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11.ハードモード

 ピリリリリッ。朝、目覚ましと同時に目を覚ました。

 目が覚めたら男に戻ってた! 全部夢だったんだ! ……なーんてことは一切なく無く、目が覚めても【日野宮あかり】のままだった。

 ちぇっ。もしかしたら夢じゃないかってちょっぴり期待してたんだけどなぁ。こいつはもういいかげん受け入れるしかなさそうだな。


 俺が【日野宮あかる】の身体になってから二日目の朝を迎えていた。

 昨日は色々と葛藤みたいなものがあったものの、Gとのやりとりである程度覚悟は決まっていた。なにせこの世界は『美少女育成シミュレーションゲーム』の世界なのだ。であれば、ある程度その事実を受け入れた上で、俺はゲームのプレイヤーになったつもりで生活していけば良いんじゃないかってね。

 そう、俺がイメージする【日野宮あかる】を演じればいいだけなんだ。


 改めて自分にそう言い聞かせると、ずいぶんと気が楽になったような気がする。よーし、さっそく鏡の前に立ってみるかな。ウホッ、めっちゃ可愛い美少女が立ってるぜ。

 改めてアカルちゃんって、マジで可愛いのよ。こんな子と毎日一緒にいることができるなんて、なんて素晴らしい日々なんだろう。

 ……そう思うことにする。思わないとやってらんないしさ。


「おはようございます。日野宮あかるです」


 声に出して挨拶をしてみる。うーん、ほんっと可愛い。むしゃぶりつきたくなるレベルだ。ちょっとつり上がった目が気の強そうに見えて、ちょびっと弱気な表情を見せるとグッとくる。そこがまたいい。たまんない。

 あと声もいい。落ち着いていて明瞭、歌なんか歌ったらすごくいい感じなんだろうな。


 そこまで確認してみて、なんとなくだが俺はどこかで女を演じたことがあるような記憶があることに気づいた。演劇とかそんな類じゃない。ゲーム……たぶんオンラインゲームかなにかでネカマをやってたような気がする。

 そうだ! そのときの感覚を思い出せば良いんだ。ここはゲームの世界、俺は乙女になりきるぞ。自己暗示をかけると、鏡の中に意志の強そうな表情を浮かべたアカルの姿が映し出されていた。





「おはよー、おねーちゃん」

「おはよう」


 軽く髪を整えて下に降りると、パジャマ姿のマヨちゃんが挨拶をしてくれた。その正面にはアカルパパの姿が。昨日と同じ状況だ。


「アカル、焼きそば作ってくれたんでしょ?ありがとう」

「あぁ、あれは美味かったぞ」


 どうやらアカルママとパパも特製焼きそばにお喜びのようだ。作った甲斐があったよ。やっぱ一人で作って食べるのはなんか寂しいもんな。ってあれ、俺って一人暮らししてたのかな?

 相変わらず昔のことを思い出そうとするとボンヤリする。この感覚とはしばらく付き合っていかなきゃいけないんだろうなぁ。


「どうしたの、おねーちゃん? ぼーっとしちゃって」

「ふぇっ⁉︎」


 いかんいかん、席に座ったまま考え事をしてたみたいだ。慌てて態度を改めると、アカルママ特製目玉焼きに箸をつけた。



 ◇◇◇



 ゴトゴトと揺れる電車に乗って今日も通学だ。なんとなくだけど、うちの高校の制服を着た生徒が昨日よりも多い気がする。


 ……あ、そういえば今日は入学式だった。ということは、たぶん新一年生が今日から登校開始してるんだろうな。初々しい様子の少年少女たちが落ち着かないようすで電車に乗る姿を、なんだか微笑ましい気持ちで眺めていた。

 そういや俺にもこんな時代があったよなぁ。ってか今がまさにそんな状況ではあるんだけどさ。


 ふと気がつくと、周りの視線を感じる。男だった頃には感じることがなかった視線だ。スキを見せて変な格好をしないように注意しながら電車に揺られていた。




 桜の花が舞い散る坂道を登ると、そこに『摩利亞那マリアナ高校』があった。今日は入学式なので、チラホラとスーツ姿の父母の姿も見ることができる。

 なるべく目立たないように校門をくぐろうとしたんだけど、なぜか妙に父母の方々の注目を浴びてる気がする。なんでだ?


