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14.教えよっか?

 イッチニ、サンシ。うっわ、体柔らかっ!


 今日から美容とスタイル維持のために風呂上がりにストレッチを始めてみた。前にテレビでそういうのが良いってのを見た記憶があるからだ。


 そう思って実際にやってみたところ、アカルちゃんてばメッチャ体が柔らかいんだ。いまもほら、股割りしてるんだけど、胸が床に着くすぐそばまで体を前に倒すことができる。この調子でいくとカカト落としとか出来そうだ。いや、やんないけどね。

 男の頃は前屈で床に手がつかないくらい硬かった記憶があるんだけど、やっぱ女の子の身体って柔軟性が高いんだなぁ。


 ……あとついでに言うと、パジャマ姿でストレッチしてる女の子って、なんか唆るよね?


「おねーちゃん、なにしてるの?」

「え? ちょっとストレッチをね。美容と健康にいいんだってよ?」

「えーっ! だったらマヨちゃんもするぅ!」


 そんな感じで気がつくとマヨちゃんと一緒にストレッチすることになった。おやおや、マヨちゃんは身体がちょっと固いみたいだなぁ。お姉さんが背中を押してあげよう、ウヒヒッ。


「いたっ、いたたっ! おねーちゃん痛いよぉ〜」

「はいはい、我慢しなさい」

「裂けるぅ!壊れちゃうぅ!」

「こーら、誤解を招くような発言はしないの」


 そんな俺たち二人を、アカルママが笑顔で眺めながら食器を洗っていた。今日は残業なしで帰れたみたいで終始ご機嫌だ。晩ご飯も作ってくれて俺の手間も省けたし。

 それにしても、今日はGのやつオンラインにならないな。……あ、もしかして昨日責めたから、お化粧のこと調べてたりして⁉︎


 ちなみにマヨちゃんに対するおさわりに関しては、バッチリ『認識阻害』がかかっていました。風呂上がりのアカルパパにも無駄にモザイクがかかってたし、この辺の仕様はどうなってんだか……。まぁオヤジの大事なところなんて見たくもないけどさ。



 ◇◇◇



 結局昨日はGがオンラインになることはなかった。毎日夜に話せると勝手に思ってたから、まさか繋がらない日があるとは思ってなかったよ。


 今日も電車に揺られながら登校する。ガタンゴトンという揺れに身を委ねながら、外の景色をぼーっと眺めていたんだ。

 カバンの中にはアカル兄から貰った化粧品一式が入っていた。使い方が分からないから羽子ちゃんに聞いてみようと思って持ってきたんだ。正直羽子ちゃんは化粧をするようなタイプには見えないんだけど、話のネタになれば良いなって思ってさ。


 とりあえず試しに貰ったいくつかの化粧品のうちの一つを取り出してみる。ファ…ファンデーション? なんか聞いたことがあるな。ファン感謝デーだったらわかるんだけどなぁ。


「うわー、すごいね。これスターリィプリンセスの新作じゃない」

「うわぁっ⁉︎」


 突然背後から声をかけられて、思わず声を上げてしまった。驚いて振りかえると、天使のルックスを持った可愛らしいイケメンが立っていた。『姫王子』うしお 伊織いおりだ。


「お、はよう汐くん。汐くんも電車通学なんだ?」

「そうだよ。あれ? 知らなかったっけ」


 目の前の『姫王子』いおりんが小首を傾げる。その仕草がいちいち可愛らしい。

 ……っと、いかんいかん。疑問を持たれるような発言は慎まないとな。


「スターリィプリンセスってけっこう高いのに、あかるちゃんはこんなの使ってるんだ?」

「え? そ、そうなの? これ兄に貰ったんだ。よかったら見てみる?」

「うん。見せて見せて‼︎」


 適当に言ったのに予想以上に食いついてきた。いおりんは俺から化粧品一式を奪い取ると、まるでオモチャを与えられた子供みたいに目をキラキラさせながら中身を確認し始めた。


「うっわ、これゲミンガピンクのルージュまで入ってるじゃん‼︎ これ限定カラーで入手困難なんだよ? あかるちゃんのお兄さんはどうやってこれを手に入れたんだろう?」

「なんでも女の子に贈ろうとして買ったんだけど、フラれちゃったんだって」

「あらら、それは残念だったね。でもきっとお兄さんはこれを手に入れるのにずいぶん苦労したと思うよ?」

「そ、そうなんだ。でも私、そういうの詳しくなくて。それに使い方もよく分からないし……」

「えっ⁉︎ そうなの?」


 いおりんの目が驚きに見開かれる。どうもすいませんねぇ、女の子の化粧の仕方とか知らなくて。


 そりゃまあ口紅くらい知ってるけどさ。昨日こっそり部屋で塗ってみたら、大口のオバケになっちまったのは悲しい思い出さ……。

 だってさ、化粧なんてちょいちょいーとなんかして、ぐりぐり〜と口紅つけたら終わりじゃないのかよ!


