22.反撃開始⁉︎
いおりんにとあるお願いをして了解を得たりしていたら、あっという間に昼休みも終わってしまった。
そのあとも何事もなく午後の授業を受けてたんだけど、その間やはり一丸さんたちがこちらにちょっかいをかけてくることはなかった。
授業の間じゅう、俺はずっと羽子ちゃんから聞いた話について考えていた。
たしかに一丸さんたち一二三トリオがアカルちゃんに関する良くない噂を広げた張本人かもしれない。実際にそのせいでアカルがクラスで孤立したのかもしれない。
だけど正直なところ、俺には彼女たちを憎んだり恨む気持ちは全然なかったんだ。だってさ、一丸さんたちなんて噂話と恋バナが好きな普通の女子高生だよ? 別に悪意があって変な噂を広めたわけじゃないだろうしさ。
ただ……分からないのは、なぜこのタイミングで羽子ちゃんに釘を刺しに来たのか、だ。もし俺と羽子ちゃんを引き離そうとするなら他にもタイミングがあったと思う。
まぁそのあたりは妄想してても仕方ないから、本人たちに直接聞いちゃおうかな。
ってなわけで放課後。俺はさくら先生が立ち去ると同時に席を立つと、一丸さんたち三人の方にズカズカと歩み寄っていった。急に俺がやってきたので、三人の顔が一気に引き攣る。
「な、何の用? 日野宮さん」
「ねぇ一丸さん、二岡さん、三谷さん。これから私に時間を貰えないかな?」
「えっ……?」
「朝も言ったとおり、あなたたちに教えたいことがあるんだ」
ふと気がつくと、羽子ちゃんが心配そうな目でこちらのほうを見ていた。大丈夫だよ、羽子ちゃん。あとのことは俺に任せといてよ。軽くウインクを飛ばすと、羽子ちゃんは驚いたような表情を浮かべたんだ。
さーて、それではこれから俺なりの反撃を開始しますかね。
◇◇◇
案外素直に従って付いてくる三人を連れてきたのは、いつものカラオケボックスだった。怯えた表情を見せる三人を引き連れて、二階にある部屋に入る。
扉を開けると、部屋の中に待機していたのは汐伊織だ。
「えっ……いおりん?」「いおりくん、どうしてここに……?」「……ミホ、ビックリ」
「やぁみんな、お待ちしてたよ」
いったい何が起こっているのか理解できない、といった表情で俺の顔を見つめる三人。ふふふ、驚いたかい? わざわざ君たちのための『舞台』を用意してあげたんだからね?
そう。俺は昼休みにいおりんに声をかけて、一二三トリオの三人にメイクを教えたいから協力して欲しいってお願いしたんだ。
いおりんを連れて行けば、きっと一丸さんたちの誤解も解けるだろうし、それに……あんな『もったいないメイク』を変えさせることもできるんじゃないかって思ったんだ。まさに一石二鳥!
それこそが、今回の俺の作戦。名付けて『メイクで仲良くなって、変な誤解を解いちゃおう』作戦だ!
……ふふふっ、我ながら素晴らしい作戦だぜ。
「だから言ったよね? 私が汐くんから何を教わってるか教えてあげるってさ。ほーら、入って?」
俺に押し込まれるようにして、三人は戸惑いながらもカラオケボックスの席に着く。いおりんの前ではこの子たちも随分と素直だ。くくく、作戦の意図は見事にハマってるみたいだ。
「あの……これはどういうことなの?」
怯えた子犬みたいな表情で問いかけてくる一丸さん。おやおや、今朝の狂犬みたいな態度がウソみたいだ。普段いくら気の強そうな態度を取ってても、やっぱりこの子もただの普通の女の子なんだよなぁ。
「朝も言ったとおり、私は別に汐くんと特別な関係だったりはしないよ。私はね、ここで彼にメイクの仕方を教わってたんだ」
「う、うぇっ⁉︎ で、でもいおりんはもう自分からメイクはしないんじゃあ……」
ん? なんだその話は、初耳だぞ?
