13.接触開始!
翌日、いよいよターゲットである明星 羽子ちゃんへの接触を図ることにした。
改めて確認した羽子ちゃんは、背の低い女の子だった。たぶん150センチくらいかな?長い髪を分けていて、下の方をリボンで結んでいる。
メガネをかけてタレ目気味なことから大人しい小動物、といった感じの印象を受ける。だけど胸がでかい。大事だからもう一回言う。胸がでかいのだ。
……それが理由で彼女に声をかけるってわけじゃないんだけど、羽子ちゃんはなぜかいつも一人だった。念の為午前中も様子を伺ったものの、やはり彼女は誰とも話すことなく、休み時間も一人で読書したりしていたんだ。
よーし、これで羽子ちゃんがボッチであることの確認は取れたぞ。そしたらいよいよ、勇気を出してお友達作戦開始だ。
ようやく覚悟を決めたので、昼休みに入ったところで思い切って声をかけてみることにしたんだ。
「こ、こんにちわ、よ、よ、よかったら、わわ、わだしと」
い、いかん、カミカミだ。目の前に座るハコちゃんは呆然とした表情を浮かべてこっちを見つめている。
深呼吸をして気持ちを整えると、改めて声をかけた。
「こんにちわ、明星さん」
「ふぇ⁈」
「よ、よかったら私と一緒にご飯食べない?」
言ったー! 言ってやった! あまりの緊張に全身がプルプルするし、手のひらには変な汗が出てきてるけど、必死でこらえて祈るような気持ちで羽子ちゃんを見つめる。
すると羽子ちゃんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「……で……れば」
ん? なんだ? 声が小さくて聞こえないぞ?
ちゃんと声を拾うためにぐっと顔を近づけると、羽子ちゃんがさらに顔を真っ赤にして恥ずかしそうに顔を背けてしまった。あれれ、もしかしてすごい恥ずかしがり屋さんだったかな?
「ご、ごめんね明星さん。もし迷惑だったら……」
「い、いいえ! 迷惑なんかじゃないっ……です」
急にハッキリした声で返事をしてくれたものの、すぐにまた恥ずかしそうに俯いてしまう。あぁ、やっぱり羽子ちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだな。ま、でもいいか。これで『アカルちゃん友達百人作ろう計画』の第一歩は成功と言っても過言ではないだろう。
とりあえず了解は貰ったので、相変わらず顔を真っ赤にしたままの羽子ちゃんを連れて教室の外へと出たんだ。他のクラスメイトたちが驚きの表情でこっちを見てたけど、そんなの気にしないもんね! でも友達になりたいならいつでもウェルカムだからね?
◇◇◇
二人でやってきたのは、昨日俺が見つけた秘密の場所……っていうほどのものじゃないけど、人目につかない裏庭の一角だった。他の邪魔が入らないこの場所でお弁当を広げて食べることにする。
「いただきまーっす! あ、明星さんのお弁当はサンドイッチなんだ? 美味しそうだね?」
「はぃ、ぁの……その……うぅ」
「このヤマダのミートボール、私好きなんだよね〜。明星さんも一個食べる?」
「ぃ、ぃぃぇ……」
んー、やっぱり羽子ちゃんは大人しいなあ。しかも両手でモグモグとサンドイッチを食べる様子がリスみたいで可愛らしい。おお、もしかしてこれを世間では”萌え”と言うのだろうか。
「あ、あの……日野宮さん」
「ムグムグ、ん? なぁに?」
とりあえず一方的に羽子ちゃんに話しかけながらお弁当を食べていると、食事の手を止めた羽子ちゃんが初めて俺に声をかけてきた。ふむ、どうしたんだろう?
「ど、どうしてわたしに声をかけてきたんですか?」
「ほぇ?」
どうして? どうしてと問われても困ってしまう。まぁ気をてらった答えをしても仕方ないので、俺は素直に回答することにした。
「どうしてって、私、明星さんとお友達になりたいと思ったんだ」
「ふぇぇ⁉︎ わ、わたしと、ですかぁ⁉︎」
「うん、そうだけど……なんかヘンかなぁ?」
「変……ではないです。ですけど、その……」
なんだかモジモジしながら立ち上がる羽子ちゃん。どうした? トイレでも行きたいのか?
