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20.大胆発言

 明けて翌日。今日からいよいよメイクしての登校開始だ。


 ちなみにいおりんは、昨日は俺でも出来そうな簡単なメイクの仕方を教えてくれた。なんでも初回は本気出し過ぎたらしく、あそこまでのメイクはそう簡単にできるようにならないらしい。

 そこで教わったのが、今回の『ナチュラルメイク』だ。

 我らが摩利亞那高校はお化粧禁止なんだけど、実は多くの生徒が軽くメイクをしている。これまでは知識がなくて気づかなかったんだけど、女の子たちはみんなけっこう努力してるみたいなんだ。


 そんな彼女たちがしているのが『ナチュラルメイク』っていうメイクの技術。こいつがまぁたいしたもので、先生にバレない程度にさりげなく、でも確実に可愛さがアップするのだ。

 よーし、ミッションクリアのためにも、まずはこのメイクが出来るようになるんだ。


 そんなわけでメイクしての初登校だったんだけど、なんとなーく周りの視線を集めてるような気がする。もしかして化粧がバレてるのかな? そ、そんなことないよね? 気のせいだよね⁉︎



 ◇◇◇



「おはようございまーす」


 ドアを開けて教室に入ると、俺が勝手に一二三ひふみトリオと名付けた例の女子三人組……一丸さん、二岡さん、三谷さんの三人が、羽子ちゃんの机の周りを囲んでいた。あー、もしかして昨日のつづきかな? ずいぶんと穏やかでない空気が流れているし、他のクラスメイトたちも遠巻きに様子を伺ってる感じだ。

 しかも、よく見ると一二三ひふみトリオの一人である二岡さんが、羽子ちゃんが大事にしている本を取り上げているところだった。おいおい、なんてことしてんだよっ!


「なにしてるのッ⁉︎」


 羽子ちゃんの愛読書といえば、「ガチムチ王子とメガネ従者」とかっていうトンデモナイやつだ。その本はダメだ! そいつは魔本……いや、本来であれば日の目をみるべきではない書物なんだよ!

 そう思ったら、とっさに声をかけてしまっていた。クラス中の注目が一気に自分に集まってくる。


 だってさ、あの本の中身は思いっきし『ボーイズラブ』な……しかもハードな感じのやつだよ? もし題名こいつがバレたら、羽子ちゃんはこの教室に居られなくなっちゃうかもしれないじゃないか。


「なによっ! 日野宮さん、あたしたちに何か言いたいことでもあるっての⁉︎」


 少し日焼けした肌にバッチリ派手めなメイクを施したリーダー格の一丸さんが、こっちに喰ってかかってくる。気になるのは……その厚手なメイク。おいおい、そんなにメイクしてたら先生にバレて怒られちゃうんじゃないか?


「あるよ。一丸さん、あなたのことが心配なんだ」

「……えっ⁉︎ あ、あたしのことがっ⁉︎」

「うん。そんな顔してたら、気にするに決まってるじゃないか」

「ふえっ⁉︎」


 そんな派手なメイクをしてたら、下手したら停学とかになっちゃう可能性だってあるんじゃないかな? 心配になって一丸さんのメイクをじっと確認しながらそう言うと、なぜか一丸さんは顔を真っ赤にして視線を逸らされてしまった。

 あらら、アカルちゃん目つきが鋭いから、睨んでると勘違いされちゃったかな? とりあえず微笑みかけておく。


 それにしても一丸さん、勿体無いメイクをしてるのなぁ。あんなにケバケバしくしたら老けて見えて、せっかくの若くてみずみずしい女子高生の魅力が半減だよ。

 そういう意味ではいおりんのメイク技術は凄い。彼の技術力の高さを改めて認識することができた。やっぱ彼、天才だ。あのメイク技術は絶対に手放せないぞ。


 ……っと、そんなことを考えてる場合じゃなかった。呆然とする一二三ひふみトリオの前に進み出ると、今度は二岡さんが握りしめている羽子ちゃんの本にそっと手を添える。その際、本を落とさないように優しく彼女の手を両手で包み込んだ。


「二岡さん、この本は明星さんの大切な本だよ。取り上げたりせずに、ちゃんと返してあげてね?」

「あうっ⁉︎」


 もしこの本の題名が白日の下に晒されたら、間違いなく悲劇が生まれてしまう。場合によっては二岡さんまでそっちの世界に堕ちてしまう……なんて事態も起こるかもしれない。そうなる前にブツを回収できてよかったよ。

 二岡さん、この本は素人が触れちゃいけないもんだぜ?


