん。大丈夫なんですか?」
「ん? なにが?」
「その、海堂さんと決着をつけるって……」
いつも以上にまゆ毛をへの字にした羽子ちゃんが、とっても可愛く見える。ぬおー、羽子ちゃんにもメイクしてぇ! 湧き上がる欲望を抑えながら、羽子ちゃんに微笑み返す。
「心配してくれてありがと、羽子ちゃん。でも大丈夫。ちゃんとハッキリさせてくるからね」
「……っ⁉︎」
思わずマヨちゃんにしてあげたみたいに羽子ちゃんの頭を撫でると、彼女は顔を真っ赤にして横を向いてしまったんだ。あー、さすがに子ども扱いしすぎちゃったかな。
でも羽子ちゃんも地味に見えるけど、結構かわいいよな。おっぱいもデカいし。大事だからもう一回言う、おっぱいもデカいし。
よーし、この件が落ち着いたら、羽子ちゃんも変身させちゃうぞ!ヤッベー、何かイケナイ感覚が漲ってきたぜ!
◇◇◇
キーンコーン、カーンコーン。
終業のチャイムが鳴ったところで、俺はゆっくりと席を立つ。周りが一気にざわつくのが分かった。不穏な空気をあえて無視して、俺は海堂さんがいる2-Eの教室へと向かう。オドオドした表情の一丸さんたち一二三トリオがそのあとをついて来てるんだけど、あえて気にしない。
たどり着いた2-Eも、ちょうど終業したところだった。ザワザワと騒めく教室へと、迷うことなく突入する。
ガラガラ。ドアを開けた瞬間、教室に一気に沈黙が訪れた。こちらに向けられる様々な視線を無視して、俺は目的の人物を探す。
……いた。教室の一番後ろにいる、可憐な美少女。今日の話し相手、海堂 布衣ちゃんだ。他の生徒には目もくれず、一直線に向かっていく。
「……こんにちは、海堂さん」
「……日野宮さん」
「よかったら、これから少し時間を貰えないかな?」
俺の問いかけに、目の前に立つ可憐な美少女は氷のような表情を携えたまま頷いたんだ。
さーて、いよいよ決戦か。この子をどう料理しよっかな。
◇◇◇
俺と布衣ちゃんは、羽子ちゃんといつも昼ごはんを食べている裏庭へとやってきた。一丸さんたち一二三トリオや羽子ちゃん、さらにはいおりんやミカエル、それに他の野次馬たちが遠巻きに観察してるのがわかる。
あー、やっぱりみんな気になるんだろうな。とはいえ、あえてみんながこうするように仕向けたのは俺自身だしな。
そして、改めて目の前に対峙する布衣ちゃんへ視線を戻す。さすがに一年生の準ミスに選ばれただけあって、彼女は本当に可憐だった。
背が低くて守ってあげたいと思うほど華奢な身体。それでありながら、小さな顔に大きな瞳と整った顔立ち。己のことをよく分かってるのか、うっすらと成されたメイクも非の打ち所がない。アカルちゃんは少し気の強そうな美少女に見えるのに対して、彼女は守ってあげたくなるような可憐な美少女に見える。こんな美少女がウラではアカルちゃんのえげつない噂を流してたってんだから、ほんっと世も末だよな。
あ、そういえば【G】が【ステータス】を治したって言ってたな。試しに彼女に使ってみよう。
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【海堂 布衣】 女性。16歳。
摩利亞那高校の二年生。シュウくんの彼女。
去年の一年生の準・至高の一輪華。
シュウくんの一件で仲違いしてから、口をきいてないんだ。また以前のように仲良くしたいな。
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確かに文字化けは治っていた。同時に、これまで何らかの原因によって秘されていた情報が開示される。
あぁ、やっぱりアカルちゃんは布衣ちゃんのことを憎んでたり恨んでたりはしてないんだな。安堵すると同時に、これから自分がやろうとしていることに後押ししてもらったような気がした。気持ちが改まったところで布衣ちゃんに声をかける。
「海堂さん、ごめんね。わざわざ時間をとってもらって」
「それで……あたしに何の用?」
布衣ちゃんの俺を見る目は鋭い。だけど同時に違う光も感じることができた。これは……もしかして、怯えている?
「用ってわけじゃないけど、海堂さんとはキチンと話しておく必要があるなって思ってさ」
「……話?」
「うん。海堂さんには、私の変な噂を流して欲しくないんだ」
俺の言葉に、布衣ちゃんはハッと息を飲んだ。
まずは先制攻撃。こっちは全部知ってますよーってことを布衣ちゃんに開示することで相手の出鼻をくじく作戦だ。さーて、この美少女はどんな反応を返してくるかな?
「……瞳たちに聞いたわ。あなたが瞳たちをおかしくしたのね?」
癒し系の外見とは裏腹に、布衣ちゃんは俺の問いかけには答えず、可愛らしい瞳を鋭い眼光に変えて俺を睨みつけてきた。おー怖っ、美少女が怒るとこんな顔をするわけね。でもこの程度でこっちも攻撃の手を緩めるつもりはない。
「おかしくした? 別に仲良くなっただけなんだけどなぁ」
「……瞳たちが【READ】で言ってたわ。あなたに可愛くしてもらったってね。日野宮さんは本当は悪い人じゃないかも、とまで言ってたわ。あなたいったい何をしたの?」
えーっと、【READ】ってなんだ? あれか、【Gテレパス】みたいなメッセージアプリのことかな?
そんなことで戸惑っている間に、布衣ちゃんの態度が激変した。大きな瞳を零れ落ちそうなほど大きく見開いたかと思うと、俺に向かってこう絶叫してきたんだ。
「お願いっ! もう止めて! これ以上あたしから大切なものを奪おうとしないで! あたしにとってはシュウも、瞳たちも、大切な存在なのよっ!」
そして、そのまま大粒の涙を流しながら大泣きし始めたんだ。
……おいおい、なんだよこの反応。こんなの完全に想定外の反応なんですけど?
今度は俺が戸惑う番だった。目つきの鋭い俺の前で泣き崩れる美少女の姿に、周りの野次馬たちがざわめいているのが伝わってくる。
ま、まずい。これはどっからどう見ても俺のほうが悪役じゃないか。
どうやら出鼻を挫かれたのはこちらの方だったみたいだ。海堂布衣という美少女は、どうも俺が思っていた以上の強敵らしい。
こいつぁヤバいぜ! アカルちゃん大ピーンチ☆