あれだけさんざん俺にメイクのお誘いをしてきたいおりんが、自分からメイクはしないだって? そりゃどんな冗談なのさ。
……あ。もしかしていおりんってば、この子らの相手するのが面倒だったから、適当なこと言って断ってたのかな? だとしたら、ずいぶんと変な断り方だよな。
「そうだよ、瞳ちゃん。たしかにボクはもう学校では誰にもメイクしないつもりだった。だけどね、その考えを覆す相手に出会ったんだ。それが……あかるちゃんさ」
「え、ええっ⁉︎」
おいおい、なんかこっちに勝手にボール振ってきやがったぞ。
「ボクはね、あのあかるちゃんが大きく変わろうとしていることに、すごく興味を持ったんだ。だから、そんなあかるちゃんの力になりたいと思って、ボクのほうから声をかけたんだよ」
「う、うそっ⁉︎ いおりくんのほうから⁇」
二岡さんの確認に、笑顔で頷くいおりん。
あー、なーるほどねぇ。こやつめ、俺が可愛くなろうと頑張ってることを理由にしやがったな。勝手に人のことをダシにしやがって……でもまぁ俺のほうこそいおりんを勝手に巻き込んだ張本人なんだから、あんま強くは言えないんだけどさ。
それにしても、やっぱモテるイケメンは適当な言い訳をでっち上げるのも上手だよなぁ。中身が男の俺でも「あれ? もしかして自分っていおりキュンに特別に思われちゃったりしてる⁉︎」って思わず胸が高鳴りそうだもん。
「さ、これで私たちに関する誤解は解けたかな?そしたらさ、せっかくだからみんなでメイクしようよ! 私が汐くんに教わったカワイイ感じのメイクを教えるからさ?」
「ふふっ。そしたらボクも、せっかくだからいま流行りのメイクの仕方とかアドバイスしよっかな?」
いおりんのアドバイスって言葉に、明らかに三人の反応が変わる。くくくっ、これこそが俺が期待していたいおりん効果だよ。実際いおりんは美少女と見紛うほどの可愛い系男子だし、なによりすごいメイク技術も持ってるしね。
一二三トリオも最初こそ不安げに互いの顔を見合わせていたものの、最後にはリーダー格である一丸さんがモジモジしながら口を開いた。
「い、いおりんがそう言うなら……」
その言葉を受けて、いおりんがいつもの天使の笑みを返すと、一丸さんたちの目が一発でハートに変わる。
くくっ、やっぱり最後の一押しは汐伊織に限るぜ。わざわざいおりんを巻き込んだ甲斐があったよ。
こうして、カラオケボックスでの即席メイク講座が開始されることになったんだ。
それにしても……まさか男の俺が女の子にメイクを教えることになるとは夢にも思わなかったよ。はははっ。
◇◇◇
それからは、狭いカラオケボックスの部屋の中で一丸さんたち三人と俺、それにいおりんの五人によるメイク会が開催された。男女比が1:4ってすごくね? 非モテ系からヘイトを集めるようなシチュエーションだよ。
ってか、そもそもメイク会に男が混じってるのがどうなんだって話なんだけど、この中で一番のメイク技術を持ってるのが男ってのは紛れも無い事実だし、なにより内面で見たときに一番イレギュラーなのは実はこの俺だったりするんだよなぁ……。
でも、今日のこの場をセットしたのは俺なんだ。せいいっぱい盛り上げるために頑張るぞッ!
「一丸さん、せっかく可愛いのにそんな派手なメイクしたらもったいないと思うんだよなぁ。これくらい薄めにしてみたら?」
「えっ⁉︎ そ、そう?」
「うん。あと二岡さんもアイシャドウを軽く入れたら、キュートな感じが強調されると思うよ?」
「あっ……ほ、ほんとに?」
「三谷さんも、せっかくだからこの機会にメイクしてみようよ! 絶対、可愛くなると思うからさ!」
「ふぇっ、でもミホは……」
「大丈夫だって! ねぇ汐くんもそう思うでしょ?」
俺の問いかけに、いおりんが苦笑いを浮かべながら微笑む。くっそー、こいつ。ひとがせっかく必死に盛り上げてるってのに、高みの見物しやがって。なにが悲しくて俺がメイクしながらキャッキャしなきゃなんないんだよ!
恨みを込めた目でいおりんを睨みつけてやったら、天使のように愛らしい笑みを返してきやがった。チッキショー、俺が男だったら絶対こいつのことぶっ叩いてんだけどなぁ。
いおりんのサポートもあって、一丸さんたち一二三トリオはメイクの指導をすることで格段に愛らしさが増したと思う。最初の緊張感はどこへやら、互いにキャッキャ言いあって盛り上がってる。ほんっと女の子って立ち直り早いよなぁ。
「はいっ! 完成だよ!」
「うっそ……」「わぁ……」「しゅ、しゅごい……」
三人同時に出来上がったメイクは、実によく一丸さんたちの愛らしさを強調していた。
気の強そうな一丸さんは優しそうに、おしゃべりな二岡さんは清楚に、そして化粧っ気のなかった三谷さんはお嬢様風に変身していた。
いやー、頑張ったよ俺。その分彼女たちもすごく喜んでくれてるみたいだ。お互いに「わー、イメージ別人なんだけどっ!」とか「なにこれあたし、めちゃモテじゃない⁉︎」とか「ミホ、プリンセスみたい」とか言って盛り上がってる。
正直メイクなんてどうだろなーって思ってたんだけど、こうやって綺麗になったところを見るとすごく嬉しい気分になるよ。いおりんがプロメイク師を目指してる気持ちがちょっとだけ分かったような気がするよ。
なーんて思ってたら、いおりんがニヤニヤしながら俺の顔を眺めていやがった。むーん、なんかいおりんを巻き込んだつもりが、こちらの方が巻き込まれたような気分だよ。ミイラ取りがミイラ、みたいな?
悔しかったからベロを出してやった。あっかんべーだ。そしたらいおりん、大爆笑。くそっ、いつか絶対ギャフンって言わせてやるんだからねっ!