「ねぇあかるちゃん、よかったらボクがあかるちゃんにお化粧してあげよっか?」

「えっ⁉︎」


 予想外の申し出。俺が求めてやまない魅力的な提案が、まさか男であるいおりんからなされるとは思ってなかった。そもそも俺がこの化粧品をカバンに入れてたのは、羽子ちゃんが使い方を知らないか聞くつもりだったのだから、彼の提案は本当に棚からぼた餅だった。


 でも、男に化粧などできるものなのだろうか。

 たしかにいおりんは『姫王子』の呼び名に違わず、女の子と見まごうような可愛らしいルックスの持ち主だ。身長はアカルちゃんと同じくらい。小顔で長いまつげ、少し厚めな唇は女の子と言われてもまったく違和感がない。

 とはいえ、彼が女の子のように見えることと女の子のすることが出来るかはまた別だ。実際俺にはまったく出来なかったし、記憶の中に化粧のできる男なんていない。

 あーでも、もしかしたら今どきの男の子は化粧とかするのかもしれないな。


 そんな感じで戸惑っているうちに、電車は学校のある駅に着いていた。こちらの戸惑いに気づいてか、いおりんは化粧品一式を返却してくると、「まぁすぐに決めなくてもいいよ。前向きに検討しててねっ!」と可愛らしくウインクしながら先に降りていったんだ。


 いおりんに遅れて改札を出ると、すでにいおりんは他の女生徒たちに囲まれていた。彼の近くにはキングダムカルテットの面々の姿も見える。

 やがて彼らは大名行列みたいな感じで登校を始めた。


 ふーっ、なんかイケメン相手にするのは疲れるよな。



 ◇◇◇



 昼休み、今日も羽子ちゃんと昼食だ。昨日と同じ秘密の場所で昼食を取る二人。ムシャムシャ、モグモグ。んー、相変わらず会話が無いぜ。

 羽子ちゃんは自分からは話しかけてこないタイプなので、とりあえずこっちからネタを振ってみることにした。


「ねぇ明星さん、いつもどんな本を読んでるの?」

「ふぇっ⁉︎ あ、その……たいした本じゃないです」


 恥ずかしそうにモジモジとそう言うと、そのまま俯いてしまった。

 あれかな? ラノベとか読んでて言うのが恥ずかしいタイプなのかな。そんなに照れなくても良いのにね。ラノベだったらこっちも好きだし、ネタ的には盛り上がれると思うんだけどなぁ。ま、無理強いしても仕方ないから追求はしないけどさ。


「そっかぁ。じゃあさ、明星さんはお化粧とかする?」

「お化粧っ⁉︎ そんなのわたし、したことないから……」

「そっか、じゃあこの化粧品とか知ってる? なんだか有名なブランドらしいんだけど」

「ご、ごめんなさい。わたしそういうのに詳しくなくて……」


 んー、やっぱり知らなかったかぁ。まあ羽子ちゃんのタイプからしてそうだと思ったけどさ。

 こりゃ本格的に『姫王子』に頼らなきゃいけなくなりそうだな。イケメンとはあんま関わりたくないんだけどなぁ。かといえ他に聞けそうな相手はいないし、背に腹は変えれないかな?かなかな?


 パサッ「あっ!」

 そのとき、羽子ちゃんがお弁当と一緒に持っていた本を地面に落とした。ブックカバーが外れて表紙が露わになる。

 ようやく日の目をみた羽子ちゃんの愛読書の表紙に描かれていたのは、いかにもラノベとか少女マンガ風のイラストの男二人だった。なーんだ、やっぱりラノベじゃんか。どれどれ題名は……『ガチムチ王子とメガネ従者の愛と肉欲の日々』……えっ?


 なんか奇妙な題名が見えたような気がしたんだけど、羽子ちゃんは普段のおっとりした様子とは別人のような素早さで本を回収してしまったので、再確認するヒマがなかった。


「……見ました?」

「へっ? なにを?」

「……いいえ、見てないならいいです」


 とっさにそう答えちゃったんだけど、俺は心臓のバクバクが止まらなかった。

 ……えーっと、見間違いだよね? きっと『イケメン王子とメガネ従者の勇気ある冒険の日々』とか、そんな題名だよね⁇


ミカエル「おっす、伊織。お前日野宮あかると話してなかったか?」

伊織「うん、話してたよ?ミカエルくんも気になる?」

ミカエル「気になるっつーか、あんだけ変わればさすがに目にはいんだろーが?」

シュウ「……」

額賀「おい、そんなことより遅刻するから早く行くぞ?」

ミカ&イオ「「はいはーい」」

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