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12.ロックオン

 へっへっへー。見つけちゃいましたよ、友達候補第一号を。

 その子の名前は【明星あけほし 羽子はこ】。アカルが在籍する2ーAのクラスメイトだ。

 明星羽子ちゃんは、メガネをかけて大人しめな印象を受ける、一言で言うと地味であまり目立たないタイプの女の子だ。羽子板はごいたみたいな名前といい、実に地味な感じの子である。


 なぜ彼女にロックオンしたのかというと、この羽子ちゃんが他の女の子たちと接することなく、いつも一人でぽつんと読書などをしていたからだ。入学式のときも誰とも話さずぼーっとしていたし、昼休みにも一人でご飯を食べているのを確認した。

 今日一日綿密に調査した結果、こう結論付けた。すなわち、彼女には友達がいないのだと。


 ふふふっ、だったらこのアカルちゃんが君の友達第一号になってあげようじゃないか! ぼっちは寂しいよ? だから仲良くしような? 俺はようやく見つけた足がかりに胸をワクワクさせながら帰路に着いたんだ。



 ◇◇◇



「おっ、日野宮あかるじゃねーか!」


 駅について電車に乗ろうとすると、ふいに声をかけられた。嫌な予感がして振り向いてみると、声をかけてきたのは金髪にチャラい格好をしたイケメンだった。


 こいつは確か……あぁそうだ、『堕天使』ミカエルくんだ。正式な名前は冥林めいばやし 美賀得みかえるだったかな。問答無用のキラキラネームの持ち主だ。彼はこんな名前でこれまで生きてきて恥ずかしく無かったのかな? いや、もしかしてそのせいでグレて金髪にしてしまったのかもしれない。だとしたらちょっと可哀想なやつなのかもしれないなぁ。


「さようなら、また明日。冥林くん」


 とはいえまともに相手するのは面倒くさかったので、とりあえず姫王子いおりんへの対応で手応えを得た手法である、笑みを浮かべながらサラッと受け流そう作戦を取ることにする。


「えっ? ちょ、おい! 帰るのかよっ! せっかくだからそこでオレとお茶しよーぜ」


 はぁ? なんだそれ。いったいいつの時代の口説き文句だよ。いくらなんでもいまどき「お茶しよう」は無いんじゃないかい?

 さりげなくお誘いをスルーして駅の改札を通ると、幸いにもミカエルくんはそれ以上追いかけて来ることはなかった。チラリと振り返ると、堕天使くんは他の友達らしき人となにやら会話を交わしていた。


 なんだよ、他に友達が居るんじゃないか。まったく、リア充はリア充同士で勝手に遊んでいて欲しいよ。こっちは自分のことで手一杯なんだからさ。



 ◇◇◇



 今日もアカルママは残業で遅くなるとのことだったので、この日はマヨちゃんと外食することにした。なにげに初めての私服での外出だ。


 ぶっちゃけどんな服を着て良いか分かんないから、収納ダンスの中から取り出した長袖のTシャツにパーカー、それと野球帽にジーンズというシンプルな格好にすることにした。ありきたりな格好なんだけど、スタイルの良いアカルちゃんが着るとほんっとに可愛く見える。


「今日はどこのお店に行く? デイリーズ? それともマイルドバーガー?」


 自分アカルと違って可愛らしいワンピースに着替えたマヨちゃんが嬉しそうに問いかけてくる。たぶん外食するのが嬉しいんだろうなぁ。なんか微笑ましいよ。


「マヨちゃんはどこ行きたいの?」

「ん〜、今日はデイリーズのハンバーグかなぁ」

「よしっ、じゃあそこにしよっか」

「うんっ!」


 そんなわけで二人仲良く近所のファミレスに行って、晩御飯を食べることにしたんだ。ちなみにマヨちゃんはハンバーグ、俺はグラタンにした。


 ……えっ? まるでデートみたいだって? 残念ながらそんな雰囲気は全くなかったよ。そりゃそうだ、二人は姉妹なんだから。


 食べながらマヨちゃんはずっとしゃべりっぱなしだった。なんでも気になる男子が学校に三人もいるらしい。マヨちゃん曰く「どれも一長一短なんだよねぇ」とのこと。はぁ、それは大変なことで。



 夕食後は二人でレンタルビデオや中古ゲームを扱っているツルヤにやってきた。ここでの俺の目的はエ⚫️ビデオのレンタル、などではなく、ゲームの販売コーナーだ。

 ……そう、俺はここに今のこの世界の元となったはずの『美少女育成シミュレーションゲーム』を探しに来たのだ。これこそが、わざわざ外食までした真の理由だった。断じて晩御飯を作るのが面倒くさくなったわけじゃないからねッ!


