1.目が覚めたらそこは
お待たせしました!
新作投稿します!
お気楽なお話になると思いますので、お付き合い頂けると嬉しいです(≧∇≦)
もし死んだなら、異世界に生まれ変わりたいなぁ。そんなことを漠然と思っていた。
魔法が使いたい。二刀流もアリだ。願わくばチートで無双であるのが望ましい。あ、ハーレムもちょっぴり憧れちゃったりするかも?
なんなら異世界じゃなくVRゲームの世界だってかまわない。ようはこの世界とは違う別の世界で、楽しいと思える人生を送れればそれでよかった。
いや違う。本当は……友達が欲しかったんだ。一緒に笑い、泣き、怒り、楽しむ友達が。
そんな寂しいことばかり考えていた俺なんだけど、どうやら本当に死んでしまった……のだと思う。
なぜはっきりとそう言いきれないのかというと、どうにもいまいち記憶があいまいだからだ。
かすかに残る俺の最後の記憶は、トラックに轢かれそうになる誰かの姿と、その誰かを救おうと道路に飛び出した自身の行動だ。本当にらしくないことをしたもんだ。
案の定そのあとは激しい衝撃があり、意識は闇の中に落ちていった。
あぁ、俺はこれで死んじゃうのかな。だったら神様、願わくば【異世界転生】をお願いします。できればチートとハーレム属性を付けてください。
そんな邪なことを願いながら、俺はそのまま……死んでしまったはずだった。
唐突に目を覚ますと、そこは真っ暗な場所だった。
いやちがう、ただ単に暗い部屋の中にいるだけだ。
ここは……どこなんだろう?
どうやら普通のベッドで寝ているみたいだ。ふかふかとしていて気持ちが良い。しかもなんだか良い匂いがする。
もしかして、うまいこと異世界にでも転生することが出来たりしちゃった!? いやいや、なんかのVRゲームの世界に潜り込んだ可能性だってある。一瞬だけ希望と期待が交錯して心の中をよぎる。
だけど、何かが違う。全身に妙な感覚があって、ベッドからゆっくりと身を起こしてみることにした。
うーん、暗くてよく見えない。ただうっすらと見える室内の様子は、どう見ても明らかにファンタジーの世界には思えなかった。
この感じは……普通に【現代の家の部屋】、だよなぁ。
もしかして俺はあの事故で生き残ってしまったのか?
でも薄暗い中にぼんやりと見える景色は、病室のように殺風景には見えなかった。どうやら普通の家の部屋みたいだ。記憶はハッキリしないものの、住み慣れた俺の部屋とも違ってるみたいだった。
いずれにせよ、ちゃんと確認してみないことにはわからない。
さっきから続く妙な胸騒ぎも消えないので、とりあえず明かりになりそうなものを探してみることにする。
えーっと、なんかないかな。おお、あった。枕の横には充電器に刺したままのスマートフォンが……って、スマホかよ!
これで、この世界が異世界なんかじゃなくて現代であることは確定してしまった。心の底からガッカリだよ。
っていうか、もしかして俺って寝ぼけてるだけだったりするのか?
とりあえずボタンを押して携帯の画面を明るくしてみる。花柄の可愛らしい待受が表示された。
あれ? 俺の携帯の待ち受けってこんな感じだったかな? そもそも絵柄に見覚えがないんだけどなぁ。
まぁいっか、いまはそんなことを考えている場合じゃないし。とにかく明かりをつけないことには何もわからない。どこかにスイッチが……あ、あった。
携帯のライトの機能を使って部屋の壁にあるスイッチを探し出すと、パチリと付けてみた。
すっと明かりが灯り、部屋の中を照らし出す。
まぶしさに一瞬目を細めるものの、すぐに目が慣れてきた。
俺の視界に映し出されたのは、これまで見たこともないような部屋の様子だった。
薄いピンク色をした、ふわふわのシングルベッド。枕にはふりふりのフリルや刺繍までしてある。
きれいに整理整頓された本棚。置いてあるのは……数学や英語の参考書? それに小説や漫画、ファッション雑誌らしきものが所狭しと格納されている。
ベッドの横には通学かばんらしき黒いカバンが置かれた机があった。いわゆる勉強机というよりも、シンプルなデスクに照明と本棚が置いてあるような感じだ。机の上に置いてあるのはノートと……メガネかな?
ベッドの反対側には、白い色をした四段ほどの収納タンスも置いてある。その上には、某遊園地で売っているくまやねこなどのぬいぐるみがいくつか置いてあった。
一通り室内を見回したあと、背筋に冷たいものが流れ落ちる。
……おかしい、俺は断じてこんな部屋に住んでないぞ。
なぜか記憶がはっきりとしないものの、間違いなくここは俺の部屋ではない。俺の部屋はもっとこう、男らしくゴミゴミしていたはずだ。
なのにこの部屋は……誰がどう見たって女の子の部屋だ。もちろん俺はこの部屋に見覚えなんてなかった。
もはや言うまでもないが、異世界に転生したというわけでもゲームの世界に入り込んだわけでも無さそうだ。おまけに病院ですらない。
なにより決定的だったのは、壁にかけてある制服だ。
どこからどう見ても、そいつは女子高生が着る学校の制服で間違いなかった。
いやいや、こんなものが部屋に置いてあるとかどう考えてもおかしいだろう。
たしかに俺は人並みにスケベだしエッチだし◯◯なビデオだって好きだ。でも、だからといって本物の制服を買ってしまうほどの趣味はなかったはずだ……と信じたい。
いや、あったかな? 覚えてないだけで、実はネット通販で買ってたとか?
でももし仮にあったとしても、俺には自分の部屋の壁に堂々と聖衣をかけておくほどの勇気も度胸もない。ないったらない。
いったいこれはどうなってるんだ?
ここがトラックに轢かれて入院していた病室とかだったらまだわかる。だけどこいつは明らかに誰かの部屋の中だ。
しかもここは……認めたくはないが、たぶん女子高生の部屋だろう。間違いなく俺の部屋じゃない。
もしかして酔っ払って女の子の部屋に泊まり込んじゃったりしたのか? しかも女子高生の実家に?
俺には実はそんな甲斐性があったのか? ……って、そんなわけないか。
だとすると、俺はいったいどうしちまったんだ? 俺はなんでこんな部屋で寝ていたんだ?
クソッ、記憶がモヤがかかったみたいにハッキリしない。思い出せ……俺は確かどこかの学校を卒業して、どこかで働いていたような普通の男だったはずだ。
うーん、ダメだ。まるで何かに邪魔されてるみたいに、自分のことを思い出そうとすると頭がモヤモヤする。
でもまぁどんなに考えても理由なんて思い浮かばないし、失われた記憶が戻ってくるわけでもない。とりあえず頭に血を巡らせてみようと軽く頭を振ってみる。
すると、ふぁさっと長い髪の毛が揺れた。ほんのりと良い香りが俺の鼻腔をくすぐる。
……ほうわぁっ!? 長い髪の毛?! いやいや、俺の髪の毛は短かったはずなんだけど!?
あわててベッドから立ち上がると、制服がかけられた壁にある全身を映す大きな姿見の鏡の前に立った。
鏡に映し出されたは……かわいらしいピンクのパジャマを着た、ちょっぴり寝癖の付いたままの女の子の姿だった。
「う、うそだろう?」
おまけに俺の口から思わず飛び出した声は……びっくりするくらいかわいらしい女の子の声だった。