「あっかるちゃん!」


 そのとき、ふいに後ろから肩を叩かれた。振り返るとそこには天使のように愛らしい笑顔を浮かべたイケメンが立っていた。こいつはたしか『姫王子』いおりんことうしお 伊織いおりだったっけな。

 さっそく朝から声をかけてくるなんて、さすがリア充のイケメンだよ。男の頃の俺には絶対にマネできない行動力だよな。


うしおくん。おはよう」


 とりあえず俺は無難に笑顔で返事を返す。相手がいくら名前で呼んできたからって反応しない。こちらは苗字で返すことでそれとなく距離感を醸し出す。

 ぶっちゃけ今の俺のミッションにこいつは不要なんだよ。だけど、別に無視することもないしな。

 従ってこんな反応になったわけなんだけど、姫王子の反応は予想外に良かった。


「ほんっとアカルちゃんってイメージ変わったよねぇ」

「そ、そう?」

「うん、だって以前のアカルちゃんだったら名前呼んだだけで睨みつけてきてたもん」


 ……おいおい、アカルちゃんってば一体どんな初期設定キャラづけなんだよ。名前呼ぶだけで睨みつけるとか、どんだけ野獣やねん。


「その……二年生になったし、イメチェンをしようと思って、ね?」

「うんうん、そのほうがいいと思う! ボクはずっとアカルちゃんは前々からポテンシャルがあると思ってたんだよ? でもどうせならお化粧した方がもっと良くなると思うんだけどねぇ~」


 あっ、そういやアカル兄に貰った化粧品一式のこと完全に忘れてたよ。とはいえ、どうせ化粧の仕方なんて分かんないんだけどさ。


 それにしてもこいつ、本当に馴れ馴れしいな。昨日といい今日といい、ズカズカと話しかけてきやがる。おかげで周りの女子たちが睨みつけてくる視線が痛い……。


「そ、そうだね。お化粧も勉強するようにするよ」

「本当? 困ったらボクが力になるからね?」


 おいおい、男がお化粧の力になるってどういう意味だよ? いくらなんでもその口説き文句には無茶があるんじゃないか?

 そう思ってたら、なにやら向こうの方の女子の集団に「いおりーん」と呼ばれ始めた。すると姫王子いおりんは「ゴメンっ、それじゃまたね!」と爽やかな笑みを残して去っていった。

 ふぅー、疲れた。まったく朝から迷惑なイケメンだよ。



 ◇◇◇



「おはようございます」


 ガラガラと扉を開けて教室に入ってすぐに、明るい声で挨拶をしてみる。帰ってきたのは無常なまでの沈黙だった。それでも顔に笑顔を浮かべたまま席に着く。


 ……ちょっと待てよ、なんなんだよこの沈黙はよっ! 絶対におかしいだろっ!

 絶対に表情に出さないようにしてたけど、俺は心の中でダラダラと冷や汗を流していた。


 昨日の時点では、単に【日野宮あかる】がものすごくイメチェンしてたから声をかけてこないのだと思ってた。だけどこの反応は違う。


 俺は認識を改めざるをえなかった。どうやら【日野宮あかる】は、クラスメイトから避けられてるみたいなのだッ!


 チラチラとこちらを伺う視線から察するに、どうやら女子の方がアカルと距離を置いているように見える。男子どもは興味津々にこちらを見ているんだけど、女子にビビって声をかけづらいみたいだ。


 ……ったく、どうやったらこんな状態になるんだよ? もしかしたらこれ、いきなりハードモードからのスタートだったりするの?


 どうやらこの世界ゲームは、【友達を作る】っていうミッションでさえ簡単にはクリアさせてくれないみたいだ。あまりの前途多難さに、昨晩の勢いはどこえやら、心の中で頭を抱えこんだんだ。


---《おまけ》---


女生徒1「いおりーん、もしかして日野宮さんと話してたの?」

伊織「うん。春休みでイメチェンしたんだって」

女生徒2「えー、あの子【あの事件】を起こした子でしょ? なのにどうして……」

伊織「あの事件? あぁ、あのことならボクらもシュウも何も気にしてないんだけどなぁ。でもさ、もしかしたらあかるちゃんはレーナちゃんやヌイちゃんみたいになるかもよ?」

女生徒たち「「えぇー⁉︎ うっそー⁉︎ ないない!」」

伊織「そうかなぁ……。まいっか、すぐにいろいろ動き出すと思うよ。ふふふっ」

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