「わたっ、わたっ、わたしは……ふわぁっ⁉︎」
なにやら顔を真っ赤にしたままの羽子ちゃんが立ち上がろうとした、そのとき。バランスを崩して転びそうになった。あわてて彼女の身体を支えようと手を伸ばす。
ふにっ。
俺の手に、信じられないような極上の感触が伝わってきた。まるで極上の羽毛ぶとんのような柔らかな手触り。そして手にまとわりつくような重量感。
もしや、これは……夢にまで見た女の子の胸の感触じゃないですか⁉︎ うっひょー! 柔らけえっ!
どうやら俺の手は無意識に羽子ちゃんを支えようとして彼女の胸を掴んでいたようだ。
だが問題はそこじゃない。なぜか羽子ちゃんの胸の感触があるのだ!
「あわわッ⁉︎」
「あっ、ご、ごめんなさい」
慌てる俺になにを勘違いしたのか、羽子ちゃんが謝ってきた。俺はとりあえず彼女の胸から手を離すと、しっかりと立たせてあげる。
「だ、大丈夫? 明星さん」
「は、はい。すいません、わたしおっちょこちょいで……」
「う、ううん。ケガとか無いなら良かった」
なんとかそう答えたものの、俺の心臓はバクバクだった。なにせ、とてつもない『抜け穴』を見つけてしまったのだから。
どんな綿密なシステムにも起こりうる不具合。
ゲームなどにありがちなバグ。
どうやら俺にかけられた『認識阻害』は他人に対する触覚にまでは働かないらしい。これはもしかしたらとんでもないネタかもしれないな。
◇◇◇
結局羽子ちゃんとの昼食はそれでうやむやに解散となってしまった。でもまぁいい、色々と進展はあったのだから。
くくく、一緒にお弁当を食べるほど仲良くなったのだ。きっとミッションもすぐに達成できることだろう。あ、そういえばミッションの達成率はどうなってるんだ?
帰りの電車の中でふと気づいて【Gテレパス】を立ち上げてみる。ミッションの項目を見てみると……。
「第三ミッションの達成率……3%ぉ⁉︎ うっそ、なんで⁉︎」
思わず声が出てしまって、周りの乗客たちが一斉に俺の方に視線を向けてきた。
いけねっ。あわてて自分の口をふさぐと、周りに対して頭を下げる。
それにしても、あれだけがんばったってのにたったの3%かよ! これ、どんだけのことやれば100%になるのさ! もしや裸でくんずほぐれつでもやんないとダメだったりするのか? だとしたら俺は……。
……ハッ! いかんいかん、自暴自棄になってはいけない。
まだ友達作戦も始めたばかりじゃないか。それに一日で3%としたら、うまくいけば一ヶ月ちょいで達成ってことになるしな。
はぁ……ゲームクリアも楽じゃないぜ。
ガックリしながら電車を降りると、地元の駅で見たことのある人物の姿があった。
すらっと背の高い色黒のイケメンは……たしかキングダムカルテットの一人、火村 修司だ。『黒騎士』シュウとかいう厨二な二つ名が付いてたやつだ。
しかも黒騎士くんは女の子連れだった。彼女かな? 後ろ姿で顔はよく見えないけど、スタイルも良くてなにより美少女オーラを醸し出している。
あれだけのイケメンだ。きっと彼女もすっごい可愛いんだろうなぁ。可愛い子とイチャイチャできるなんて羨ましいなぁ。
クッソー、それにしても腹が立つ。
こちとら友達一人作るのに死ぬほど苦労してるってのによぉ。イケメンくんは可愛い彼女さんとイチャラブかよ! 世の中なんて不公平なんだよ! リア充なんてくたばっちまえ!
俺は心の中で呪いの言葉を吐きながら、どうやったらミッションの達成率を上げることができるのかに頭を悩ませてたんだ。
クラスメイト1「わぁ、日野宮さんと明星さんが出てったよ?」
クラスメイト2「なんだろう? もしかして告白⁉︎」
クラスメイト3「いやいや、あれじゃね? シメるとか」
クラスメイト4「なにいってんだか、お弁当持って行ったからお昼でしょ?」
クラスメイト1「なんというか、不思議な組み合わせの二人だけど、お似合いっちゃお似合いだよねぇ……」