 マヨちゃんがビデオ探しに夢中になっている間に、ゲームコーナーに置かれたゲームを片っ端から調べていく。だけど、恋愛シミュレーションゲームや乙女系ゲームはたくさんあったものの、それっぽいゲームは残念ながら見つけることはできなかったんだ。

 というより、そもそも『美少女育成シミュレーションゲーム』というジャンル自体がほとんど存在していなかった。


 うーん、やっぱり簡単には見つからないか。もしかしたら家庭用ゲーム機のゲームじゃなくてパソコンゲームの方かもしれないな。

 今度時間があるときに一度パソコンゲームを多数取り揃えているようなお店に行く必要があるかもしれない。



 ◇◇◇



 帰宅して風呂から上がったあと、部屋に戻ってスマホを立ち上げるとGからのメッセージが届いていた。


『ミッションに進展がないようだが、大丈夫なのか?』

「大丈夫だ、問題ない」


 反射的にそう返事を返すものの、これが何のネタなのか思い出せない。何だったっけなぁ? 記憶封じの影響ってより、単なるド忘れな気がするけどさ。


『そうか、問題ないなら安心した。何か困ったことがあれば、制約に支障のない範囲であれば答えよう』


 ほほぅ、なんだか今日のGさんは随分と殊勝だな。そうだ、せっかくだからあのことを聞いてみるかな。


「なぁG。あなたはお化粧の仕方を知らないか? 知ってたら教えて欲しい」


 そうなのだ。俺は残念ながら化粧の仕方を知らない。これも記憶封鎖の問題ではなく、純粋に知らないんだ。いや、知ってたら怖いけどさ。


 しかも万能だと思ってた【ステータス】の能力をアカル兄に貰った化粧品に使ってみたところ、『アンノウン♪』というありがたい回答が返ってきた。

 なるほど、たしか【ステータス】はアカルちゃんが知っている情報しか表示されない仕様だったな。つまりこの回答は「アカル本人が化粧の仕方を知らない」ってことだな。

 ……まぁ元のアカルちゃんは、メガネ三つ編みのガリ勉さんだもんなぁ。お化粧のやり方を知らなくても仕方ないよなぁ。


 そんなわけでGに聞いてみたんだけど、しばらく待たされた挙句、返ってきたのはこんな返事だった。


『すまない。そちらについての知識は私も疎いのだ。力になれなくて申し訳ない』


 なんだよ、知らないのかよ。話し方的に女性だと思ってたんだけどなぁ。違ったか?

 もっともこいつもしょせんただのゲームマスターでしかないから、そういう情報は持ってないのかもしれないな。もともとあんまし期待はしてなかったけど、俺の中でのGの株は目下急下降中だ。


 あんたがしっかりしてくれないと、困るのはこっちなんだからな。頼むよぉ〜Gさんよぉ。

 携帯の向こうにいる相手に向かって悪態をつきながらメッセージを送った。


「俺は初めての女の子なんだから、いろいろ教えて欲しかったんだけどなぁ」

『面目ない。私の方でも可能な限り調べておくようにする』


 言葉少ななGからの返信に、少しだけ人間味のようなものを感じることができた。

 んー、ちょっと言い過ぎたかな? 数少ない味方でもあることだし、もう少し優しくしようかな。


 そんなことを考えながら、ベッドにぱたんと倒れこんだんだ。

ミカエル「ちっ、逃げられたか……」

友人A「おーいミカエル、どうしたんだ?」

ミカエル「あぁん? いや、いま日野宮アカルが居たから声をかけたんだが……」

友人B「えー⁉ ミカたんてば、あの地味っ子に興味があったの?」

ミカエル「いや、そういうわけじゃないんだが……まいっか。とりあえずカラオケでもいこーぜ‼」



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