「はい、明星さん」

「あ、ありがとう……」


 本を羽子ちゃんに無事返すことができたので、ホッと胸をなでおろす。なんでこんな状況になったのかはわからないけど、とりあえずこれで「教室内で魔本が開放される」という最悪の事態は回避することができたぞ。


「な、なんであなたがしゃしゃり出てきますの⁉︎ あなたは関係ないでしょう⁉︎」


 と思ってたら、一二三トリオの三人目である三谷さんが声高らかに詰め寄ってきた。

 いやいや、関係大アリですよ。なにせ羽子ちゃんは、ミッションクリアのために欠かすことの出来ない俺の大事なメインターゲットなんだからね。


「関係あるよ、三谷さん。だって明星さんは、私にとって欠かすことの出来ない大切な存在だからね」


 そう言うと、その場にいた全員が顔を真っ赤にして俯いてしまった。おっと、今のセリフはさすがに青臭かったかな?

 でもさ、正直に「羽子ちゃんはミッションをクリアするための大事なターゲットなんです」なんてことは言えないから、オブラートに包んで「大事な友達だ」って答えたつもりだったんだけど……。


「そ、そもそもあんたはなんなのよ‼︎ いおりんにまで手を出して……」

「私が汐くんに手を出す? 」


 気を取り直した一丸さんが、今度は妙なことを言い始めた。はぁ? なんだそれ? 中身が男である俺がいおりんに手を出すなんて、天地がひっくり返ったって絶対にありえないんだけど? さすがにそいつは聞き捨てならないなぁ。


「一丸さん、それは無いよ。それに、どちらかと言えば私が手を出されてるほうなんだけどなぁ?」

「っ⁉︎⁉︎」


 俺の答えに周りがハッと息を飲む声が聞こえる。おっと、なんかへんな誤解させるような言い方しちゃったかな。いかんいかん、訂正しないと。


「あ、ゴメンゴメン。へんな意味じゃなくてさ、汐くんと私はあくまで利害関係が一致してるだけだから」

「な、なによそれ⁉︎ あ、あんたがそそのかしてるんじゃないの⁉︎」

「違うよ。汐くんは私の身体にしか興味なくて、私は彼の技術を求めてる。お互いの利害関係が一致しただけ。だから私たちの間には特別なものは何もないよ?」

「か、からだ……を、も、求めてっ⁉︎ ……利害関係が、一致……ですって⁉︎」


 あれれ? なんかへんなふうに勘違いしちゃってる?

 うーん、どうやら説明の仕方が悪かったみたいだ。だったら論より証拠。誤解を解くためにも、実際に俺がいおりんに教わってることをやってあげようかな。

 俺はリーダー格の一丸さんに近づくと、彼女の頬にそっと手を添える。


「よかったら、私が汐くんからどんなことを教わったか、あなたにしてあげようか?」

「ひ、ひぃぃ‼︎」


 そしたら……あらら、一丸さんてば腰を抜かしてしまったよ。しかも周りの男女問わず悲鳴みたいな声をあげてるし。なんでやねんッ‼︎


「はーいみなさん、騒がしいですよ! これからホームルームを始めるから席に着いてくださいね!」


 喧騒冷めやらぬなか、担任の佐久良さくら先生が到着して、混乱したこの場を無理やり収めてくれた。ふぃー、助かった。

 それにしてもこの状況は……とりあえず無事に問題解決したと判断していいんだよね? よねッ?



 ◇◇◇



 それから幸いにも、一二三ひふみトリオが俺や羽子ちゃんに絡んでくることはなかった。そのかわり、クラスメイトのほぼ全員が俺の方をチラ見してくるんだけど……なんでよ!


 そのまま昼休みを迎えたので、いつも通り羽子ちゃんを誘って外に出る。相変わらず教室中の視線を集めたんだけど、もう気にしていられないや。……ところでさ、なんで羽子ちゃんまで顔を真っ赤にして俯いてるの!



「あの……さっきはありがとうございました」


 いつものように昼食を食べていると、これまでほとんど自分から口を開くことのなかった羽子ちゃんが、初めてそう言ってきた。

 あー、やっぱり自分の趣味の本が教室のみんなの前でバラされるのはイヤだったんだろうなぁ。


「ううん、気にしないでいいよ。あたりまえのことをしたまでだし」

「あたりまえ……」

「うん。そんなことよりさ、あの三人組と明星さんは何があったの? 私に差し支えなければ教えて欲しいな」

「そ、それは……」


 なにやら言いにくそうにしている羽子ちゃん。あ、もしかしてあれかな。同じような(BL系大好きな)趣味の持ち主だったんだけど、なにかのきっかけで決裂した、とか?


「あ、言いにくかったら無理して言わなくていいよ?」

「あ、いえ、そう言うわけではないんですが……わたし、あの三人から日野宮さんと口を利かないように強く言われてたんです」

「えっ⁉︎」


 あ、あれれ⁇ なんか思ってたのと違う発言が羽子ちゃんの口から飛び出してきちゃったぞ⁉︎

 もしかして、俺が原因だったりするの⁉︎

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